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※完結後、ありがたいことにランキングに載せて頂いてます。たくさんの閲覧、本当にありがとうございます!
※12/26日間総合2位…?異世界恋愛1位…?何が起きてる…?
※ネトコン14入賞致しました。皆様のおかげです。本当にありがとうございました。
伏して感謝申し上げます。
誤字脱字報告も本当にありがとうございます。
※12/27 番外編アップしました。
「アメリアさん、箱はこれでいいかい?」
「ああ、十分です、ありがとうございます」
アメリア・ハーバーは白髪交じりの事務員から大きな空き箱を受け取った。
「いったい何に使うんだい」
「実はもうすぐ退職するので、荷物をまとめに。
お世話になりました」
事務員はしばし絶句する。
「そうかい、残念だよ。
アメリアさんの魔術はとても繊細で綺麗だったから。
元気でやってね」
「はい、お元気で」
アメリア・ハーバーは魔術師である。
一応国で一番大きな魔術師ギルドに常駐魔術師として属し、
日々依頼をこなしている。
箱を持ち自分のデスクに戻ろうと廊下を歩いていると、
スタッフルームから自分の噂話が聞こえてきて足を止めた。
「アメリアさん、退職するんですか?」
「…それは噂でしょ」
声の主は去年入職してきた若手の男性魔術師と、
自分の同期であるルーナの声だった。
「まあ正直、なんで今まで在籍できてたか不思議なくらいっすもんね」
「あのね、君はアメリアの魔術を見たことがないでしょう。
そんな言い方はないわ」
「見たことありますよ、あの味噌っかすみたいなやつ」
「今のじゃないわ。昔のよ」
「ああ、凄かったらしいですけどね。
今できないんじゃ意味ないでしょう。
このギルドは人気なんだから、
出来ない人は早く席を空けてもらわないと」
「できなくなったのはアメリアのせいじゃない!」
喧嘩になりそうだったので慌ててアメリアは部屋に入る。
ふたりは気まずそうに口を閉ざし、ルーナは立ち去った。
「すいません、聞こえてましたよね、今の」
若手魔術師はアメリアに声を掛ける。
「うん、ごめんね。
身の振り方は考えてるから」
「へえ、次の仕事を見つけたってことですか」
「そんなところ」
アメリアは将来を期待された魔術師であった。
豊富な魔力と繊細な魔力コントロールを武器に、
難しい依頼、特にヘタをすると周囲に損害が及ぶような依頼を得意としていた。
このギルドではほとんどの魔術師が『隊』と呼ばれるチームを組んで依頼を受けるが、
アメリアは多くの隊から欲しがられる有能な人材だったのだ。
しかし、あるきっかけを機に、
アメリアの魔力は激減することとなった。
持ち前の魔力コントロール力で何とか仕事ができる程度の技は使えているが、
このギルドでやっていくにはどうしても力不足となってしまったのだ。
今はもう、どの隊もアメリアを欲しがらない。
足手まといになることを自覚したアメリアは依頼の前線に出るのを辞し、
ギルドメンバーから雑用を引き受けて毎日を過ごしている。
退職まではまだしばらくある。
今日もアメリアは一人デスクに座り、日が暮れるのを待った。
「お疲れ様でした」
夕暮れ時、アメリアが退勤するのを見届けた後。
「…どうして、アメリアが退職しなければならないのよ」
ルーナはまだ怒りが冷めず、呟いた。
「僕も引き止めたんだけど」
偶然通りかかったのはギルド長のスウェイン卿だ。
「彼女の意思が固くてね」
「でも、アメリアには何の非もないのに」
「仕方がないさ。
これからはアメリアの本来の実力を知らない魔術師たちがどんどん増える。
彼らはアメリアを馬鹿にするかもしれない。
このままここにいるのも辛いだけだろう」
「ギルド長。
私、嫌になりそうです。
魔術師でいることも、女でいることも」
ルーナは悔しさに唇を噛んだ。
ーーーーーー
「ただいま、今日もありがとう!
マテオは?」
アメリアは魔術師ギルドから少し離れたアパルトメントに住んでいる。
訪れたのはオーナーの部屋だ。
「ああ、お帰りアメリア。
マテオなら奥で本を読んでいるよ」
「すっかり一人で読めるようになってしまったわね」
「本当に賢い子だよ」
オーナーの目配せで奥に入ると、
銀色の髪がさらさら流れる、ほっぺの丸い幼児が本を読んでいる。
「マテオ、ただいま」
弾かれるように顔をあげ、幼児はくしゃりと笑う。
「ママ、おかえり」
マテオはアメリアの、2歳になる息子である。
彼女の唯一の家族であり、彼女が魔力を失ったきっかけでもあった。
魔術師の女は、自らと同じく魔力の高い子を胎内に授かったとき、
その子に魔力を吸い取られることがある。
アメリアはマテオを懐妊すると同時に魔力が減り始め、
出産の際にさらにごっそりと持っていかれてしまったのだった。
マテオの父親とは結婚していない。
誰であるか公表もしていないため、ルーナなどはアメリアは質の悪い男に引っかかって捨てられたと思っているようだ。
仕事の間はオーナーが善意でマテオのお世話をしてくれている。
アメリアは必死で仕事を終わらせ、マテオの元へ走るのだ。
「さあ、帰りましょ」
アメリアは退職後、ふたつ隣の街に引っ越すことにしている。
田舎と都会のバランスの取れた街で、
マテオが育つのに良い環境をと考えに考えて決めた土地である。
今ほど高収入とは行かないだろうが、
小さな魔術事務所を構えて生計を立てるつもりで、
その街のギルドと話はついていた。
「もうすぐずっと一緒にいられるわよ」
「嬉しい、ママ、今日の晩御飯は?」
「大きな魚を蒸しましょう。
あとはトマトとブロッコリーね」
「マテオ、トマトきらい」
「頑張って食べましょうね」
小さな息子とふたりでご飯を食べ、
お風呂に入り、そして寄り添って眠る。
自分の力で生きて行くこと、
マテオを健康に育て上げること。
それだけが、アメリアの守りたい世界なのだった。
ーーーーーー
翌朝。
マテオをオーナーに預け出勤した先で、
部屋がわずかに騒がしいのに気付いた。
「どうかしたの?」
「ああ、おはようアメリア。
どうやら『蒼の隊』が帰ってくるらしい。
予定より随分早いだろう」
「それは…予定より数ヶ月も早いのでは」
「ああ、そうだ。
相変わらず仕事の早い男だ」
アメリアは生返事をして、今日もひとりぼっちで仕事にかかる。
隊編成が基本のこのギルドで、ギルド長のような管理職以外に単身で仕事にあたる者がアメリアを抜いて4人いる。飛び抜けて実力があり、複数人で行動することがむしろ失敗のリスクになるとして、単騎で『隊』の称号を与えられる英傑たちである。
『紅』『蒼』『金』『銀』と名付けられたその隊は、国を背負うような重大な任務にもあたる超エリートだ。
『蒼の隊』ことハルバート・イーヴランドはそのうちの一人。
優れた魔術師であり、貴族令息であり、アメリアの同期であった。
そして、
…アメリアの秘密の恋人、マテオの父親でもあった。
仕事の切れ間を見つけ、ギルド長室へ急ぐ。
「あの、ギルト長」
「おお、どうしたんだいアメリア」
「少々お話しても?」
「もちろん」
「実は、退職の時期を早めたくて」
「…それは、『蒼の隊』の帰還と関係するのかな」
「いいえ、私の都合です」
ギルド長はふむ、と片眉を上げた。
「どれくらい早めたいと?」
「できればすぐにでも」
「今抱えている仕事は大丈夫かい?」
「ええ、大丈夫です。
元々皆さんがお情けでくださっていた仕事なので」
「…そうかい。
それならば仕方がないね。
騒がしくなるだろうから言っておくが、
『蒼の隊』が帰って来るのは3日後だよ。
落ち着いている間に、親しい者に挨拶くらいはしていきなさい」
「…はい。
最後まで不義理をして申し訳ありません。
長い間、大変お世話になりました」
「ああ、こちらこそ今までありがとう。
最後の給料は以前もらった次の住所に送っておくよ」
「ありがとうございます」
「住所を誰かに漏らすことはないから、安心して」
ギルド長はそう言って、
面食らったような顔をするアメリアを見て笑った。
「アメリアは後ろめたい時に唇を触る癖があるね」
「…そうでしょうか」
「ああ。幸せになってくれよ、アメリア」
アメリアはいつもより集中して、今持っていた仕事を全て仕上げた。
そしてデスク周りの私物をまとめ、箱を抱えて帰宅した。
もう出勤しても仕事はなかったが、ギルド長の勧めに従い、翌日はお世話になった人への挨拶周りに当てた。
出勤して驚いたことに、アメリアは今日から遠方へ出張するということになっていた。
任期は未定となっている。
退職については掲示では伏せられているが、任務が終わり次第退職すると、職員に案内はあったようだ。
すぐにギルド長の配慮だと気付いた。
「アメリア、掲示見たわよ。
最後にちゃんと挨拶もさせてくれないなんて、
私ギルド長を恨みそう」
ルーナは嘆いている。
「ごめんね、急な話で」
「退職しても王都にいるんでしょう?」
「ううん、引っ越すつもりなの。
落ち着いたら手紙鳥を飛ばすね」
「そんな…。分かったわ、鳥を待ってる」
ギルドの魔術師たちは口々を別れを惜しんでくれ、餞別にと低い魔力でも発動できる魔法陣や、様々な魔道具をくれた。
開発部などは、新作の魔道具の試作品を山程くれた。
「アメリアさんに世話になった奴は多いんだ。
遠慮せず持っていってくれ」
「そうですそうです、ギルド長の横暴に負けないで」
「ありがとうございます、頂きます」
部署を回る度増える荷物に、アメリアはちょっと笑ってしまった。
こんな形になってしまったけれど、ここで頑張って良かったわ。
そう感傷に浸っていると、
昨日アメリアの噂話をしていた若手魔術師、キースが寄ってきた。
「アメリアさん、見ましたよ、掲示。
ギルド長も酷なことしますね」
言葉とはうらはらに、キースはニヤニヤと笑っている。
「どう見ても不自然な出張だ。
俺ね、理由なんとなく分かったんですよ」
聞きたいです?とさらにアメリアに詰め寄り、
聞いてもいないのに喋りだす。
「ほら、『蒼の隊』が帰ってくるでしょう。
噂通りならハルバート様は近々、貴族の姫とご結婚だ。
その結婚式に、あなたを出さないため王都から遠ざけた」
キースは続ける。
「同期なんですって?
『蒼の隊』にとっても汚点でしょうよ、
あなたのような同期は」
キースの物言いにスタッフルームの空気が張り詰める。
「このギルドはあなたに甘すぎると思ってましたが、
これでハッキリしましたね。
あなたはこのギルドにとっても、
『蒼の隊』にとってもお荷物だってことです」
せいぜい、あなたの魔力を奪ったガキと仲良く生きていってください。
我々の視界に入らないところでね。
そうキースは語り、
気分が良さそうに笑った。
『蒼の隊』の結婚式。
汚点となる不出来な同期。
ギルドの、彼のお荷物。
アメリアを傷つけるには充分な言葉の石礫が容赦なく心を打つ。
思わず下を向いてしまったアメリアを、キースは満足そうに見下ろしている。
「キース」
ギルド長の声がした。
「お前、憶測だけでよくそこまで人を貶められるな」
「憶測じゃないでしょ」
「いや、デタラメだ。
アメリアには彼女にしかできない仕事をしてもらう」
「そんな仕事ないでしょ、この無能に」
「…キース」
「な、なんですか、本当のことでしょ」
「キース、お前に処分を言い渡す。
謹慎2ヶ月。反省なければ解雇だ」
キースは激昂した。
「反省するところなんてないでしょ!
無能に無能って言って何が悪いんですか!」
するとベテランの魔術師、キースの所属する第3隊のリーダーが進み出る。
「じゃ俺も言わせてもらう。
お前正直あんまり実力ないし、
周りの言う事聞かないし、勝手な行動も多いし、
お前みたいな無能、俺の隊にはいらない」
「な…!」
「じゃ俺も」
開発部の長が進み出る。
「お前、魔道具の使い方荒くてすぐ壊すし、
その割に機能の要望多いし、なぜか開発部に高圧的だし、
お前みたいな無能、相手にしたくないね」
「無能無能って、言い過ぎじゃないですか?」
「お前が先ほど言ったんだぞ、
『無能に無能って言って何が悪い』」
「アメリアのほうがよっぽど有能だぞ」
「そんなはずはない!」
キースは更に激昂する。
「俺はまだこれから伸びるんですよ!
こいつはもう伸びる余地ないでしょう!
なんでこんな奴がハルバート様の同期なんだ!」
「キース、謹慎3ヶ月だ。出ていけ」
「ちくしょう!許さねえからな!」
なぜかアメリアを睨みつけ、キースは足を踏み鳴らして去っていった。
「キースはハルバートに憧れて入って来たクチだからな。奴を美化しすぎる」
「それにしたってあれは酷い、
チームで仕事をする資格がないね」
「まったくだ。あの加虐性は問題だぞ」
「アメリア、気にするな。
あいつは君を貶めたいだけだ。
あいつの言葉に事実は何もない」
先輩たちの言葉がアメリアを慰めるが、
「いいんです、自分でもわかってたことですから」
アメリア自身、既に魔術への自信は失ってしまった後であった。
だが、『蒼の隊』にとってのお荷物、という言葉は効いた。
そうか、同期としてすらお荷物なのか。
じくじくと痛む胸を隠し、アメリアは残りの挨拶をこなす。
最後の挨拶を終え、
たくさんの餞別を抱えて職員出口からギルドを出ようとしたところ、ギルド正門前のプロムナードを、深い蒼のマントを颯爽と翻して歩く銀髪の男が見えた。
『蒼の隊』、ハルバート・イーヴランドだ。
まさか。
帰還は2日後ではなかったのか。
アメリアは職員出口のドアに張り付き、口から飛び出そうになる心臓を何とか抑え、呼吸すらも止めてやり過ごす。
正門の護衛が、
「ご帰還お待ちしておりました、『蒼の隊』殿。
3年間のお勤め、ご苦労さまでした」
と敬礼して迎えている。
「ああ、出迎えありがとう」
無愛想にそう言い、ハルバートはギルド内に消えた。
危なかった。
手のひらにかいた汗を乱暴に服で拭い、
なるべく早足でギルドを離れた。
ギルドのプロムナードを凱旋するハルバートと、
職員玄関から隠れて去るアメリア。
ふたりの立つ立場をそのまま表しているようで、
アメリアは思わずため息をついた。
「さようなら、ハルバート。
最後に顔が見られて良かった」
アメリアはハルバートの前から消える必要があった。
彼は、アメリアがマテオを出産したことを知らない。
キースの言う通り、彼は貴族の女性と結婚するのだ。
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