若返り法
ああ、先生。やぁやぁどうもどうもへへへ、ああ調子はいいよ。いやぁ、街でいきなり声をかけられた時は正直『なんだこいつ』って思ったけど、ははは、今はホントいい気分だよ。いやぁ、いい部屋だなぁ……。さすがお医者様。いいお住まいでねぇ。へへっへっへっへ。いやぁ、それにしても、おれみたいなヨロヨロボロボロのもんを助けてくれるなんて、あんた優しいなぁ。
しかし、へへへ、まあ、若返り薬っていうのは未だにちょっと信じられないがな。
ん? 不満? ないないない! まあ、しばらくベッドから動けないのはしんどいが、まあ贅沢は言っちゃいけねえわな。え? ああ、もし本当に若返れるんなら、ああ、やり直したいことがたくさんあるよ。へへへっ、この関節の痛みも消えるんかねぇ。そしたらまずは思いっ切り走るかな。前はジョギングとか好きだったんだぜ。ここ、あれある? ハムスターがカラカラ回すやつ。へへっ、なんてな。
へへへへへへへへ。ん? いや、ハムスターとは我ながら上手いこと言ったなぁとね。へへへ。いやぁ、ね。若返り薬ってねぇ、先生。おれを実験台にする気なんでしょぉ? ああ! いいのいいの! 大歓迎! へへへっ、まあちょっと報酬とか頂きたいですがねぇ。ああ、紙とペンあります? え? いやぁ、体験レポでも書こうかと思いましてねぇ。日記風にしたら、へへへ。若返りが成功した後、本になって売れたりしてねぇ。
でも、おれは三日坊主だからなぁ、へへへ……。あ、どうもどうも。記念すべき今日は二月一日っと、へへへ、やっぱ面倒だなぁ……あーあ、ねみぃ……。
二月十六日
先生のお陰! 吐き気や頭痛が格段に減ったよ。食欲も少し戻った気がする。あと尿の量も。日に日に体の中の毒素が抜けていっている気がするよ。いい気分だ。とても感謝しているよ。ありがとう!
二月十八日
もうあの背中の痛みに悩まされなくていいんですね先生。本当にありがとう。
三月五日
先生、ありがとう。見るのも嫌だったあの黄疸がなくなったよ。体のむくみに悩まされることもないんだなぁ。
三月十四日
経過良好ってやつですな。息苦しさがなくなりました。はい、もうタバコは止めます!
四月三日
慢性的な腹の痛み、下痢が嘘のようになくなりました。本当にありがとうございます。先生。
三月六日
本当に若返った気分ですよ。この力強い鼓動! 人生まだまだこれからだね!
三月四日
せんせい、ぼく、目がみえるよ。うれしい、これでまた、ともだちとあそべるんだね。せんせいと、この目をくれたひとに――
「『ありがとうって毎日たくさん』……と、おや」
「あ、先生。休憩中にすみません。でもそろそろ、へぇ……」
「ああ、行くよ。でも、へぇってなんだい?」
「いや、ふふふふっ、先生って冷たいイメージがあったから意外だなぁって。今読んでたそれ、先生が移植手術された患者さんたちからのお手紙ですよね。大事にされるんですねぇ」