第70話 猫又調教しちゃった(エースさんが)
さてと、と……この子をどうしたものか。
今、目の前ではカッコ可愛いロシアンブルーのスラリとした猫が優雅に毛繕いをしている。田舎では少し見た事がない種類ではあるものの、パッと見は普通の猫に見える。強いて言うならーー。
「猫又、だよな……」
20年ぐらい長生きした猫は妖怪になると言うが……うん、最近では遺伝子のどうこうで尻尾が二又になったりとかするのかもしれない。
まぁ、取り敢えずだ。
「ほーれ、牛乳だぞ〜」
俺は後で飲もうと持っていたぎゅー印の牛乳を、猫又さんにあげてみる。
猫又って言っても、猫は猫だろう。
ボンッ!
「う、うみゃあぁぁぁッ!!?」
しかし、それは間違いだった。
「………え?」
「何にゃ? 何にゃ?? この美味さは何なのにゃ〜ッ!!??」
ぎゅーさんの牛乳を飲んだ瞬間、猫又が小さな爆発を起こした。そして、その煙がなくなった所から猫耳和服の少女が現れた。
髪色はさっきの猫の毛色の様にロシアンブルー、目は大きく見開かれ、吊り上がっている。牛乳を見る目は瞳孔が開いていて鋭く光っている……まるで、それはさっきの猫又が人に変身したかのようである。
いやいやいや、冷静に考えよう。そんな非現実的な事……あるわ。
俺は肩に乗っているエースさんを見て、頭を抱えた。
「あー……なんだ。君は、魔物なのか?」
「ん? 何にゃこの人間は? 気安くわっちに話しかけおって」
わっちって。今の現代では中々聞かないぞ。というか、ウチの牛乳を飲んでおいて何でそんな上から目線なんだ。
まぁ取り敢えず、だ。
「……もう牛乳は欲しくないという事か」
「じょッ! 冗談に決まってるにゃ〜んッ!? お兄さんがカッコ良過ぎてつい思ってもない事言っちゃったにゃッ!!」
少女は腕に擦り寄るかのようにゴロゴロと喉を鳴らす。
ふっ。流石はぎゅーさんの牛乳だぜ。
「じゃあもう一回聞くけど、君は魔物?」
「マモノ、とは何にゃ?」
それは俺もよく分からない。けど、何となくイントネーション的に知らなそうだ。という事は、だ。
「コスプレ好きな幼女……猫耳大好き京風女子」
俺はうんうんと唸りながら、見た目とか話し方といった諸々を考える。そしてその結果が自然と口から出る。
どうせならそうであって欲しいと俺は願っているのだ。そう思っていると、突然の不穏な気配に俺は目を開ける。
「お、お主……このわっちを、事もあろうに人間の女児と見間違おうとは、随分と命が欲しくないように見えるにゃ!!」
「え、えぇぇぇぇぇッ!!?」
え、何でこんな大きく!!??
目の前にはKIROを呑み込んでしまいそうな大きな化け猫が此方を見下ろしていた。
先程の少女の姿など微塵も感じさせない、正に猫又……妖怪がそこには居た。
……死。
そう感じて手を合わせるのも一瞬、目の前に小さな救世主が現れる。
ぷるッ!!
「え、エースさんッ!? 何やってんだ!?」
エースさんと言えどその体格差じゃ無理があるぞ!?
「早くこっち、に?」
それはものの数秒、エースさんの体から出た何百本という触手が、猫又へと絡みつく。
え、ど、どうなってるんだ? だって、エースさんはさっきまで俺の肩に乗ってて……?
「にゃッ!? これは、何にゃッ!?」
ぷるるるるるっ!!
「や、やめるにゃッ!! ぐッ! ぐざい"ッ!!」
ぷるっ!!!
えっと、こういう光景を何というか……エースさんの触手が猫又の口を抑えていて……身体は雁字搦めになっている。それに加えてエースさんは臭いニオイも発しているようである、鬼畜。
あんな大きい相手に対して手玉に取っているエースさんに呆然としているとーー。
あ。
気付けば猫又は白目を剥いて気絶し、隣では胸を張るかのように身体をぷるぷるさせたエースさんが居た。
ぷるっ!
「あ、にゃっ、ご、ごめんなさいにゃ」
暫くして、エースさんの前には猫又の少女が正座で地面に座っていた。
エースさんがぷるっただけで謝るって、どれだけの臭いを嗅がせたのか……エースさん、恐ろしい子!
「あー……じゃあ聞くけど、君はもしかして妖怪?」
「……うっ。そうですにゃ」
エースさんが触手を伸ばして、猫又を喋らせる。
「何で此処に来たんだ?」
「別に、放浪してたら此処に辿り着いちゃっただけですにゃ」
「放浪?」
「色々な景色を見たくてあちこちを放浪してるのにゃ」
「何で?」
「まぁそれは色々ですにゃ」
猫又はハハハッと苦笑いを浮かべた。
ふーむ。じゃあ此処に来たのは偶々だったって事か。なら悪い事をしてしまったかもしれない。酷い事を言ってしまったからもあるだろうけど、エースさんに気絶させられる程に臭いニオイを嗅がされたのだから。
「あー、折角だからウチのカフェで休んで行く? さっきの牛乳もあるよ」
「さっきの……い、いや! でも! わ、わっちはそろそろお暇させてーー」
ぷるるっ!
「アッ……は、はい。それでは遠慮せずに……お邪魔させて頂きます」
エースさんには頭が上がらないようである。
少し肩を落とす猫又と共に、俺達は改めて自己紹介をしながらKIROへと向かった。
「「「いらっしゃいませッ!」」」
「お?」
「は?」
店内へと入ると、右京さんのお弟子さんが5人、俺達を迎え入れてくれた。
丁寧なお辞儀に思わずびっくりしちゃった……しかも猫耳付けた幼女を見ても平常運転、流石『桜花』の未来を担う人材達である。
「店長、その子は?」
「あ、えーっと、ちょっと迷惑を掛けちゃって、カフェでおもてなししようかなって」
「メニューはいつも常連の方に出している物で良いですかね?」
「う、うん、それでお願い」
お弟子さん達はテキパキとキッチンで準備を始める。
うーむ……俺よりも圧倒的に手際が良いんだけど、これって俺が店に居る意味あるのか?
そんな事を思っている俺の横で、猫又は目を白黒させて周囲を見渡していた。
「どうなって……だって外から見たらこれ程の広さは……?」
「あー……色々あるのよ。まぁ、座ってよ」
今此処の空間広げて貰ってるのよ、ぎゅーさんに。と、言った所で更に混乱するだけだろうと俺は猫又をカウンター席へと促すと、直ぐにお弟子さん達の一人がよく冷えた牛乳と枝豆が出してくれる。
「どうぞ、召し上がれ?」
「おッ!! これはさっきわっちが飲んだ牛乳かにゃッ!?」
「一応、ウチの推し商品ではあるな」
「そうであろうにゃッ!! わっちもここまで濃厚で甘美な牛乳は飲んだ事がないにゃッ!!」
興奮冷めやらぬ様子で猫又は牛乳を一気に飲み干す。飲み終わると、かぁーっと見た目には反して口周りに白い跡を残していた。
気に入って貰ってなによりである。
「さっ、こっちも食べてくれ」
「うむ、これは豆かにゃ? 豆はあんまり好かんにゃ……」
「まぁまぁ、騙されたと思って食べてみてよ」
「あ……はい。食べますにゃ」
嫌がっていた猫又だったが、エースさんの一声(一触手)により枝豆を手に掴んで口に放り込む。
「にゃにゃにゃにゃにゃ〜〜〜ッ!!??」
その後は一心不乱に、牛乳を飲み干しては枝豆を頬張っていた。
うーん、お腹壊さないようにね?
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