第4話 内装決めよ
「ふーむ…」
店名が決まって次の日の朝、俺は1人悩んでいた。
ーーそう。まだ店内の内装が決まっていないのである。昨日の俺は店名が決まった事で満足して、実家でB級映画を見て寝てしまった。
アンディがふざけて拳銃を乱射し、友達を撃ったシーンは泣けるシーンだった。
「って、そんなのはどうでも良い。内装だよ、内装」
俺はヨーチューブをスクロールしながら、カフェの動画を眺める。どれもシャレオツな物ばかり、時々奇想天外な内装をしている所もあるがーー
「ウチには合わないだろ」
じいちゃんから譲られた土地は、都会から離れたど田舎である俺の実家から、更に100メートル程山へと向かった場所だ。
落ち着きある自然の中に、ポツンっとある奇想天外なカフェとなると、違う気がする。大体の雰囲気は決まった……が、俺がやったらたちまち違和感だらけのカフェになってしまうだろう。
「あー! どうしたら良いんだ!?」
俺が家の中で思わず叫ぶと、
「何よ? どうしたの?」
家の主、母さんが登場する。
「母よ…俺が店を始めるなんて無理な話だったんだ。だからこれからずっと家に居るよ。よろしくな…」
「何甘えた事言ってんのよ。ウチにアンタを養うお金なんてありません!」
……ほう? よくそんな事が言えたもんだ。
「……母さん、最近歯白いよな? 煙草吸ってて凄く黄ばんでたのに」
「そうかしら? そんなに変わらないと思うけど?」
「いや、前までは顔か歯か分からなかったぐらい黄ばんでた」
そう言うと母さんは、目を合わせずに物憂さを醸し出しながら言った。
「なんか、定期的に歯の表面の皮がズル剥けることってあるわよね」
「ある訳ねーだろ!! 年甲斐もなくホワイトニングなんかしやがって!!」
そんな爬虫類みたいな事哺乳類は出来ないんだよ! ホワイトニングって結構掛かるはずだろ!? こんなど田舎で歯白くしてどうする! どうせするなら前歯に差し歯入れてからしろ!!
「3人の子供達を無事社会に送り出したんだから良いでしょ? 少しは贅沢したって」
「むっ…」
それを言われたら、何も言えん。
「ま、1人は帰ってきたけど。それで? 何に悩んでんの?」
母さんは部屋のソファにもたれかかると、肩が凝っているのか首を左右に揺らしながら聞いてくる。
「俺、じいちゃんから土地譲られただろ? 今その土地にカフェを作ったんだけど…」
「はぁ!? あんな所にカフェ作ったって誰も来る訳ないでしょ!?」
母さんは顔を般若の様に変えて叫ぶ。
いや、ごもっとも。
「まぁ、そうなんだけど…取り敢えずカフェ作ったのよ」
「……はぁ、そう言うことはもっと誰かに相談してからにしてよ」
いやー、それもごもっとも。
俺は心の中で何度も同意し続けるが、話を進めた。
「それで内装どうしようかなって、今悩んでるのよ」
「あんな叫ぶぐらい?」
それはもう、頭が捩れるぐらいよ。
俺がそれに無言で頷くと、母さんは唸った。
「内装ねー……なら母さんがやってみようか?」
…ほう?
ーーハッキリ言えば、じいちゃんばあちゃんばかりのこのど田舎に、オシャレなカフェの内装を作る事が出来る人材は恐らく居ないだろう。
しかし、内装のオシャレ度だけを見ればウチの家は中々な物だと思う。
言うならば、THE 田舎の実家だと言う感じの落ち着く雰囲気を放つ、極々普通の和の内装だ。
それが何だって? ノンノンノン、それが当たり前だと思うことなかれ。和の内装だと言っても所々洋風な家具があって、ズレを感じると思うんだが、ウチにはそれがないのだ。
電化製品全般、ほぼ昭和の見た目をした物が置かれている。性能も昔過ぎず、なんら生活に支障はない。
なら、この家の内装を手掛けた母さんに任せてみるのも良いのかもしれない。
「あー…じゃあ、ちょっとお願いしても良い?」
俺は母さんをKIROまで案内する事になった。
「此処なんだけど」
「うわー…何この外見。魔女でも出てきそう。アンタどこを目指してんのよ」
「一応は、普通のオシャレなカフェ」
俺が淡々と答えると、母さんは何度目か分からない溜息を吐いて店の中へと入って行く。
そして母さんは立ち止まって目線を上下左右に動かした。
「ふーん。中身はマトモね」
どうやらお眼鏡にかなった様である。
「ここからが匠の技の見せ所ですよ」
「そこまで大それた事をする気はないよ……因みにアンタ、どういう雰囲気にしたいとかあるの?」
雰囲気か。それなら決まってる。
「落ち着いた雰囲気のカフェが良い。ベーシックな、変な所は要らない」
KIROは皆んなの人生の岐路になる所だ。温かく、優しい雰囲気に包まれながら確実な勇気を持って出て行く。それが、店の由来であり、俺の願い……いや、我儘ってとこだ。
「へー……いつもテキトーなアンタにとっては、ハッキリ答えるわね。了解、取り敢えずは明日まで待てる?」
意外にも母さんは腕を捲って、此方を見た。
あぁ……これは、やる気である。母さんがスマホの牧場ゲームをやってた時の様な本気度が伺える。
何故そこまでやる気になったのかは分からないがーー
ウチの晩御飯がカップ麺に決まった瞬間であった。
そして翌朝。テーブルに『カフェに来られよ』という、何処かファンタジー要素が含まれた置き手紙を見た俺はすぐカフェと向かった。
すると、少し隈がある母さんが俺を迎え入れた。
「おー…」
そこにはオシャレなカフェが広がっていた。
壁には何かの絵や時計があり、全てがモノクロで統一。机やカウンターにはオシャレで赤いテーブルクロスが引かれており、温かみを感じる。
「普通な感じが良かったんでしょ? だから下手に手は加えなかったわよ。どう? 木の温かみを残しながら…細かい所にオシャレを盛り込んだ母さんコーデは!」
母さんは自信満々に両手を広げて言った。
「ありがとう。コーディネートを仕事にした方が良いと思う程にいい出来だ」
「……」
俺が素直に感謝すると、母さんは訝しげに眉を顰め体を引いた。
「なに?」
「そんな素直に褒めるなんて……明日は雪かしら」
……取り敢えず、今日は母さんの頭に鳥のフンが落ちる事を願いながら、食糧の事について考えよう。
「面白い!」
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