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04 祝砲

「……召喚士見習いって、どんな仕事をしているの?」


 ヴァンキッシュは好奇心で輝く新緑の瞳を、やりかけの書き仕事の書類を置いたままにしていた机の上に興味深そうに向けた。


 ナトラージュは、慌てて走り寄り散らかったままの机の上を軽く片付ける。


「大方は、書き仕事です。私のような召喚士の見習いの内は、上司にあたる導師様たちの書類整理だったり、そういった書き仕事のお手伝いですね。召喚の練習は、お手伝いの空き時間にします」


「君には立派な縛られし者(リガート)も、居るのに。まだ、一人前の召喚士ではないんだね」


 しかも、幻獣界の中でも特段に呼び出す条件が難しいと言う闘竜だ。


 このヴァンキッシュがラスがそういう種族の闘竜であることを、理解しているのかはわからないが、縛られし者(リガート)を持つことは召喚士にとってかなり難易度が高いことは周知の事実だ。


 気まぐれな性質を持つ幻獣は、気が合えばいつでも呼び出して良いという友情の証である招きの鍵をくれることもある。けれど、この世界で生き常に召喚士の傍に居ることを選ぶのは、束縛を嫌う幻獣にとって、それ程にまで稀なことだ。


 闘竜ラスは、確かに今は幼いとしても、既に高い戦闘能力を持っている。中級の魔物なら、特に苦戦することもなく一匹で倒せてしまうだろう。


 だから、見習い召喚士の傍に、幼いとは言え竜が居ることを訝しんでもおかしくはない。


「……ヴァンキッシュ様は、異国の方なのにそういった事情を、良く知ってらっしゃいますね。ラスは私個人ではなくて、家と契約している闘竜なんです。だから、私が彼を幻獣界から召喚して、縛られし者(リガート)として契約した訳じゃないんです」


 ナトラージュは、苦笑して答えた。


 通常だと縛られし者(リガート)は、幻獣側が召喚士を力量が対等だと認め、よほど性格などの相性が良くないと、契約することは難しい。だから、ラスとナトラージュがこうして一緒に居る経緯は、非常に珍しい。


 ヴァンキッシュは、また本を夢中になって読んでいるラスを見て感心したように笑った。


「へえ……面白いな。僕は確かに現在オペルに仕える外交官だが、生まれはこのリンデント王国なんだよ。離婚して僕を連れてこちらに帰って来ていた母が亡くなった六つの時に、父に引き取られることになって、オペルに移り住んだんだ。だから、この国で当たり前の知識は多少なりともある。だが、実際に目にしていても、竜がだれかと親しく喋っているなんて、信じられないね。それに、召喚士と言うと、お爺さんしか見たことない。こんなに可愛い女の子が居るとわかっていたら、どうにかして会う口実を作っていたよ」


 彼は素早く片目を瞑ると、提出する書類を揃えている手を休めないナトラージュに視線を移した。


「導師様程になると、召喚士としての長い修行が必要なので、年齢を重ねた方が多いですね。それに、召喚には幻獣界と相性の良い特殊な魔力も必要ですし、男女どちらかが特別多いという訳ではありません」


 ふと彼の方を見てしまったナトラージュは、戸惑って目の前に居る人から目を逸らした。


 豪奢な色味の金髪は、室内に居てもなんだか輝いているように見える。潤んでいるようにも見える若草色の瞳に、甘い光が揺れていて、とても目を合わせたままではいられない。


(……危ない。魔性の魅力を持つ人を、もう少しでまともに見てしまうところだった)


 一目で人を魅了して堕落させるという淫魔も、もしかすると、こんな姿なのかもしれない。


「……ナトラージュは、いつからここに居るの?」


「三年前からなんです。ラスが生まれたので、急遽私が召喚士になることになって」


「竜といつも一緒に居るって、どんな感じ?」


 ヴァンキッシュは、物珍しい宝石を鑑賞するような目だ。きらきらと興味深げに、輝いている。


「なんだか……不思議な気分です。でも、三年も常に一緒に居ると、家族みたいな気がします」


(俺は、ナトラージュのお兄さんだな)


 本から目を上げずに、ラスは言った。今は読んでる部分は重要な戦闘シーンなのか、尻尾を左右に振って興奮しているようだ。


「本当に、仲が良いね。良かったら、僕もその家族に加わりたいな」


「ヴァンキッシュ様は……外交官ってどんなお仕事をなさっているんですか?」


 甘えるように彼に願われて、拒否出来る異性はよほどの精神力を持っている。ナトラージュは、慌てて彼側に話題を変えた。


 彼はオペルから派遣されている筆頭外交官で、少なくとも女性から逃げるのは仕事の一つではないはずだ。


「……そうだね。今のところは、視察が多いかな。まだこちらに来て、一年ほどだからね。城の外に出ていることも多い」


「色々な場所に、行かれているんですね」


「……人と会って会話するのが、仕事だね。君のような可愛い女の子なら、一度に何人居ても歓迎するんだけど。大抵は、汗臭い男だから」


「汗臭くて悪かったな」


 突然低い声がしてナトラージュが振り向くと、いつの間にか開かれていた扉にグリアーニがもたれかかっていた。


「……相変わらず、猟犬のような嗅覚だな」


 ヴァンキッシュは面白くなさそうに目を細めると、従兄弟のグリアーニを見た。


「王女がお呼びだ」


「死んだと言っておいてくれ」


「王が祝砲をあげるだろうな。国民の祝日に、制定するかもしれないぞ」


「嫌味な男だな」


「……早くしろ」


 グリアーニが顎で合図すると、ヴァンキッシュは面白くなさそうに立ち上がった。そして、グリアーニに続いて現れたその人に、特に動揺した様子もなく優雅に一礼した。


「キミーラ殿下……今から、お会いしに行くつもりでした」


 余裕たっぷりの態度を崩さないヴァンキッシュは、彼女に先程の会話を聞かれていたとわかっていても、しれっとそう答えた。


 ナトラージュは自室に現れた、余りにも場違いなその人に息を飲んだ。


 リンドンテ王国で、現在ただ一人だけ居る金髪碧眼の美しいお姫様。


 キミーラは現王太子の姉で、この国の社交界で絶大な影響力を持っている。彼女が持った物が流行り、興味をなくした物が捨てられるのだ。


「嘘おっしゃい。また、騒ぎを起こしたようね。ヴァンキッシュ。いくら外交官でも、やりすぎじゃないかしら? オペルは長く友好関係にある同盟国だけど、我が国は治外法権をそこまで認めていないはずよ」


 キミーラは面白くなさそうに、閉じた黒い扇をヴァンキッシュに向けた。


「……彼女は僕を誰かと、勘違いしているんですよ」


「貴方以外に、そんなきらきらしい格好をした男がどこに居るの」


 キミーラは、左右対称な美しい眉を不機嫌に顰める。


 だが、実のところは、騒ぎを起こす常習犯の異国の外交官を誰より気に入っているのがキミーラだ。こうやって、定期的に自分が諌めることで、対外的に彼を守っている。今の宮廷で第一王女のキミーラが許したものを、後にひくような者はそうはいない。


「僕の国ではこの格好が正装です。殿下」


 ヴァンキッシュはあくまで悪気のない顔で肩を竦めると、キミーラは困った顔をして短く息をついた。


「それは、聞いていないわ。とにかく、その彼女と一度、きちんと話をしなさい。このままでは私の父、国王陛下が何事かと怒鳴り込んで来るわよ。ただでさえ怒りやすい人なんだから、勘弁してちょうだい」


「詳しく話す前に、花瓶が飛んできたんですよ。僕はまったく身に覚えがないので、君のことは知らないと言っただけなんです」


「……仕方ないわね。お父様には、私から言っておくわ。今の言葉に、嘘はないわね?」


「ここで嘘をつき、それが後に明かされれば、致命傷になるだろうことは、僕にはよく分かっています。殿下」


「……当分、控えなさい。これ以上騒ぎが大きくなると、いくら私でも庇いきれなくなるわよ」


 冷ややかな青い瞳を向けて扇を広げ、キミーラはくるりと踵を返した。


 彼女がいなくなり、王族の覇気に知らず部屋の中で張り詰めていた空気が弛む。


「グリアーニ……王女をここに連れてくるなんて、何を考えてるんだ」


「お前の行き先に心当たりがあると言ったら、そこに連れて行けと言われたんだ。俺の立場で、殿下に逆らえる訳が無いだろう。今回は、説教から解放されるのが早かったな。もっと時間をかけて、雑巾のように絞られた方が、良かったんじゃないか?」


「僕は悪くないから。なんで君には、出会って十秒でいきなり花瓶を投げる令嬢がいないのかな。不公平じゃないか」


「日頃の行いの差だろう」


 サラッと女癖の悪い従兄弟の言いがかりを躱すと、グリアーニは口端で笑った。

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