■第五話:【アイツ】との再会
「頼む松田! 俺の代わりに草バスケの大会に出てくれ!」
「……へ?」
二月一日、昼休みの教室。突然、黒居のヤツがそんな事を言いだした。
右腕に包帯を巻いている。骨折だとか。
「————つまり、お前のストバス仲間達で草バスケの大会出る約束していたけれど、怪我して出れなくなったお前の代わりに出ろと?」
「ああ!」
黒居は、実は小学校時代は俺と同じバスケ部だった。中学に上がってからはコーチと喧嘩した為、退部して公園のストリートコートで仲間を募り、現在までそこでバスケを続けている。
「それに、出来れば小和田にも出て欲しいんだ」
「……なんでウチが!?」————隣で聞き耳立てていた小和田が驚く。
「その大会、俺と松田の地元で開かれるんだけど、3対3の試合形式で、メンバーに男子一人、女子二人って指定があるんだ。俺のストバス仲間に、女子は一人しかいねえからさ」
「ウチ、下手だよ?」
「そこはここに居らっしゃる松田コーチが一ヶ月で指導して下さるだろうぜ。大会は丁度一ヶ月後だ!」
「黒居お前……俺が六年間バスケ部だったからって、あまり宛てにすんなよ? 俺、一年生の秋にスランプ入ってからずっと抜け出せなかったせいで、三年の引退試合ん時は補欠だったんだからな」
スランプの原因は、おそらく……【アイツ】なのだけど。
「そーはゆーてもお前、中学まではめっちゃ調子良かったじゃねえか。中三の引退試合ん時はスタメンだっただろ?」
「過去の栄光じゃん。最終成績は、補欠だし」
「自信持ちなよ~松田! 球技大会の時ウチに教えてくれた時はめっちゃ上手かったじゃん! 松田のお陰でウチ、球技大会でクラスの皆に『アヤカ、急に上手くなったね』って驚かれたし」
「……自信あるのかよ、料理部部長?」
「松田が一ヶ月付きっきりで教えてくれたらね♪」
「まあ……俺達全員、受験終わっているから問題ないけど」
まだ受験が終わっていないのは、国立目指している雛方さんだけだ。
「もう学校もほとんど自由登校だしな! とりあえず明日の土曜、俺のストバス仲間を紹介するぜ!」
小和田と黒居に乗せられるがまま、俺は渋々草バスケ大会への参加を了承した。
☆
土曜、昼間。俺の地元近くの公園————ストリートバスケコート。
「お前が松田か、身長低いな」「黒居から元バスケ部って聞いてっけど、そんなんでバスケ出きんのか?」「俺達がストバス上がりだからってなめんじゃねえぞ? 温室育ちヤロウ」
入れ墨を入れた高校生集団が、俺と小和田の目の前に。
ヤンキーにしか見えん。
「お前ら失礼だよ! スポーツマンたるもの、礼儀をわきまえな!」
「「「ウッス! ジョディ姉さん!」」」
彼らヤンキーを仕切る女性が前に出る。
イタリア系のハーフ顔に金髪。身長は170以上あると思える程、高い。
加えて出るべき所は出て、引き締まっているべき所は引き締まっている。胸がめちゃデカい。
黒居が現れ、金髪イタリア人女性を俺達に紹介する。
「この人はジョディさん。俺達のチームのリーダーだ。見た目通り、イタリア人と日本人のハーフ。部活に属さず、野良のこのチームを率いて、社会人バスケ大会を制しているお人だ」
「部活に属さず……て事は高校生? 俺達とタメ?」
「ああ!? 誰が老けてるって?」————ドスの利いた声で言うジョディさん。圧が凄い。
「いいや、そんな事は……」
「黒居から『スゲエ奴がいる』って聞いていたけど……アンタ、身長170センチも無いよね?」
「……ああ」
敢えて「ハイ」とは言わず、タメ口を使った。
「その後ろの女は彼女?」
「……いいや、違い……違う」————危うく「違います」と敬語を使いそうになった。
「イイ女連れてるね。それだけイイ女連れてるってコトは、バスケの実力もそれ相応ってコトかい?」
「黒居に聞いたってのは、俺の事をどう聞いたんだ?」
俺はしょせん、高校三年最終試合の補欠だ。そんな俺を、黒居はどう紹介しやがったんだ?
「全国大会出場チームのスタメンって聞いているけど?」
俺は黒居を睨む。ジョディの背後で舌を出し、「ワリ!」っと示してやがる。
この嘘つきヤロウが……。
「黒居はアタシのチームで、アタシの次に上手い。コイツが見込んだ男だ、かなり出来ると見込んでいる。……まずは入団テストよ。『コイツ』と1対1をやって貰うよ」
ジョディさんが指をさすのは、ドレッドヘアの男。背は170は超えている。
「コイツは黒居の次に上手い。……つまりこのチームのナンバースリーだ。最低でもコイツぐらい倒せないと実力を認めてやれないねえ」
「……わかった」
ドレッドへアの男と俺の、バスケ勝負が始まった。
☆
三十分経ち、俺が29点。ドレッドヘア28点。
この勝負は、先に30点取った方の勝利だ。
「……松田」————コート外で、祈るように両手を合わせ、見守る小和田。
「へえ……」————絶好の獲物を捉えた虎のような、野生染みた瞳を俺に向けるジョディ。
「なんか、いつもの松田より上手い……?」と黒居。
自分でも不思議だった。部活引退してから、半年近くバスケしていないのに。
妙に動きのキレが良いのだ。
コレはもしかしたら、「小和田が傍で見ているから」かもしれない。
バスケを通して「小和田に好きになって貰えるかもしれない」と————、
————「初恋の傷を、彼女に癒して貰えるかもしれない」と————、
そんな期待が、俺の動きを良くしているのかもしれない。
俺は、「初恋を叶える為にバスケをしてきた」男だ。
そして中三のクリスマスイヴに、「初恋に敗れた男」だ。
あの日から、俺のバスケの動きは明らかに悪くなった。
スランプに入ったのは、間違いなく「あの日」が原因だ。
————【アイツ】と【アイツの彼氏】がキスしている所を目撃した、「あの日」————。
あの日から、俺は何の為にバスケしているのか分からないまま、闇雲にバスケをしていた。
そんな俺が高校の最終試合、補欠で終わるなんて、当然っちゃ当然の帰結だったと思う。
けれど今の俺には半年前と違い、バスケをする動機がある。
小和田 彩花————バスケする俺を「スゴイ」と、「上手い」と褒めてくれる女。彼女が傍にいると、自信が湧いて来るのだ。
小和田の視界の中でバスケをすると、プレイの一つ一つに神経が研ぎ澄まされていくのだ。
「うおぁ!」————ドレッドヘアが悲鳴を上げ、尻餅をつく。
俺のドライブが速すぎた為に————。
そのままレイアップを決め————俺の勝利————。
「アンクルブレイクか。久しぶりに見たな」————宝石を発見した探検家のような瞳で俺を見るジョディさん。
「松田、お前そんなにバスケ上手かったっけ!?」————黒居が俺に近づく。
「凄く……メンタルの調子が良かったんだ」
俺は、【アイツ】の彼氏を仮想敵にして高校三年間、バスケをしていたのかもしれない。
自分をフッた女の彼氏を倒す為に三年間、バスケしていたのだ。そんなの、メンタルを病んで当たり前だ。
今の俺には、小和田 彩花がいる。
最期の問題は、俺が【アイツ】の姿を小和田の姿を重ね合わせている事。
コレを乗り越える事が出来た時に初めて、俺のトラウマは完全に消え去るのかもしれない。
「スゴイよ松田ぁ! あんな強そうな人に勝っちゃうなんて!」
小和田が、俺の両手を握ってブンブン縦に振る。
「ちょっ……小和田、力強すぎ……」
「さすがウチのししょー!」
「イチャ付いている所、悪いけど……」
ジョディさんが割って入り、
「入団テストは合格だ。アンタ達には、毎週水、土、日にこの公園のアタシらの練習に参加してもらう」
「松田はともかく、ウチなんかメンバーに入れていいの? ウチ、初心者だよ?」
「大会のメンバー指定で『初心者の女性』って項目があるんだ。アンタは、その枠だ」
「変な大会だな。そこまで細かい指定があるなんて」
「バスケット選手を増やす目的なんかもあるんだろうね。要は、ガチ大会じゃなくて『楽しむ目的』の大会だ」
「アンタらのチームは何で……」
「『ムーンズ』だ、アタシらのチームの名前は。NBAチーム『フェニックス サンズ』をリスペクトして、『ムーンズ』」
「……アンタらムーンズは、何でそんなショボい大会に出るんだ?」
「優勝賞品が『フェニックス サンズ』の現役選手『クリスポール』のサイン入りバッシュなんだよ。運営の連中は理解してねえだろうが、NBAマニアに売れば、高値が付く」
……金か。
「おいおい、そんな失望した顔すんなよ? アタシらムーンズは、ストバスから本気でプロに上がる事を目指している。プロ入りを目指す過程で、どうしたって金は必要になる。……なんだ? 参加する気が失せたか?」
「……いいや、そんな事ねえよ」
少しモチベーションが下がっただけだ。
俺の立場としては、小和田と仲を深める為のイベント程度に捉えておけば良い。
「運営から貰った、全出場チームの選手名簿を渡しておく。まだ未完成品だが、敵を知らずして勝負には挑めねえからな」
ジョディさんが俺に小冊子を渡す。
「今日は挨拶だから、これで終わりだが、明日の日曜からビシバシ練習始めるから、覚悟してとけよ?」
俺はその場で、何となく小冊子を開いて、出場選手を確認していく。
俺達の通う分条学園は、俺の地元……大会が開催される県とは違う県にある。
つまり、俺が部活で試合をした選手が、今回の大会に出る確率は少ない。
……が、「俺の地元の知り合い」がこの大会に出る可能性はある。
しかも、今回の大会には年齢指定がある。15歳~18歳……高校生のみの大会だ。
……俺は、一抹の不安を覚えながら、出場選手達に目を通していく。
ペラ、ペラ、ペラ、ペラ、ペラ……めくっていく。
「……!?」
悪い予感は、的中してしまった。
出場選手の中に、この名前があった。
『高木 海冬』
————俺の初恋相手……【アイツ】の名前が。
☆
夕暮れの帰り道。俺と小和田は駅に向かう。
黒居はムーンズのメンバーと公園に残った。
「松田、あのジョディって人の胸ばかり見て話してたでしょ?」
「……ハア!?」
「やっぱ男子っておっぱいが大きい女性が好きなんだね。しかもあの人、外人だし」
小和田が両手で自分の胸を寄せる。大きすぎず、小さすぎない胸を。
「いやまあ……エロい人だったな」
「サイテー」
「そんな事より、俺達二人きりで練習する場所が必要だな。お前に色々教えてやらないと」
「分条学園の外ゴールでやるんじゃダメなの?」
「ダメだ、授業一ヶ月サボってバスケやるんだし」
「……ええ!? 授業サボって練習するの!?」
「それくらいしないと、一ヶ月でお前を鍛え上げて優勝なんて出来ないだろ?」
「優勝って……急に随分やる気になったね」
「ああ、色々『事情』が変わった」
「事情?」
「場所は、二雉市の河川敷にあるストリートコートにしよう」
二雉市は、俺の実家のある阿猿市と、分条学園のある三犬市の中間にある市だ。
雉、猿、犬……桃太郎のお供の名が各市の名前に入っているが、この三市には、何か古くからのご縁があるのかもしれない。
「小和田の実家は分条学園周辺だから三犬市だよな? 来れるか?」
「ウチは構わないけど……学校サボってバスケだなんて、ウチら不良だね」
「めっちゃ楽しそうに言うなよ」
「えへへ」
☆
月曜、早朝。二雉市、河川敷にあるバスケコート。
平日の朝だ、俺と小和田の二人しかいない。
「昨日のジョディさんの練習、凄かったね……」
「まさかバスケじゃなくて、ランニングと筋トレから始めるとはな。マジで部活みたいだ」
「ウチ、今めっちゃ筋肉痛だよ……」
「そりゃ元々、料理部だしな。小和田は運動経験無いんだっけ?」
「実は……今まで松田に話してなかったけど……小学生の頃は、バスケクラブに入ってたんだ」
「!? 経験者だったのか!?」
「実は、ね。下手過ぎて気づかなかったかもしれないけど」
「……」
「ウチさ、身長が小学生の頃から変わってないんだ。小学生女子で身長165センチもあったら、周囲に期待されるんだよ。ぶっちゃけ、身長が理由でバスケクラブに入ったし」
小六女子の平均身長は、148センチだ。
「でも、実力は伸びなかった。初心者よりちょっと上手いくらい。だから中学ではバスケ部じゃなくて、料理部に変えたんだ」
俺の初恋相手……小和田と同じ顔を持つ女性『高木海冬』は、逆に運動神経抜群だった。
「まさか六年越しに、またバスケやる事になるなんてね」
「球技大会でのお前は、結構上手かったと思うぞ?」
「松田のお陰かもね。松田が教えてくれるならウチ、小学生の頃より上手くなれるのかも……」
「……分かった。俺が昔のお前より、今のお前を上手くしてやる」
「期待してるよ、コーチ」
それから一ヶ月は、あっという間に過ぎた。
月、火、木、金は、学校サボって二人きりで練習。
水、土、日はジョディさんのチーム「ムーンズ」と合同練習。
バスケ漬けの日々は過ぎ去り————大会当日へ。
☆
俺の地元、阿猿市にある体育館内。人でごった返している。
俺と小和田、黒居は、ムーンズと行動を共にしている。
「スゴイ人だかりだね」
「大会日の体育館なんて、こんなもんだよ」
「おいハル、アヤカ! ションベンは試合前に行っとけよ? 試合中に漏らされちゃ叶わねえからな」
「ジョディさん、アンタ俺らを何歳だと思ってんだよ? それに、女性ならションベンなんて汚い言葉使うなよ」
「これだから部活上がりの温室育ちは。アタシらはストバス……野生育ちだ。品性なんてのとは無縁の人生送ってきてんだよ。そーいうトコがガキくせえんだよ、チビ野郎」
「そこまで言う!? 童顔なのは認めるけどさ……」
「ま、アンタのバスケの実力だけは認めてやるよ。アタシと1対1の勝負でタメ張れる男は、そうはいねえ」
この人、褒めてくれる所はちゃんと褒めてくれるんだよなぁ……。
いつの間にか、俺と小和田の事も名前呼びになっているし。
「アヤカも、それなりに使い物になるようになった。今日の試合、勝ちに行くぞ」
「ああ。やるからには本気だ」
「ま、まつだ……」
「どうした、小和田?」
「その……気合入っている所申し訳ないんだけどね……」
「?」
「その……ジョディさんのお言葉に甘えたいんだけど……」
「?」
「女性の気持ちを察しろよハルぅ!? アヤカは『ションベン』に行きてえんだ!!」
ジョディさんの「ションベン」という言葉が周囲に響く。観客が何人かこちらを見る。
アンタの方こそ、もう少し恥を知ってくれ……。
☆
俺は小和田を、トイレまで連れて行く。
夏祭りのように人でいっぱいの通路を、人と人の間を縫って歩く。
————その道中————。
出逢ってしまった。
出逢うべきでない人物と。
「————ハル君?」
目の前に現れたのは————、
小和田と同じ顔をした少女。
服装は、俺達と同じくバスケ用のアウターを着込んでいる。
背丈まで小和田と同じくらいある。
俺はその少女の、小学生の頃の姿しか今まで思い浮かべる事が出来なかった。
だから今、高校生となった『その少女』の姿を目に焼き付けて、やはり小和田と彼女は瓜二つだったと、確信を得た。
「……高木……」
高木海冬。
俺の初恋の少女。
見た目で小和田と唯一違う所があるとすれば、右目に泣きボクロが無い事くらいだ。
「……松田? この人、誰? ……ていうか……」————小和田が、高木と目を合わせる。
「……!?」————高木の方も彼女の存在に気付き、目を合わせる。
気づいたのだろう。お互いの見た目が、あまりに似すぎている事に。
「もしかして、ハル君の彼女?」
「……違うよ、ただのクラスメイト。アナタは……誰?」
「ハル君の、小学生時代のクラスメイト」
「……」
雑踏の中、俺達三人は互いに沈黙せざるを得なかった。
そりゃそうだ。俗に、世界には自分と同じ見た目をした人間が三人いると言われているが、彼女達二人は、まさにそれなのだから。
双子と思われてもおかしくない程に、似すぎている。
「どうした? ミフユ」
今度は男の声がした。
現れたのは、背が180近くあると思われる、スポーツ刈りの男。
「あ、ヒロくん!」
優しい声で男の名を呼ぶ高木 海冬。
この男は、間違いなく……。
「ゴメン、もう行くね……」
俺から逃げるように去っていく海冬。
俺は小学生時代、心の中では彼女の事を「海冬」と呼び、実際に話す時は「高木」と呼んでいた。
雑踏の中に取り残された、俺と小和田。
「松田……今のコについて、説明してよ?」
「……」
「コイバナになる時、いつも松田が遠い目しているのは、あのコが原因なんでしょ?」
「……お前には関係ない」
「関係ないワケないじゃん!!」
小和田の叫びが周囲に轟く。数人がこちらを振り向く。
「松田があのコについて話してくれないならウチ、この大会棄権する」
「棄権って、今更……」
「ウチね、松田の事が好き」
「……え?」
「実は、中三の頃から好きだった。松田、中学一年の時はベンチ入りもしてなかったじゃん? それが中三の時にはスタメン入りしてて、素直にスゴイなって思ったんだ」
「それは……お前が……バスケに向いていなかったから?」
「うん。ウチは小学生の頃、いくら頑張ってもベンチ入りすら出来なかった。それにね、松田が覚えているか分からないけど、中三の夏に一度だけ、松田がウチにバスケ教えた事があったんだよ?」
「……え? いつ?」
「体育の授業の時。二組と四組で、男女混合のバスケ授業になった時」
「……あの時か」
「経験者一人、未経験者五人の組みに分かれて、経験者の松田がウチらに教えたんだよ?」
中三の夏。それはまだ、俺が高木海冬に失恋する前の時期だ。
俺が、海冬に相応しい男になる事をモチベーションにバスケをしていた時期。
別のクラスだった小和田彩花に対し、「海冬に似ている」という認識すら持たない程に、まだ海冬に夢中だった時期。
「今思い出すと、松田の事はあの頃から意識していたんだと思う」
「お前、俺に恋愛相談していたじゃねえか」
「だって、松田がいつまで経ってもウチに告ってくれないんだもん」
「お前、俺がお前の好きな人ばらして、すげえ怒ってたじゃん」
「特別に教えてあげた秘密を簡単に人様にバラされたら、誰だって怒るでしょ? あの時松田の事、好きから一気に『大嫌い』になりかけたもん」
「それは……本当に悪い」
「悪いと思うなら、教えて? 小学生の頃、中学生の頃、松田に何があったのかを。あのコと何があったのかを」
「……試合開始まで時間は……まだあるな……」
俺は、高木海冬との恋の物語————いいや————失恋の物語を、小和田彩花に語り始めた。