表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/54

そっけない彼女




8:42


皇と立ち話をしたせいで、チャイムが鳴り終えるまでに、教室に入ることはできなかった。


(……やべぇな)


高校入学して以来、欠席はおろか、遅刻なんかした事なかったのに。


恐る恐る教室に近づいたが、HR中は静かな教室が、何やら騒がしい。


そして、音を立てずにそっとドアを開けて――


(なるほど……)


教壇の方に目をやったが、担任の三原先生の姿がまだない。


いつもは必ずHRでは10分前には教室に居るのに、珍しい。


おかげで、皆席に座らずに、自由に立ち上がって周りとぺちゃくちゃ話に盛り上がっている。


(ラッキー)


何はともあれ、助かった。


心の中でガッツポーズを決めて、窓際の一番後ろにある俺の席に気配を消して、スッと座った。


誰も俺が今教室に入った事なんか、気にも留めてないだろうし、バレなきゃ問題ねぇ。


勿論、後ろめたい気持ちもあるけど……い、良いだろ! 


別に一回ぐらい嘘ついたって!


――と、必死に俺が自己肯定しているその時だった。


前の席で、誰とも話すことなく、ヘッドホンをして、一人机に向かい、カリカリとペンを走らせ、自習をしていた西条が、パタンと参考書を閉じた。


そして、ヘッドホンを耳から外し、身体ごと俺の方に向き直って、そっけない声で、


「おはよ。ミツキ」


「お、おぅ」


肩先までかかった長くて艶がある黒髪。


目元に泣きぼくろがある、シャープな釣り目。


シュッと鼻筋が通っている彼女は、可愛いという印象を与える皇とは真逆で、まさに「美人」という言葉が誰よりも似合っている。


だが、妙だな……。


彼女に()()して以来、気まずくなってお互いに声を掛けることはなくなったのに、どういう風の吹き回しだ?


俺が頭の上に?マークを浮かべていると、西城はペン回ししながら、


()()、したわね、ミツキ? 勿論、後で先生に自主的に報告するわよね?」


「は、はぁ? し、してねぇよ」


慌てて否定したが、西条は呆れた声で、自分の目を指さして、


「嘘。私、見てたわ。チャイムが鳴った後に教室に入ってきたでしょ? 何でそんな下手な嘘つくの?」


「……」


何だよ、勉強してたんじゃないのかよ。


視線を下に逸らして、黙っていると


「ほ、う、こ、く! 分かったわよね? 返事は?」


「……へいへい」 


昔からだが、正義感が強い西条を丸め込むなんて俺には出来やしない。


遅刻した事、素直に報告するか。トホホ…。


丁度、先生も「すまん、すまん」と謝りながら教室に入ってきた。


俺は、遅刻の報告をしに行こうと仕方なく立ち上がり、教壇に向かったが、その背後で、


「せこい事なんかしないでよね? そういうのミツキがするのダサいんだから」


西条がそう溢すのが聞こえた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ