理由って必要なんですか?
「――ッ。なんで、君がその事を知って……」
「知ってますよ~。2年C組の西条みどり先輩。美人で胸も大きくてスポーツも万能で……おまけに勉強もできる! まさに才色兼備! 先輩が告白したのも理解できます!」
いや、だから何でそれを君が知ってるんだよ。
確かに、俺は一度西条に、周りに煽られて『告白』したよ?
玉砕したけど……。
でもあの時、誰も周りには居ないのちゃんと確認したはずだ……。
俺の疑問をよそに、満面の笑みで、グイッと俺の胸人差し指を突き立てて言った。
「でも、私思うんです。高嶺の花のみどり先輩が先輩のような顔しか取り柄のない平凡な人、絶対振り向くはずないんですよ! 現にそうだったでしょ?」
「ぐっ……。何でそんな事、君にいきなり言われなくちゃならないんだよ……・」
ズケズケと言いたい放題言いやがって……。
こちとら胸の奥にひっそりと閉まって、最近ようやく立ち直りかけていたんだよ?
後、ぐりぐりと俺の胸を指でつつくの止めてくれ。
くすぐったい。
ーー相変わらず、不敵な笑みを浮かべてこの子は言った。
「そりゃ言いますよ! 振られたのに、未練たらたらの先輩に必要なのは、もう一度現実を見ることです! そうすれば、諦めて、私に付き合ってくれるでしょ?」
「……本音出てるじゃねーか。いいから、この手どけてくれ」
「きゃ、先輩、意外と積極的なんですね」
手を振り払おうと、手首を持っただけなのに、なんでそうなる……。
「ハァ」
深くため息をついた俺。
「今私の事面倒くさいって思いました?」
「……少し」
「思ったんだ! ひどーい! 私がこんなに歩み寄るの先輩ぐらいなんですよ? なのに、ため息つくなんて……」
大げさに首を竦めて、「信じられなーい」と呟いて俺を非難するこの子。
この子って……いうのもアレだな。
「あのな、少しいいか?」
「ん? 初めて私に興味持ってくれました? 何でも答えますから、どーぞどーぞ」
「まず、名前は? 俺、まだ君の名前聞いてないんだけど」
「あー? 私まだ自己紹介してなかったですか? それはすいません」
そう言うと、ペコッとお辞儀をして、ゴホン、と咳ばらいを一つ入れ、
「皇 珊瑚って言います。よろしくね、先輩」
「あぁ、よろしくな。じゃあ、次の質問いいか? 皇。皇が俺に告白した理由って何? 俺と皇って接点ない……よな?」
そうだ。
皇はどうか知らないが、俺は一個下の皇の事を何一つ知らない。
なのに、こんなに好意を寄せてくれるのは、俺が知らないだけでどこかで会ったことがあるのか?
そうじゃないとおかしい。
だが、俺の疑念をよそに皇はきっぱりと、
「ありませんね、私と先輩が話したのは今日が初めてです」
「じゃあ、何で俺に告白何て……」
俺がそこまで言いかけると、俺の言葉に被せるように、
「理由って必要なんですか? 理由がないと告白しちゃダメなんですか?」
「い、いや理由はだってほら……」
今までのへらへらした雰囲気とは一転して、急に語気を強めて言い放った皇。
さっきまでと同一人物とは思えない。
俺は一瞬その勢いにたじろいでしまったが、すぐに皇は元の雰囲気に戻って、背伸びして、手を伸ばして、俺の首に手を回して、思わずドキッとするような甘い声で、
「目、瞑ってくださいね。私が先輩に告白する理由。知りたいんですよね?」