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出資者会議(5)

【3】

「それだから、こうして出資者会議を開いておるというのだ!」

 リコッタ伯爵が切れ気味に説明する。

「出資額が満額でなくても紡績機は設置できる。競りの時期に間に合えば計画より高額で買い取ってもらえる可能性も高い。亜麻のままで売るより糸で売る方が値段は高いし、場合によっては染糸でも出荷できる。出資額が足りなくても収益が上がれば紡績機の残金は完済じゃ」


「でも出資額が足りなければ収益は大幅に下がりますわね」

 マルゲリータが口を挟む。

「黙れ! 女ごときが男の仕事に口を挟むでないわ」

「その女ごときが、パルミジャーノ紡績組合の幹部を致しておりますわ」


「そうなのじゃ。女ごときでもパルミジャーノ紡績組合は収益を上げておる。伯爵たるわしが起業するリコッタ紡績組合ならさらに収益が見込めるぞ」

 この伯爵の言葉は一々癇に障る。それを感心して聞いている貴族連中も同罪だろうけれども。


「そう言う事で、クルクワ家は今回は投資するつもりは無い。娘婿になるペコリーノ殿の願いで顔を出しただけじゃ。その女ごときが我が家の跡取りじゃから、女ごときに従う事にしておる」

「呆れたものだ。其の方近衛の副団長迄務めておったくせに気概が無いのか! 娘一人御し切れんとは下らん男だな」

 ストロガノフ子爵が嘲るようにクルクワ男爵に向かって言い放った。


 クルクワ男爵が顔に朱を注ぐのとその肩をマルゲリータが掴むのが同時であった。

 振り返り娘の顔を見返すクルクワ男爵にマルゲリータが微笑み返すと、ストロガノフ子爵に冷たい視線を向けた。

「後ろ暗い犯罪に関わった近衛騎士団に見切りをつけた父の気概は、その後釜にのうのうと居座っているような近衛騎士団員には伝わらないのでしょう。あいにくと男子の居ない我が家にあって、娘の私が跡継ぎになれる機会を与えて頂けた上に、貴族としての道を外さずに歩む機会を与えて下さったストロガノフ子爵様には感謝の程も有りません」


 今度はストロガノフ近衛騎士団長がその顔に朱を注ぐ事になった。

「小賢しい口だけ回る女だな。もし其方が男であれば騎士家の風上には置けんものだったであろうな。男に生まれなかったことを感謝いたせ。男なら近衛騎士団で血反吐を吐く迄鍛え直してやるところであったわ」


 更に反論しようとするマルゲリータの袖を引っ張って止めさせる。いつまでもこんな男にかかわっていても時間の無駄だ。

「如何なさるので御座いますか? 今のところウルド子爵様の五株しか投資頂けていないようですが」

「待て、急かすな。皆様方今日ここに饗しているのは我が領で収穫した物じゃ。こんなにも豊かな農作物が採れる。見ろメイドも美女ぞろいじゃ」

「ほほう、なかなかに色気のあるメイド達ですなあ」

「おい、そこのメイド、其方は名をなんと申すのだ?」


 早速にハニトラに引っかかっている近衛のバカ貴族に、宮廷魔術師二人は冷めた視線を送っている。

「リコッタ伯爵。その色気を振りまいているメイドが我らに何の利益をもたらしてくれるというのだ」

「この領内で何を収穫したか知らんが、わしが知りたいのは亜麻の収穫だ」

 さすがに理論派の宮廷貴族だ。そもそもズッキーニやオレンジはパルミジャーノ州では採れないはずだ。


 返答に窮したリコッタ伯爵はいつものように口をパクパクしていたが、急にペコリーノ氏に向かい怒鳴った。

「なんとかせよ! ペコリーノ」

「兄上、そう申されても…」

「ペコリーノ様。あなたは我がクルクワ家の婿になるお方。リコッタ伯爵家の些事に煩わされる必要はございませんわ」

 マルゲリータが混ぜ返す。


「マッ‥マルゲリータ。其の方、女の分際で口が過ぎるぞ。婿に行くとしても、リコッタ伯爵家の家人かじんであるペコリーノが実家に恩を返すのは当然であろう」

「その恩はこれまで幾年にもわたってペコリーノ様が伯爵家を支えてこられて返されておりましょう。これまで飼い殺しにしていた上に、継承権を剥奪するために我が家の婿として追い出そうと画策しておいて厚かましい」

 マルゲリータがリコッタ伯爵に対して捲くし立てるとペコリーノ氏の右腕をしっかりと掴んで引き寄せた。


「うっ腕にしがみ付くなどとふしだらな。婚儀も済ましておらぬのに何をしておる!」

 ストロガノフ子爵が叫んでいるが、メイドを両腕に引き寄せて胸に手を回している男の言葉には何一つ説得力が無い。


「はっ破談にする。ペコリーノとの婚約は破談にする! なあストロガノフ子爵殿。このような女との婚姻は百害あって一利なしとは思われんか。立会人としてもそう思われるであろう」

「その通りだな。まさかこのようなおなごだとは思わなかった。もし破談にすると言うのならわしも賛同致そう」

「何を身勝手な事を、ならば約定に書かれた内容の通り破談にする場合は伯爵家から違約の為の慰謝料を納めて貰う事になりまするなあ。金貨五十枚一枚も違える事無くお支払いいただかねば」


「そっ其の方らには借金が有るであろう。そこまで申すなら借金、金貨六十五枚を返済してから申せ」

 エドの描いた計画通りリコッタ伯爵家は食いついてきた。

 これで前回の中古紡績機購入時の借金と今回の慰謝料で、クルクワ家の借金は相殺される。

 その上でリコッタ伯爵家との縁談は円満に解消され、晴れてマルゲリータは自由の身である。


「それではこう致しましょう。先月リコッタ伯爵様がクルクワ男爵様より借用なされた金貨十四枚と婚約破棄にかかわる違約の慰謝料金貨五十枚を合わせて借金と相殺してクルクワ家金貨一枚を上乗せの上ですべて完済といたしましょう。仲立ちの見届け人はこのライトスミス商会とストロガノフ近衛騎士団長様にお願いいたしましょう。勿論仲介にあたり公証人は当ライトスミス商会が責任をもって代行し手数料もいただきません」

 急に割り込んだ私の言葉にリコッタ伯爵もストロガノフ子爵も固まってしまった。


「宜しゅう御座いますね。ストロガノフ子爵閣下」

「おっ、おお。わしはそれで…」

「では早々に手続きを進めてまいりましょう」

 リコッタ伯爵はまた思考停止に陥っている。


 この間に事を進めるべくリオニーに合図すると直ぐに隣の間に待機していたコルデー氏を連れてきた。

「ライトスミス商会の法律顧問を任せておりますコルデーと申します。ハウザー王国の出身ですが、ラスカル王国でも公証人の資格を持っております。早速に書面を起こしましょう」


 あまりに急な展開にライトスミス商会のメンバーとクルクワ男爵以外は茫然としている。マルゲリータは少し不安げにペコリーノの顔を見つめていた。

 その硬直の中から一番初めに立ち直ったのは意外にもペコリーノだった。

「待って下さい。セイラ様」

 そう言ってコルデー氏を左手で押しとどめるとグッと体を乗り出して言った。

「もうウンザリだ。ふざけるな! 兄上、わたしは兄上の持ちモノではない。人の縁談を好き勝手にするな! 誰が何と言おうとわたしはマルゲリータと結婚する。誰にも口を挟ませはしない!」


 マルゲリータの目が一瞬見開かれ、頬を朱に染めると組んでいた腕に力を込めてペコリーノに体を寄せる。

 私としては少々想定外であった。ペコリーノにここまで気概があるとは思っていなかったし、二人とも婚姻にあまり重きを置いていないと思っていたのだが…。


「ペッ、ペコリーノ…其の方家長であるわしに向かって何たる口を…許さんぞ」

「許さんと申すならどういたす。クルクワ家は今すぐにでもペコリーニを婿に迎えてこのまま帰っても構わぬぞ」

 両家の家長は来賓客そっちのけで睨み合ってしまった。

 しかしこれでは一つ間違えばペコリーノ氏は放逐の上、クルクワ家の借金はそのままという状態になりえない。

 まあ最悪の場合の手札も用意してあるが、ここはもう一枚カードを切ろう。

ペコリーニ氏は男気を見せました。

もっと早くに見せていたらもっと事態は好転していたかもしれないですが…


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[一言] ペコリーノなのかペコリーニなのかどっちだ?
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