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閑話13 グリンダのお嬢様(1)

今回は少し目線を変えてみました。

パルミジャーノの事件の裏でグリンダは何をしていたのでしょうか?

【1】

 クロエ・カマンベールが友人のカミユ・カンタルと午後のお茶を飲んでいた時にその少年は現れた。

 なんでもゴッダードの騎士団より推薦を受けて近衛騎士団に入団するという。近衛入団者は王立学校入学が義務付けられているので来年からは同級生だ。

 平民で推薦となると優秀なのだろう。自分のような貧乏男爵の孫娘など相手にされないだろうと思いつつも、スラリとしていて筋肉質なその少年にときめいてしまう。


「私ごとき貧乏男爵家です。それも孫娘では貴族とは名ばかりですわ。これを機にカミユ様共々に近衛の騎士様として王立学校でも親しくして頂ければ心強い限りです」

 ここはカミユ様に便乗して少しでも関心を持ってもらおう。

「そうですね。クロエは州は違えどわたくしの良いお友達です。ヴァクーラ様、わたくし共々守ってくださいませ」

「心得ました。お二人の盾になる事をお約束いたしましょう」

 お二人のと言ってくれたヴァクーラ少年の言葉にお追従ついしょうと判っていながらも嬉しくなってしまう。


 カミユ様がロックフォール侯爵令嬢にご挨拶に向かうために立ち上がった。この時間はゴルゴンゾーラ公爵令嬢のヨアンナ様とお茶会の最中だ。

 ゴルゴンゾーラ家と同じ州の貴族として同行しないわけにゆかない。

 みすぼらしい自分のドレスを見てため息が出る。せめて男爵家の跡取り娘ならばと思うが仕方ない事だ。


 ブリー州は最近木工品の生産や輸出が活発で、隣のハウザー王国との貿易も盛んになり羽振りが良い。

 隣のパルミジャーノ州も紡績で利益が上がっているそうだ。我がアヴァロン州でもロックフォール家が主導して、大規模に紡績工場を立ち上げるとか噂には聞いているが、カマンベール家は領地も狭くどれだけ恩恵にあずかれるのかわからない。


 中庭のお茶会に行くとヨアンナ様がカミユ様の従妹のサレール子爵家のご令嬢とサムソー子爵家のご令嬢と一緒に座っている。

 ロックフォール侯爵令嬢の隣に座る男爵令嬢もクロエとは雲泥の差があるドレスを纏っている。

 案内した騎士のヴァクーラ少年は、ドレスなど気にもしないだろうが比較されているようで恥ずかしい。

 彼はロックフォール侯爵令嬢に挨拶している。

 話を聞いているとロックフォール侯爵令嬢と面識があるようで、子爵家のお茶会に赴くような家庭の子息ならばクロエより育ちが良いかもしれない。


 ゴッダードの子爵家と言えばゴーダー子爵家の縁者かもしれない。父の従姉妹が暮らしているとか聞いたことがあるが、クロエ自身は行った事も無ければ会った事も無い。

 なんでもゴッダードの街を治める有力貴族だとの事だ。

 王立学校には行ってもあの騎士は自分の事を気にかけてくれるだろうか。そもそも覚えてくれているだろうか。

 そう思うと悲しくなる。

 帰って行くヴァクーラ少年の後姿をぼんやりと見つめていると声がかかった。


「クロエ様はヨアンナさまと同じアヴァロン州のご出身で御座いますか?」

 リナ・マリボー男爵令嬢が聞いてきた。

「ええ、北西部と言っても北部との境の土地でこれといった取柄も無い領で御座います」

 クロエは伏し目がちにマリボー男爵令嬢を見ながら答えた。同じ男爵位ながら着ている服も装飾品も自分とはまるで違う華美な装いに身が縮こまりそうになる。


 縮こまりながらテーブルに設えて貰った椅子に座りお茶を飲む。味も香りも飲んだ事のない高級品のようだ。お茶請けも生クリームをふんだんに使ったファナセイラやファナクレープ迄並んでいた。

 …ああそうか。ロックフォール侯爵令嬢が名を遺せと揶揄していたのはこの事なのかと改めて感じる。


 するとそこへ若いメイドが一人近寄ってきた。

「ヨアンナ様お忙しいところお時間を頂きたく参上いたしました」

 なにかと思って見ていると、テーブルのすぐ横で一礼するとなんといきなりヨアンナ様に話しかけたではないか。

 通常上位貴族、それも公爵家の者には相手から声を掛けられてから話をするものである。余程近しいか身分の近いもの以外はそのような事は先ず行わない。

 メイド風情がそのような事をすればとがめを受けて罰せられても文句は言えない。


 クロエが唖然とするのに構わずメイドは話し始める。

「以前ヨアンナ様にお持ちした家具彫刻の図面が出来上がりましたのでお持ち致しました。お目通しの上またご助言を頂ければ幸いと存じます」

「あらグリンダ。ヨアンナは見栄えを気にしても私のように本質を見ていないのだわ。実物を見ないで想像しても机上の空論なのだわ」

「あら、食い気ばかり優先させて優雅さを理解できないあなたが何を言うのかしら。私には王都の公爵令嬢として磨かれた感性が有るかしら。グリンダ、あなたのお嬢様にもこれは負けないかしら」

「そう言えばグリンダ。あなたのお嬢様はゴーダー子爵家の縁者だそうだけど田舎者の割に味覚の発想は大したものなのだわ。でも頭で考えても味わって磨かなければ完成しないのだわ」


「その通りでございますね。我が商会のセイラお嬢様もそれは心得ております。自分で出来ない事は出来る者に信頼してお任せすると申しております。信頼して任せた以上は責任は自ら受けると申して私もこのように自由に動ける次第なのです」

「それは良い心掛けなのかしら。なら私も頭で考えるだけでなく一度ゴッダードに赴いてみるのも一興なのかしら」

「ウフフフフ、グリンダのお嬢様は一筋縄では行かないのだわ。責任は自ら負う代わりに成功した暁には利益もすべて持って行くのだわ。うちの執事のモロノーが溢していたのだわ。あなたとエマに振り回されたあげく儲けは殆んどセイラ様に持って行かれると」

「あら、でもリスクも負うのでしょう。それなら見返りは当然かしら」

「でもね、ヨアンナ。セイラは間違えないのよ。裏切らない人材を集めてきて出来るように鍛え上げて見極めて使うのよ。先ず失敗しないわね」

「ファナ様それは買いかぶり過ぎでございますよ」

「私は会ったことが無いけれどお兄様やモロノーの話を聞いていれば知れるのだわ。なによりグリンダ、あなたが一番良く解っているのだわ」


 クロエはヨアンナやファナと隔ても感じられずに話すグリンダと言うメイドの姿に混乱していた。

 何者か理解出来ずに隣のカミユに小声で尋ねると意外な答えが返ってきた。

「あれはライトスミス商会の家宰なの。メイドのなりはしているけれど商会主の右腕で業務を取り仕切っている人よ」

「…商会の家宰っていったい? ライトスミス家では無くて商会? そもそもライトスミス商会ってなんですの?」

「ライトスミス商会はブリー州とレスター州をほぼ牛耳っている大手商会なのよ。彼女が家宰と言うのは、その商会がライトスミス家のお嬢様と側付きメイドだったグリンダさんがご友人と始めた商会だからなのよ」


「グリンダさんが側付きメイドと言うのならそのお嬢様もお若いのでしょうか」

「ええ、ずいぶんとお若い方だそうですわ。ゴーダー子爵の縁者の方とお伺いしていますが、ライトスミス家は平民だそうですわ」

「平民なのにヨアンナ様やファナ様と繋がりが有るのですか?」

「クロエは聖教会の教室や工房の事はご存じありませんか? あれはライトスミス商会が始めたそうですよ。ほらセイラ様の誓いとかのセイラ様って、グリンダさんのお嬢様の事なのだそうですよ。きっと聖教会の関係者の一族ではないかと思うのです」


 クロエも聖教会の教室や工房は知っている。

 二年前にカマンベール領にも作られたのだ。アヴァロン州では一番初めに出来たのがカマンベール領だったのだから。

 聖教会の工房のお陰で貧しかった村々の暮らしも少し豊かになって、聖教会教室には領主館の家臣たちの子供も通っている。

 なんでもゴーダー子爵家の紹介が有ったとか聞いたが、それならそのライトスミス商会にゴーダー家を通して口を利いて貰えるかもしれない。

 そう言えばさっきの若い騎士様もゴーダー家の縁者のようだ。その縁で王立学校に入ったのだから…。


 クロエが少しロマンチックな想像に意識を飛ばしているうちに、グリンダとファナ達の話は終わったようだ。

「それではヨアンナ様、御父上にまた紡績機のお話でご相談に上がりますとお伝えください。ファナ様、パルミジャーノ州では侯爵様の思惑通り面白い事態が起こりそうですので、私はこれよりストロガノフ騎士団長のご子息に面会に参ります」

「あのストロガノフ家を引っ張り込むつもりなのね。うまく行けばロックフォール家にも一口乗らせるのだわ。結果が楽しみなのだわ」

「何をするつもりなのかしら。面白そうだから結果を教えなさい。それからあなたのお嬢様にも一度お会いしたいものかしら」

「秋になって予科が休みに入る頃には是非いらして下さいませ。お供のメイドを待たせておりますので、失礼いたします」


 グリンダと言うメイドは嵐のように去っていった。

 クロエはわずかな時間ではあったが色々と王立学校に上がってからの、良い繋がりが出来たように思った。

あまり出てこない貴族令嬢のお話でした。

ウィキンズの活躍の裏で色々と起こっているようです。


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― 新着の感想 ―
[一言] マリボー、デンマークでの生産終了でなくなってしまいましたね。
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