閑話11 ウィキンズと王都(3)
ウィキンズ回です。
「副団長、えらくやつれてるけどいったいどうしたんですか?」
「少しな、精神的に消耗してるだけだ。大した事じゃあないよ」
「消耗してるってだけって、フル装備でゴッダードの外周を全力疾走する副団長がそんな状態になるなんて大変な事じゃあないですか」
「体力的な事ならともかく、神経は細いんだ。エリン団長を通してライトスミス商会のグリンダさんから依頼があったもんでな。なんだか王都に来てから何を食べても味がしない」
「副団長、今日は休んでは?」
「そう言う訳にもいかんのだ。約束が有ってな。ちょっと行ってくるわ」
あのボウマン副団長が風に吹かれてフラフラしながら出て行った。
◇◇◇◆◇◇◇
「近衛騎士団副団長殿。ゴッダード騎士団より参りましたウィキンズ・ヴァクーラと申します。ゴッダード騎士団より推薦を受けこの秋に近衛騎士団への配属と王立学校への入学を命ぜられました。未熟者ではありますが秋よりご指導のほどよろしくお願い申し上げます」
よし、言えた。練習どうり詰まる事無く言えた。
「まあ南部の田舎町ごときの騎士団では未熟も未熟、役には立たんだろうが王法で拒むことも出来ん。栄光ある近衛騎士団に受け入れてやろう」
副団長は面倒くさそうに推薦状に目を通すと署名をして印章を押した。
続いて任官登録証を取り出すと、九月一日付での近衛騎士への任官と着任指示を記入して署名と押印を行うと二枚の書類を俺に突き出して言った。
「任官には遅れるな。遅れれば罰則だ。それから任官後に検定が有る。それによって配属が決まるからそれ迄しっかりと鍛えておけ、以上だ」
近衛騎士団の副団長は、とっと行けと言うように手で俺を払った。
「副団長殿。近衛騎士団長殿宛に手紙と荷物を預かってきております。お渡ししたいのですがどうすれば良いでしょうか?」
「そんな事は知らん。ワシの手を煩わせるな。ワシがなんであんな俗物の使い走りをせねばならんのだ」
…俗物。直接の上司に対してその口ぶりはよほど仲が悪いのだろう。
「ではどのように致しましょうか」
「今はどこかの女中が持ってきた儲け話とかにうつつを抜かしておるから、二の鐘が鳴るまでどこかで時間をつぶしておれ。その頃にはあ奴もここに戻っておるだろう。付け届けだと言えば喜んで迎え入れてくれるわ」
そう言うと更に煩わしそうに左手を振ってドアを示した。
これ以上居て不興を買うのも嫌なので一礼して退出する。
さて二の鐘までの時間を何をしてつぶそう。
多分まだ半刻余りあるだろう。あまりウロウロして絡まれるのも厄介だ。
馬場の隅の木陰に腰を下ろして時間が来るまで大人しく待っている事にした。
建物ばかりの王城の中でこの馬場の周りは木々が茂り静かだ。
静寂と春の日差しでついウトウトしてしまっていた。気付くと俺の回りに三人の見知らぬ少年が立っていた。
「近衛の馬場で昼寝とは、王都騎士団の分際で暢気なものだなあ」
まずい、気を抜いてた。
俺は慌てて立ち上がろうとしたが、その肩を模擬刀で抑えられ無理やり座らされてしまった。
「いえ、自分は王都騎士団では無くゴッダード騎士団より参りました。この秋に近衛騎士団に配属予定になり辞令を受けに参上した次第であります」
「ああ、地方の田舎騎士か。平民の猿風情がのこのこと王都に参上して近衛に配属とは恐れ入る。その上馬場で居眠りとはたるんでいる証拠だな」
「恐れ入ります。弛んでおりました。精進致します」
俺は立ち上がって敬礼する。
「遠慮するな。俺たちが鍛え直してやろう」
「有り難いお事ですが、ご辞退させていただきます。これから近衛騎士団長殿との面会の約束が有りますのでご寛恕の程を」
三人はヘラヘラと笑いながら俺の周りを囲む。
「まあそう言うな。近衛騎士団の武芸の程を感じさせてやろう」
「軽く汗でも流そうじゃないか。さあ」
◇◇◇◆
今朝、近衛騎士団に挨拶に行くときにレオナルドとベルナールは騎士団迄の道案内迄はしてやると言ってついてきてくれた。
ただし中には一緒に入らないと言った。
中に入れば絶対に近衛と喧嘩になってしまうし、イヤミや嫌がらせを受けても我慢する自信は無いからと。
レオナルドとベルナールの二人とは表門で別れた。二人が一緒に居ればトラブルになるからと言って。
二人が手を出せば、俺に不利になる事は目に見えているのでそれは出来ないから門までだと言って。
その上でさんざん俺に我慢を強いてきた。
嫌な事を言われても否定はするな。黙っていろ。反論すると付け込まれる。殴られても今は耐えろ。
そしてゴッダードでも王都でも騎士団の事を罵られても仲間を貶められても俺が全部飲み込めと。手合わせを申し込まれても絶対受けるなと。
そして最後に仕返しは近衛に入ってからやれと。
ベルナールが言うには推薦で入って来る一般騎士団員の、特に地方から来る騎士団員は優秀なものが多い。
奴らは入る前に因縁をつけて問題を起こさせ、入団させないように画策するそうだ。
一般騎士団員は実力では近衛騎士より格段に上だからとレオナルドも胸を張る。
王都騎士団のプライドも有るのだろうが、手合わせをした限りでも二人の力は大したものだった。
二人の言う事は間違いでは無いのだろう。
その上で二人は言う。
手合わせをすれば潰されると。
以前、かなりの実力が有った王都騎士団の見習い生がいたらしい。近衛の騎士見習いたちと王都騎士団の見習いたちが街で喧嘩になって、代表どうしの手合わせで決着をつける事になったそうだ。
そして代表になったその見習い騎士は両肩の骨を折られて剣が持てなくなった。
一緒に行った見習いは、"対戦相手はどう見ても格下で彼が負ける要素など微塵も無かった"というのにだ。
試合の最中に模擬刀は相手に叩き折られて、両肩を打ち砕かれたという。多分模擬刀にも防具にも細工がしてあったのだろう。
その見習い騎士は志半ばで王都騎士団を去ったそうだ。
だから目的が有るならばすべて飲み込んで騎士団の推薦を貰えと二人は言った。
◇◇◇◆
「勘弁して下さい。自分は両手剣の技量も優れず出自も卑しいもので満足な礼節も弁えておりませんゆえ」
ここは逃げる一手だ。
「いかんぞ。そんな事では近衛で務まらん。さあ、近衛の洗礼を授けてやろう」
「お願い致します。これよりすぐ後に近衛騎士団長との面会が控えております。面会に遅れる様であれば団長に迷惑が掛かります。どうぞお許しください」
俺は膝をついて頭を下げる。
「はあ? お前のような田舎者が団長に面会だと? いい加減な事を言うな」
「田舎騎士団上がりのガキと団長が面会など適当な事を言いやがって」
「良いからさっさと来い」
俺の話が言い逃れのでまかせだと思っている様で執拗に絡んで来る。
「第七中隊、十二小隊の三等騎士の皆様とお見受けいたしますが、それでしたら小隊長から遅延のお言葉添えをお願いして頂けるようにお口添えをお願い致します。近衛騎士団長にはお渡しする書簡と荷物を持参しておりますので十二小隊との訓練で遅延すると一言で宜しいので」
三人は慌てて肩章と小隊章を手のひらで隠しかけたが諦めて、忌々しそうにこちらを睨むと吐き捨てるように言った。
「まあ今日の所は勘弁しておいてやる。団長との面会なら仕方ないが、その顔は覚えておくからな」
「入隊したならばじっくりと教練をつけてやる。覚悟しておけ」
そう言い残すとつまらなさそうに去っていった。
嫌な目に遭ったが時間つぶしにはなった。
どうにか俺は近衛騎士団長の執務室に向かい、書簡と荷物を渡す事が出来た。
副団長の言う俗物団長は書簡を一瞥すると荷物の包みを開いて、中の者を見て相好を崩す。
華美な装飾を施したリバーシ盤であった。
「ゴッダードの田舎町にしては中々弁えた者が居るようだな。ライトスミス商会とか申すところの家宰には良しなに申しておけ」
「家宰でありますか?」
「ああ、女人のようだな。グリンダとか申す家宰には確かに受け取ったと伝えておけ」
グリンダめ、いったい何を企んでいるんだ。
ウィキンズ達の陰で誰かがうごめいて策略を巡らしているようですね。
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