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ゴッダード包囲戦(1)

【1】

 南部に乱入した教導騎士団がまず初めに行ったのが周辺の農村への襲撃だった。

 事前に発せられていた警告により小麦や燕麦は刈り取られ、大麦も早めに刈り入れられて近くの城壁のある町に農民ごと運び込まれていた。


 街道の農村は住民の居ないまだ身が入りきらないライ麦畑だけが残る無人の野に変わってしまっていた。

 諦めた教導騎士団はまだ青いライ麦を刈り取って馬ではなく兵が食べる事になってしまった。


 これは極端に教導騎士団を飢えさせれば見境なく略奪に走るであろうことを踏まえて、青いライ麦を刈り残しておいたのだ。

 教導騎士達は本来貴族の食べもでは無い平民や農民の食料であるライ麦を、それも本来馬や牛の餌にする青いライ麦を食べて糊口をしのいだ。


 街道の途中からゲリラ的に出てくる南部兵に苦慮しながらも教導騎士団は百騎ほどの犠牲だけでゴッダードとファナタウンの近郊にまでたどり着いた。

 教導騎士団の戦略はファナタウンを東から襲撃し、それに呼応してハスラー王国からの援軍が西部より越境して西岸からファナタウンを挟撃する予定だった。


 しかしその時点でブリー州はファナタウンとゴッダードに至る防衛線を構築し万全の態勢で待ち受けていたのだ。

 その防衛線を教導騎士団は抜く事が出来なかった。


 幾重にも張り巡らされた塹壕と柵、そして逆茂木の突き出た落とし穴。

 教導騎士団は被害が増えて尚且つ敵にダメージが与えられない状態で焦っていた。

 そこにゴッダードの密偵より情報が入った。


 王女一行はゴッダードに居るらしい。そして要人の家族もゴッダードに集まっておりゴッダードを落とせば勝てる。

 ゴッダード市内の戦力を戦闘に引き付けておけばその間に要人暗殺を決行しそれが成功すれば勝利できるとの連絡であった。


 教導騎士団は夜陰に乗じて軍勢を東に迂回させてゴッダードの東城壁を目指して進軍を始めた。

 気付くのが遅れてブリー州州兵は移動を始めた頃には教導騎士団はゴッダードの城壁に包囲網を敷いて、追いすがるブリー州州兵への迎撃態勢も整えていた。


【2】

「みんな聞いてくれ! 教導騎士団の奴らはターゲットをファナタウンからゴッダードに切り替えたようだ。籠城戦になるが増援が来るまでの数日の辛抱だ。協力をしてくれ」


 市民の多くはその朝打ち鳴らされた聖教会の鐘の合図で聖堂前の広場に集まっていた。

 そこに現れたボウマン副騎士団長が聖堂の前に立って檄を飛ばした。


「みんな、勘違いするな! これはハッスル神聖国とその一派による侵略行為だ。王女殿下の拉致暗殺はただの方便だ。今ラスカル王国の北部ではハッスル神聖国の教導騎士団が国境を越え侵攻している。それに呼応したペスカトーレ侯爵家たち教皇派の州兵が周辺の州に攻め込もうとしているのだ。国王陛下はモン・ドール侯爵家に人質に取られている。明らかに反乱と売国行為だ」

 続いてゴーダー子爵が拡声魔法を使って状況の説明をする。


 大半の市民は張り紙や商人情報紙や噂話から状況を把握していたので反論の言葉は出ない。

「北西部から増援部隊が来ることは船会社の話で聞いているが、西岸は大丈夫なのか? ハウザー王国から来た謀反者を教導騎士団が従えて襲撃が有っただろう。同じ事は起こらないのか」


「その対策も取っている。東岸はグレンフォードから来たレスター州の兵が固めている。ファナタウンの住民もゴッダードに避難している。いまファナタウンにはエリン団長が率いる州都騎士団の精鋭が居座っているだけだ」

「それなら負ける事はねえな」

「おう、それなら俺たちは城壁の守りだ」

「「「おう、教導騎士団は殲滅だ」」」


「バカヤローめ。俺たちは町を守り抜くのが仕事だ! 攻めてくる奴らは追い払え、殺す事は目的じゃない。聞け―! これは防衛戦だ。戦闘は州兵と州都騎士団に任せておけばいい。命を落とすな! 命を無駄にするな!」

「「「おー! 命は金で買えねえ、生きてりゃ誰かの役に立つ、知恵を使え!」」」

 そして市民の多くが城壁付近に集まりだした。


【3】

「あなた! どこにいらっしゃるのかしら? あなたが城壁に行っても役になど立たないのですからね」

「俺はなあ、レイラとオスカルの為になら命を落としても悔いはないんだ!」

「それをセイラの前で仰って御覧なさい。セイラに殴られますよ。あなたの犠牲なんてわたくしは望みません。セイラだって、あなただけでなくゴッダードの市民一人たりとも命を落とす事など望んでいないはずですわ」


「そうですわ旦那様。奥様をお守りになるなら屋敷の中で指揮を執って下さいませ。ここのメイドはまだ幼い見習いが大半なのですから。何よりこの屋敷は女ばかりなのですからね」

 アンの言葉にオスカーもこれ以上は反論も出来ずすごすごと屋敷に戻って行った。


 屋敷の玄関で言い争っていた、と言うよりも一方的に叱られていたオスカーとアンとレイラの姿を物陰から窺う者がいた。

 昨日、教導騎士団の斥候が現れた頃からライトスミス邸の様子を窺う者が現れていた。

 どうも交替で覗いている様で少なくとも三人の人間が入れ替わりで来ている事は間違いない。


 ライトスミス邸の見習いメイド達はセイラカフェメイド予備軍であり選りすぐりの精鋭である。

 知識も作法も戦闘術もまだまだ一人づつでは拙いが、持っている潜在力は非常に高いのだ。

 見張りが来た時からすでにメイド達は気付いており、その様子も事細かに確認していた。

 そしてその結果は鐘が鳴るごとにお使いに出る見習いメイドがフィリピーナに伝えて指示を貰っていたのだ。


 朝から城壁では戦闘が始まっていた。

 地の利と防御態勢を整えて機動性を武器に有利に展開していた州兵ではあるが、兵力は教導騎士団の半分である。

 教導騎士団はゴッダードの北側に重歩兵を並べて防御を図りつつ、残りの兵を攻城部隊に振り分けていた。


 とは言いうものの教導騎士団も攻城兵器を準備していない。

 精々城門を突き破るために緊急で作られた丸太くらいのものである。

 それも城門に辿り着く前に矢を射られて進む事も出来ず、何より堀に架かる橋が上げられているので城壁に取り付くにも一苦労である。


 女子供は子爵邸や市庁舎や聖教会に集まり負傷者の治療や炊き出しに当たっている。

 そして幼い子供たちは市庁舎の三階に集められてセイラカフェメイド達に守られていた。

 エレノア王女たち留学生はと言うと二階の処置室に居を移して、トリアージで黒札の付いている重症患者たちの治癒に当たっていた。


 決死の覚悟で重症者の治癒を行う王女や枢機卿たちの娘の姿は市民にとって感動的な光景であり、彼女らの命を狙う肉親の教導派枢機卿たちへの憎しみが掻き立てられて行く。

 市長の意図としてはそんな市民の目の中で監視同前の状態でいる王女たちに刺客が近寄る手立ては無いとの考えだ。

 何より王女たちに治療を受けているトリアージで黒札の付いた重症者は刺客足りえないのだからこれほど安全な状態は無いだろう。


 騒然とする公共施設とは裏腹に市内の通りは閑散としていた。店は全て扉を降ろし露店も出ていない。

 行き交う者は武器や食料を積んだ馬車と負傷者を運ぶ担架や荷車だ。

ついに戦果はファナタウンからゴッダードへ

強力な城壁に守られながらもそれでも傷つく者も死ぬものも出るのです


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