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王都大聖堂の画策(2)

【2】

 施術が終わり私たちは直ぐに帰路につくべく撤収の準備を始めた。

 私もかなりクタクタだが、私よりも聖魔力を多く使っているジャンヌはかなり疲弊している。

 元々白い肌が本当に色を失っているのだ。


「ルカ様、騎士を呼んでください。ジャンヌさんに手を貸してあげてください」

「おう、トム、ジョニー、コリン、エド、フィル入って来い。聖女様の護衛と手助けを、こっちの跳ね返り神子もだぞ」

「跳ね返りは余計だよ! 神子もいらないわ。介助も必要ない」

「真っ青な顔をして何を言ってる。こういう時は大人の言う事に従っておけ」


 ルカ中隊長の言葉と同時に私たちは五人の近衛騎士に囲まれて、腕をとられ脇を抱えられた。

「お待ちくだされ。そう急いで帰られずとも別室にて食事も酒も用意致しておる。しばし御歓談されても良いのではないか。体調が優れぬなら仮眠がとれるようにご用意致そう」


「症状や処置結果は明日にでも書面で提出いたします。今教皇様は眠られておられるご様子。体力消費が激しいのでこのまま起きる迄寝かせて置いてください。呼吸補助と心臓の補助も必ずつけて下さい。それから食事は…」

「食事はアジアーゴで治療の際に食していた物を同じように消化の良い者を出してちょうだい。タップリの野菜で作ったスープか良く煮込んだシチューを。アルコールはエールでもワインでも絶対ダメよ。湯冷ましの水を飲ませなさい。細かい事はアジアーゴで看病に当たっていた治癒修道士の指示に従うのよ。そこから外れた行動をとれば命の保証は出来ないからね」


 アナ司祭の言葉を途中から引き取って私が指示を出す。

 アジアーゴの治癒修道士たちはルイーズの指導で食事療法の知識を基にした簡単な病人食の知識とレシピを指導されているのだ。


「待たれよ。今帰られても」

 数人の枢機卿が慌てて私達を止めようとする。

 そこにワラワラと近衛騎士団が入って来てアナやカタリナやキャサリンも取り囲んで廊下に向かって進みだした。

 おい、近衛騎士ども。物欲しそうな顔で見ているが三人とも聖職者だからな。

 うちの娘たちに手お出したら容赦せんからな。


 六十人の騎士に取り囲まれて重戦車の様になった私たち一団は王都聖教会の聖職者たちを振り切って馬車迄行き着いた。

 私たちの馬車を取り囲んで近衛騎士達が足音を響かせながらゆっくりと王都大聖堂からゴルゴンゾーラ公爵家の聖堂迄行進を始めていた。

 市民たちがそれを物珍し気に集まって眺めていた。


【3】

 ゴルゴンゾーラ公爵邸に戻ると私たちは軽食と小休憩をとってすぐに別室に集まった。

 無理をするなといったのだけれど結局ジャンヌも交えてその日の治療結果をまとめる事になったのだ。


 ゴルゴンゾーラ公爵家はもとよりロックフォール侯爵家からも王都診療所からも治癒術士が集まっていた。

 結核治療はこれまでも対処療法的な方法での治験はあったが、聖属性を交えた本格的な末期患者への治験は初めてで皆興味津々なのだ。


 身近に有って致死率の高い病なのでみんなの気持ちもわかるが、さすがに議論まで参加する気力は持たない。

 診断結果と処置内容をまとめ今後の治療方針を明示するまでに留めて、その日のうちに報告書を王都聖教会に送り届けて私たちは休むことにした。

 残った治癒施術士たちは朝まで侃々諤々の意見を戦わせていたようだ。


 翌朝というか日の出すぐの早暁に部屋をノックする者があった。

 気持ちが高ぶっていたのだろう。浅い眠りだったのでその音ですぐに目が覚めた。

 私が返事をするとドアを開けて顔をのぞかせたのはフィディスだった。


「セイラ様、お疲れのところ失礼かと思いましたが早めにお知らせする方が良いかと思いまして」

「いったい何があったの?」

「王都大聖堂から使いが参りました。この書簡を置いて今引き上げられました。ゴルゴンゾーラ公爵が目を通されて私に託されたのですが、これはセイラ様とアナ様には早急にお知らせすべきと判断いたしました」


 そう言って手渡された書簡に目を通す。

 そこには教皇一行は他国の枢機卿たちの見送りの為に東へ発つと記されていた。

 ハッスル神聖国とハスラー聖公国の枢機卿たちは一斉に帰国する様で全員が陸路で東部の国境を目指すようだ。

 それに対するねぎらいと見送りの為教皇も同行すると書かれている。

 その為今後のジャンヌの治癒は王都に戻ってからとなる為必要な対処事項を教えてくれというものだった。


「良い判断だったわフェディスちゃん。誰か、アナ司祭も呼んでこちらの部屋にすぐに来てもらうようにお願いするわ」

 昨日の治療の結果リンパ節の痛みもとれ腎臓からの血尿も収まったのだろう。

 咳も収まって呼吸も楽になっているはずだ。


「少し楽になったからといって愚かなことを。すぐに転移が始まってまた病巣をあちこちに作る事になると言うのに」

 アナが腹立たしそうに言う。

「ジャンヌ様がお聞きになるときっとお怒りになりますよ。命を粗末になさる方をとてもお嫌いになりますから」

 ああ、それはきっと(俺)のせいだ。


「この件は私たち二人で片が付くでしょう。ジャンヌさんはこのまま寝かせてあげてちょうだい。さて、一応教皇には苦言を呈しておきましょう。ペスカトーレ枢機卿にもジョバンニにも。三人の名前を入れて勝手な事をするならこれ以上の治癒の成果を保証できないと」

「それだけで宜しいのでしょうか?」


「どうも引っかかるのよね。このタイミングで幹部が王都大聖堂を留守にするなんて」

 そもそもジョバンニは王都大聖堂の大司祭だ。

 私が引導を渡した前の大司祭の後釜に座ったのだから。

 そして王都とその周辺の地域の中枢部の聖教会を管轄するのがペスカトーレ枢機卿なのだ。


 国の南部はボードレール枢機卿が、西部はパーセル枢機卿が担当している。

 そして北部はポワトー枢機卿が管轄の地域だったが暫定ではあるが今はジョアンナ枢機卿の受け持ちとなる。

 その清貧派の三枢機卿を王都に残して王都大聖堂を空にすると言うのだ。


 東部管轄のアラビアータ枢機卿は当然同行して領地の大聖堂に帰るだろう。

 そして王都大聖堂の教導騎士団はその警備のために大半が同行するに決まっている。


 今の状況で私たちが大きな動きをする事は無いと言えあまりにもその行動は大胆過ぎないか。

「でも各国の枢機卿が帰国するためには多くの教導騎士を警備につけねばなりません。その上で教皇を王都に残しておくほどの警備の手を取れないのではありませんか? それならば警備兵ごと全員で動く方が安全と考えてもおかしくはございませんよ」


 アナの言葉にも一理あるのだがこれには何かキナ臭い物があるように感じてしまう。

 だからといって彼らを止める手立ても無い

 ましてやこちらから苦言を呈しても彼らは聞く耳を持たないだろう。

 ジャンヌは目を覚ませば怒るだろうが、これといって何もできないのだ。


 私はアナと二人でこれからの当面の教導派治癒術士でもできる治療方法と生活指導や食事療法の献立を記載して王都大聖堂に送った。

 当然冒頭にはしっかりと苦言を呈し彼らの勝手な行動は患者の健康を保証できない旨を明記している。


 結核患者は高カロリー高タンパクの食事を推奨されるので、当然嫌がらせも込めてオートミールやライ麦の接種を強硬に主張し、パンも全粒粉のライ麦パンを食べるように指示を出した。

 そして当然アルコール摂取は禁止。

 湯冷ましの水の接種を義務の如く書き連ねている。

 どこまで守れるか知らないがそれを破れば命の保証はしないと脅しはかけている。

王都大聖堂の不穏な動き

教皇派の目的は?


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