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北部の状況

【1】

 少しは使えるかと思ったが愚か者め。

 痩身長躯の謎の男は街中で行われたシュレッドの逮捕劇を見ながら腹立たし気に舌打ちした。

 あの人質の女はこの街の名士のようだ。

 市民に大層慕われている様だが、あの顔はどこかで見た事があるような気がするのだが思い出せない。


「なあ、俺は物産の買い付けに初めてこの街に来たんだがあの人は一体誰なんだ?」

「お前知らないのか。って始めて来たんだな。それならラッキーだぜ。レイラ様のお顔を拝めるなんてよう」

「ああ、どうもレイラ様と仰る方なんだな。それでどういう方だ」

「ああ、ライトスミス家の奥様だよ。ライトスミス家の全てを取り仕切っておられる方だけれど慈悲深くて上品で高潔なお人だよ」


「ライトスミス? …! あのライトスミス商会の」

「あれはレイラ様の娘さんのセイラ様の商会だ。そうは言ってもあのセイラ様もレイラ様には頭が上がらないんだがな。ハハハ」


 あっ、ああ!

 なぜこんな簡単な事に気づかなかった。

 あのレイラと言う女はセイラ・カンボゾーラにそっくりじゃあないか。

 顔立ちはもちろん慇懃無礼な口調も命の危機に動じない肝の座った行動もあの咄嗟の機転や躊躇いない行動も全てがだ。


 母親のルーシーどころでは無く本当にそっくりなのだ。

 あのレイラと言う女から気品を引けばセイラ・カンボゾーラそのものだ。

 フィリップ・カンボゾーラとルーシー・カンボゾーラの言動に疑いも持たず納得していた自分が愚かしい。

 審問会でもセイラ・ライトスミスは帽子をかぶり顔を隠していたと言う。

 セイラ・ライトスミスはセイラ・カンボゾーラで間違いない。


 思わぬところで拾い物をした。

 あのレイラという女は、いやあの女の家族は、そしてこのゴッダードという街はセイラ・カンボゾーラの喉笛に突き立った刃物だ。

 俺はそれを手にしたようだ。


 謎の男は何を考えてか一人ほくそ笑んだ。


【2】

 アストゥリアス州の州兵が州都ビコスからオーブラック州に向けて送り込まれている。

 海軍への襲撃に激怒したカブレラス公爵が州都騎士団を中核とした軍を送り出したのだ。


 王都の西を抜けてオーブラック州に抜ける街道はヨンヌ州を横切る。

 当然ヨンヌ州の州都フェルミナでは輜重隊長のエポワス伯爵から軍事物資の潤沢な補充を受けての出撃である。


 硬直状態にあるオーブラック州南部と西部の州境はこれにより一気に破られた。

 それにより他州、特にダッレーヴォ州やリール州の教導騎士団はアルハズ州の州境目指して東へ後退し始めた。

 当然アルハズ州の教導騎士団もそれに追従し、他州の教導騎士団の兵力だよりだったオーブラック州の州兵や州都騎士団は総崩れとなった。

 ルーション砦から打って出た海軍海兵隊はカブレラス公爵軍と合流し州都アリゴを包囲している。


 オーブラック州兵はアリゴに籠城し教導騎士団の大半は州境を越えてアルハズ州に越境してしまっている。

 元々王都騎士団から派遣されていた州都騎士団長は領主一族と教導騎士団の騙し討ちにあい殺されたためこの様な暴挙が可能になったのだ。

 そしてその騎士団は今オリゴに取り残されて怯えている。


 この先戦闘がどう進むのかは分からないが、ポワチエ州はこれで一息ついたと言う所だろう。

 だからと言って安閑としている訳にも行かず、カロリーヌやオズマはもとよりアドルフィーネもリオニーもこれからの事態に対処すべくポワチエ州を走り回っている様だ。

 とくにシャピの商船団の戦闘力強化と補強は最重要事項として進められている。

 アリゴ沖の漁村は今着々とアジアーゴ攻略に向けて軍港化されつつあるのだ。


【3】

 そんな中王都も混乱していた。

 国王がモン・ドール侯爵領に向かってから戻っていない。

 王妃殿下も両王子も幽閉されているという認識で一致しているが、確証足りえる証拠も無い。


 そんな中臨時司祭会議の見解が発表された。

 暫定的ながら今回の我々の主張を認めるが、本年も含めて毎年八月の司祭会議で毎回改選の判断を行うと言う事だ。

 そして同時にジャンヌによる教皇に対する闇の聖属性治療を王都大聖堂で行う事を要請された。


「要請と言いつつ交換条件じゃないの。ジャンヌさん、行く必要など無いからね。臨時司祭会議の時言ったのでしょう。あいつらがゴルゴンゾーラ邸まで来るか診療所に来れば私が治癒してやるからね」

「セイラさんの治癒が教皇のトラウマになっているようですよ。思い出しただけで呼吸困難に陥るようですから」


 冤罪である。暴力沙汰がトラウマになったのだろうが、私の治癒はちゃんと効いている筈だ。

「それに一度や二度の治癒でテーベー(結核)の病巣が消える訳無いじゃないの。一年近く治療を続けなけりゃ感知できないはずだよね」

「ええ、それでも大きな病巣を潰すくらいなら出来ると思う」


「聖女ジャンヌ・スティルトン。頼む、この話を受けてくれ。お前が教皇猊下に対して恨みがある事は承知している。だが奴らは俺の父と母を人質に取っておるのだ。それを踏まえての頼みだ。警備は俺から、いや王家から出せる最大の人数を出して貰う。情けない話だがお前にこうして頼む以外に俺の頭では方法が思いつかんのだ」

 あのリチャード第一王子がジャンヌに頭を下げた。


「お気持ちは理解致しました。もちろんお受けいたします」

 ジャンヌはリチャード王子の願いに即答した。

「すまぬ。わたくしからも礼を申す。事態が好転するかどうかわからぬが国王陛下を質に取られた今奴らの心証を悪くしたくない」

「俺からも礼を言う。其の方の安全は王家が万全を尽くす」

 王族三人に頭を下げられたジャンヌはアタフタしている。


「私も同行するからね」

 いきなり空気が凍り付いたように思えた。

「当然でしょう。聖魔法は併用して行う方が安全性も高いし効果も見込めるのよ。それにフェディスちゃん…フェディス聖導女とレイチェル診療所長に同行して貰いましょう。腕の良い治癒術士の補助も必要だから」


「セイラ・カンボゾーラ。其の方が言うと全て嫌がらせとしか思えないのだがな。なによりフェディス聖導女もレイチェルも王都大聖堂に入れてもらえぬぞ。だからと言って踵を返す訳にも行かんのだ」

「拒否されればゴルゴンゾーラ家かロックフォール家からを代わりに獣人属の男の治癒修道士を入れましょう」

「やはり嫌がらせでは無いか。つまらぬ諍いの種をまいて奴らの心証を悪くさせないでくれ。カタリナとキャサリンを付けてくれ。出来ればアナ司祭にも手伝いを頼めないか」

「あんな男の為にうちの美人治癒術士たちなんてもったいない」

「ならフェディスやレイチェルをなにゆえ指名した」

「どうせ拒否するに決まっているから」

「其の方は初めから嫌がらせしか考えておらんでは無いか。聖女ジャンヌ、頼むこ奴の嫌がらせの理由は解るのだがくれぐれも暴走させぬように頼む」


 そう言う事で私たちはジャンヌに従って王都大聖堂に赴く事になった。

ゴッダードではセイラの正体に今更ながらに気づいたものが!

(ええ、ご都合主義ですよ! ウマい手が思いつかなかったんですよ!)

その頃王都では教皇庁と王妃殿下派閥が抗争中

そしてセイラは教皇に対する嫌がらせに全力投球!


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