レイラ・ライトスミス(1)
【1】
福音騎士団たちは武装解除して岸辺に拘束されたままひとまとめにして転がされている。
「貴様ら。俺は貴族だぞ。一般兵とは違うのだ。貴族として遇せよ」
転がされている福音騎士達は口々に罵声を発しているが、何より士官以上の幹部騎士がうるさい。
特権に胡坐をかいて威張り散らす事しか知らない奴らである。
「うるせえ! 盗賊に貴族もくそもあるか」
「ふざけるな! 我々は戦時捕虜だぞ」
「いや違うね。両国とも友好関係を結んでいるんだ。宣戦布告もされていなければ受けてもいねえ。そもそも教導騎士団の旗を掲げて南部領地に侵攻してきた以上はハウザー王国の民じゃねえ」
「なんだと! ハウザー王国民で無ければなんだと言うのだ!」
「さあな出自不詳の盗賊団だろう。まあハウザー王国には問い合わせてみるが、あちらの国もそんな野郎はいないって回答が来るんじゃねえか」
「違う。そんな事はない。我らは間違いなく…ほら此れを見ろ福音騎士のメダルだ」
「偽造か、奪った物か。何より本国に問い合わせてお前らの存在が証明されれば貴族として遇してやるよ。証明されればだがな」
「証明されなければどうなる?」
「ラスカルで略式裁判を受ければ焼き印と指切りの刑だな。それともハウザー王国の国王陛下に引き渡しても良いがな」
ラスカル王国なら懲役や禁固の後、額に焼き印を入れられて親指を落とされる。ハウザー王国の今の国法ならば農奴として売られる事になるのだ。
「タイレル隊長、そろそろ川向こうの戦闘も終わったようだぜ。十数人の騎士が這いずりながら逃げて行ったようだけれど」
「と言う事は大半は捕縛されたと言う事だな。這いずって行ったと言う事は騎馬も全部捕まえられたっと言う事か」
福音騎士団が負けた。
もうここに助けは来ない。
指揮官は想像すらしていなかった現実に気づいて意識が遠ざかって行った。
【2】
ゴッダード市内にはかなりの情報員が入り込んでいた。
一時はゴーダー子爵邸の周辺に怪しいものがうろついていた様だが直ぐにいなくなってしまった。
あの広大な庭園を持つ屋敷にあまりにも警備人数が少ない事で直ぐに気づいたのだろう。
今は市内のゴッダード聖教会の施設や迎賓施設や高級ホテル、当然ながら商工会や市庁舎にも怪しい連中が多数出入りしている。
衛士たちはそう言った場所に巡回しながら警護と警邏にと大忙しである。
(まあその内の多くは聖堂騎士やライトスミス商会の職員から応援ではあるが)
お陰で街の業務は支障なく運営され商業活動は滞りなく流れていた。
ゴッダードの街は表面上は平穏を保っているようであった。
いまファナタウン郊外で戦闘が行われている事は知らされていないが、市民も殆んどの者がファナタウンが平穏では無い事は知っていた。
ファナタウンの一部の市民はゴッダードに避難して来ているが、反対にゴッダードから衛士隊やライトスミス商会の有志隊がファナタウンに行っている。
当然その原因もハスラー王国から帰って来た王女一行である事も理解している。
ハウザー王国との交流の多いゴッダードではエレノア王女やルクレッア侯爵令嬢の噂は聞いている。
それもハウザー王国で流れている獣人属を守り追放同然で留学した少女たちが、ハウザー王国の市民を治癒魔術で救う事でラスカル王国の懸け橋になって帰国したと。
当然教導派聖教会やハッスル神聖国の覚えが良いはずも無く命を狙われていると言う事も知れ渡っている。
教導派に対する嫌悪感の激しいゴッダードでは徹底抗戦を叫び王女たちを擁護する声が多くを占めている。
出来るだけ戦闘は避けて犠牲を減らそうと考えているブリー州の上層部の考えを弱腰だと非難する過激な市民もかなり多数いるのだ。
そんな傾向にレイラ・ライトスミスは溜息をついていた。
市庁舎の事務員の大半は商工会に引っ越しているが、市民に気取らせぬ様に受付業務や窓口に職員が未だ残っている。
そしてそれに混じって多くのライトスミス商会の事務職員も入り込んでいる。
それらの指揮を執るためにレイラ自ら市庁舎に乗り込んでいたのだが、やって来るのは自警団に参加させろだの、市は義勇兵を募らないのかとか事情も分からず勇ましい事を口にする者ばかりだ。
その中に見かけない一団がロビーをウロウロしているのに気づいたレイラは隣で事務仕事をしていたセイラカフェから応援の娘に声をかける様に指示を出した。
「警備の物を三人連れて行きなさい。いきなり切り掛かられる様な事があるから、正面からは声をかけないで。危ないと判断したらすぐに衛士に任せなさい」
単なるゴロツキや非戦闘員を使った様子見なら良いのだが刺客が紛れていれば若いカフェメイドではひとたまりもない。
そう言った事に配慮して出した指示に頷いて少女は席を立った。
「何かお困りで御座いますか?」
背後に三人の衛士姿の警備員を従えた事務員姿の少女に横から声をかけられて一団の男たちがギョッとした表情を浮かべて振り返った。
「いや、特に何も…」
「何かお手続きの窓口をお探しならばご案内いたします」
「いや、もう用は済んだ。結構だ。おいお前たち引き上げるぞ」
やはり行動があからさまに怪しい。
少女が目配せすると衛士姿の警備員が市庁舎の玄関までの通路に一般人が巻き込まれないようにさりげなく動く。
今の時点では彼らを拘束する理由も無く、強硬な対応に出ればここに警備対象がいる事を明かす様なものだからだ。
しかしかれらは少々冷静さを欠いていた様だ。
四人の男たちが集まって周りを威嚇し始めたのだ。
衛士たちが男達がいる位置から玄関までの通路の人員を左右に避難させて出て行けるように道を作った。
こんな人の多い所で戦闘になれば巻き込まれて負傷者が出る。問題が起きる前にお引き取り願えれば、出来ればゴッダードの街から退去願いたいと言うのがレイラたちの本音であった。
しかし彼らはその意図を解していない様で事務の娘を人質に取ろうと考えたのか、いきなりナイフを抜いて少女に掴みかかろうとした。
当然セイラカフェのメイドである彼女がそんな事で怯む訳も無く、手首を蹴り上げられてナイフを取り落としたところをそのまま腕を掴まれて背負い投げで床に叩き付けられた。
「「「「子爵様!」」」」
「暴行の現行犯だ確保しろ!」
警備の衛士が他の四人に一気に殺到し、ナイフを取り出そうとした一人は金属警棒で殴打されて昏倒した。
最後の一人は抵抗も出来ずに拘束されている。
少し離れた位置からそれを見ていた男が舌打ちをすると足早にレイラのいる窓口の前を歩き抜けようとした。
その横顔を見てレイラはハッとして身を固くした。
通り過ぎて行くその男が横目でレイラの方をちらりと見て驚愕の表情を浮かべた。
「貴様! レイラ・カマンベール!」
「その男を確保して! 多分刺客です!」
部隊はファナタウンからゴッダードへ
愚かな近衛騎士達は殊更愚かの行動に出ようとしています
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