表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
838/892

シェブリ伯爵家の画策(2)

【4】

「続いて南部の案件じゃな」

 王妃殿下の言葉に勢いづいたジョン王子が立ち上がる。


「ハウザー王国も我が国と違う意味で内戦状態になる可能性が有る。聞く所によるとペスカトーレ枢機卿と内通しておる大司祭が姿を消していると言うでは無いか。おまけにルクレッア・ペスカトーレに対して近衛騎士団の者らしき刺客が送られて襲われたとも聞いたぞ」

「国務省としてはエレノア王女殿下とルクレッア・ペスカトーレ侯爵令嬢の件について非難されても反論が出来ぬ状況に陥る可能性があった事を回避できたことには安堵しております」


「ハウザー王国にそんな弱腰で」

「司法卿! もしハウザー王国内でルクレッア嬢がラスカル王国の近衛騎士に暗殺されていても同じことが言えるのか! 王国法に照らしても国際法に照らしても反論が出来ると申すのか!」

 国務卿の激怒にたじろいだ司法卿は又ボソリと愚痴を口にする。


「そう言われても近衛騎士かどうか真偽も定かではない。それにもう紛争は終わって国境をぬけておるのだろうが。終わった事を今更言っても詮無き事では無いか」

「よくそのような口がきけるな! すべてはハウザー国王の温情と協力で内密に事が済まされておるがエヴェレット王女の婚姻が反故になれば南部国境でも騒乱が起きる可能性が有るのだぞ!」


「そうじゃな。エヴェレット王女の英断で今は小康状態じゃが、教皇庁はそれを潰そうと画策しておるのじゃぞ。なにより獣人属への憎しみを煽って内政の混乱を企んだアントワネット・シェブリはペスカトーレ侯爵領の領主代行であろうが」


「そのペスカトーレ侯爵家ですがルクレッア様の暗殺を諦めていないと思います。以前ジョバンニ大司祭がハウザー王国への憎悪を煽るために利用しようとした言葉と正反対の状況になっていますから」

 私も一昨日ジャンヌと詰めた話をもとに発言する。


 ジョバンニはルクレッア嬢が人属の農奴を助けてハウザー国民の憎しみを駆っているように演説していた。

 しかし現実の状況はルクレッアはハウザー王国では聖女扱いであり、獣人属の農奴の幼児に洗礼を行い名前を与え治癒魔術を教育しているのだ。

 全て教皇庁の言う教導派教義に背く事である。


 しかもルクレッアとエレノア王女の行動の結果福音派の総主教迄考えを改めているのだから清貧派としては好ましい逸材で、ペスカトーレ侯爵家にとっては猛毒である。


「しかしその刺客が近衛であると証明は出来ぬだろう。なあストロガノフ団長もそう思うであろう」

「可能性は高いでしょうな。十二中隊はシェブリ伯爵や王太后の手駒。ペスカトーレ家の私兵の様なヤカラも多々おるので。それに近衛騎士団の徽章はそう簡単に偽造できる物でも無く、ましてやそれを確認したのが元近衛騎士。九分九厘間違いない」


「その為か。其方の息子が警護に向かうと聞いたが」

「ええ、できれば王妃殿下にもお願いがございます。カプロン中隊長をお貸し願えぬでしょうか。かの者ならば北大隊のメンバーの顔も解る可能性が高いと思いますので」


「それは了解いたした。しかし第十二中隊の状況を中隊長か大隊長に確認する事は出来ぬのか」

「ええ、北大隊の大隊長は十二中隊の中隊長を兼任しておりまして、その大隊長のシェブリ伯爵は一月ほど前から行方が分からぬのですよ」

「相分かった。その大隊長なら不在でなくとも信用できんからな」

 北大隊長がシェブリ伯爵? あいつはロワールの教導騎士団長では…兼任していたのか!

 だからダッレーヴォ州やリール州の州都騎士団に息のかかった騎士を送り込めたのか。


 ならば今回の事件の裏でどこかの領に入って動いている可能性が有るじゃないか。

 シェブリ大司祭はアントワネットの代わりにアジアーゴに入ったそうだし。

 シェブリ伯爵家が北部に釘付けになっているならば南部はしばらくは安泰かもしれない。

 後はアントワネットをいつまでアリゴに釘付けに出来るかだけだ。


【5】

「南部でのルクレッアやエレノアの件は王太后の意向が感じられるな。そもそもに王室に獣人族支持者が入ることを異様に嫌っておった。ゴルゴンゾーラ公爵殿、先々代王の死も王太后の其の思いが強かったからではないか?」


「そうでしょうな。あの方の獣人族嫌悪は度を越した者がございましたから。今回も留学生たちの命と引換えにエヴェレット王女の婚約反故とハウザー王国との国交断絶を画策したのではないでしょうかな。出来得るなら農奴制も復活して獣人族を農奴に落としたいのでしょう」


 ゴルゴンゾーラ公爵の言うとおりだと私も思う。

 上手くゆくならば一石三鳥の妙手だろう。

 実際にゲームシナリオではそれに近い状態に周辺国を誘導しているのだから。


「南部もかなり危険な状態だが報告どおり事が進んでおるなら窮地は脱しておるのだろう。返すがえすも少ない警備でよくぞ耐えきったと思う。帯同した騎士二人には帰ったなら褒美を取らせようぞ」


 北部の状況とは違って南部については全体に安堵感が漂っている。

 しかしジャンヌは北部よりも南部を心配していた。

 シナリオ通りだと南部で相対するのは福音騎士団と教導騎士団だ。

 ゴッダードの州都騎士団はそれに巻き込まれて壊滅するが、福音騎士団も教導騎士団も干戈を交えることなく収束する。

 ゲームシナリオではヒロインたちの説得で福音派の一部が教導派と和解するからだ。


 しかし福音派総主教はボードレール枢機卿に対し親書を送ってきているそうだ。

 ガブリエラ聖導女の話ではグレンフォード大聖堂に託した親書に、治癒術士指導者の派遣や治癒院への福音派治癒術士の留学も求めているという。

 なにより農奴廃止に向けての方針変更を正式に表明したことが大きい。

 この状況で福音派が騒乱を起こしてラスカル王国内に攻め込むことは考えにくい。


 いや、福音派の一部か。

 反主流のと言うより孤立していたバトリー大司祭のペスカトーレ枢機卿ルートを悪用しようとした者がいるという事か。

 当然逃げたバトリー子爵とそれに唆された福音派の一部だろう。


 サンペドロ州の人族系の福音派聖教会は農奴廃止のサンペドロ辺境伯家の意向に不満を持っていた。

 その上メリージャの大司祭はバトリー大司祭で出世の芽も摘まれた状況で反撃の機会を狙っていたのだろう。


 私がバトリー子爵ならその不満を託つ福音派司祭たちを糾合してペスカトーレ枢機卿と密約を交わす。

 バトリー大司祭などいくらでも踊らせることができるのだから。


 そもそも聖教会は本来人族至上主義だ。

 教導派はもとより、福音派でも司祭に獣人族はいない。

 教導派と福音派では司祭の重みが違うのだが、それでも現在獣人族系では清貧派のニワンゴ師が最高位である。


 パーセル枢機卿はニワンゴ師を大司祭にしようと考えているのだが、彼女は頑なに拒んでいる。

 理由は当然と言えば当然で、ドミンゴ司祭より上位職になるのが憚られるからである。


 まあ余談は置くとしてもサンペドロ州の福音派聖教会でも教導派に利する余地は十分にある者が多くいるという事だ。

 もちろん大義名分があればである。


「王妃殿下。ペスカトーレ枢機卿とつながっているメリージャの大司祭がおります。そいつがペスカトーレ家と結託して自らの保身を条件に事を起こす可能性は十分にございます。近衛騎士団か王都騎士団から国境州に、できればファナタウンやゴッダードに兵力の増強を望めないでしょうか」


「セイラ、それはハウザー王国が越境して侵攻して来るということを危惧しているのか?」

「義父上、少し違います。国王軍や辺境伯とは関係なく福音騎士団が動くということです。名目上は福音騎士団は福音派聖教会の私兵。ハウザー王国の国境侵犯にはなりません。ブリー州かレスター州でエレノア王女一行を襲撃して教導騎士団と和解、手打ちという状況はあり得るでしょう。特に死者がルクレッア侯爵令嬢だけならば」


「どうじゃ。司法卿、セイラの申したことを吟味して如何か」

「可能といえば可能でしょう。ペスカトーレ家が了承すれば司法的にはこれ以上問題にはしなくても良いでしょう。しかし、しかし大義名分がなければその手は打てん。向こうの国民も納得せんだろう」


「大義名分なら作れるわ。エレノア王女たちの保護よ。ハウザー王国では彼女たちは教導派から迫害されて逃げてきたと思われている。保護を目的に福音派聖教会の一部が動いたなら大義名分は立つわ。それにあちらの第一王子はエレノア様を妻にしてその功績で王位につくことを狙っている。後が無い農奴容認派は第一王子の派閥に乗るしかないのよ。もしそうなればすぐにでも動くでしょう」


 第一王子派のジョージアムーン州はラスカル王国西端で国境を接している。

 そして西部諸州では教導派ガチガチの領地も点在する。

 その中には農奴復活を望む領主も多々いるのだ。

 第一王子派が越境進軍する場合に手を貸す可能性のすら捨てきれないのだから。

体調不良で投稿が遅れました



↓の☆☆☆☆☆評価欄↓を


もし気に入っていただけたなら★★★★★にしていただけると執筆の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ