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シェブリ伯爵家

【1】

 そうなのだ。

 事態は始まったばかりだ。

「私はこれまで教皇家は北海沿岸州を全て押さえて、北海を教皇庁の海にしようと企んでいるのだと思っていました」


「それはそうであろう。ギリア王国を使ってダプラとアヌラの両王国を属国にしてノース連合王国の実権を握る。ラスカル王国ではポワチエ州を抑えてシャピを我が物にする。そうなればハスラー聖公国も船を出せぬ。北海の海上貿易は教皇庁の掌の上だ」

 フラミンゴ宰相はそこまでは読んでいたのだろう。


「なにより国王陛下やモン・ドール侯爵がハウザー王国との交換留学を打ち出した時から教皇庁は快く思っていなかったようであったしな。南部国境の安定はハッスル神聖国にとっては不安要素だから釘を刺したかったのだろう」

 ロックフォール侯爵も今の話には納得している様だ。


 事実ダプラ王国をギリア王国に抑えられていればハスラー聖公国は北海から外での交易は閉ざされてしまい、ハッスル神聖国の顔色を窺わねば貿易は出来なかったのだ。

「ならあの教皇はハスラー聖公国にまで首輪をつけるつもりだったと言うのかや」

 王妃殿下が腹立たしそうにそう言う。


「だがそれも王妃殿下の商船組合とシャピの商船団の尽力で戦も回避されギリア王国の教導派は排除されておる。枢機卿がすべての責任を受けて投獄されたであろう」

 シュトレーゼ魔術士団長が王妃殿下のヨイショも含めて発言する。


「ですから失地回復のためにポワトー枢機卿に刺客を送ったのでしょう。そうなれば次の枢機卿はシェブリ大司祭。あとは邪魔な海軍を潰せばシャピが手に入ると考えたのではないでしょうか。カロリーヌ様はアントワネットになめられているようですね。お陰で手痛いしっぺ返しを食らっているようですけれど」


 多分予科の頃や一年の頃の彼女の印象を引きずっていたのだろう。

 今のカロリーヌ・ポワトー女伯爵カウンテスの実力と人気を分かっていなかったのだ。

 商船団の女伯爵カウンテスに対する信頼がどれだけ厚いかはギリア王国との紛争をよく見ていれば理解できただろうに。


「あっ! そうか、初めに絵を描いたのとそれをなぞったアントワネットと二人いたんだ」

「どう言う事なのかしら。初めに絵を描いたやつって?」

「法王庁とペスカトーレ家ね。ヨアンナ様、ポワトー伯爵家の教導派からの転向に焦ったのですよきっと」


「多分ジャンヌの言う通りだと思う。ポワトー伯爵家の転向はこれまで北海を支配していたハッスル神聖国とペスカトーレ家の権力に風穴を開けてしまったのよ。その上バックに王妃殿下がついて商船団迄掌握してしまった事は脅威だったのよ」


「それであの教皇とペスカトーレ侯爵家が動いたと言うのじゃな。ここまで言われればわたくしもも解る。海賊船団とノース連合王国の内戦でシャピも弱体化させそのまま呑み込んでしまう計画だったのじゃな」


「でも全てシャピの商船団とそれを指揮したカロリーヌ女伯爵カウンテスの働きで水泡に帰したということなのだわ」

「まあそう言う事にしておこう。あの事件のお陰でポワチエ州周辺の海域は盤石になって海軍も正式に発足できたのだからな」

 ファナの言葉に宰相閣下皮肉な笑いを浮かべ私を見た。


「そのペスカトーレ家の失態を引き継いだのがアントワネットだと『父さん』は言いたいわけね」

「ええ、ポワチエ州はカロリーヌの下で団結しオーブラック商会まで取り込んで更に力を付けてしまった。法王庁は元々有していたギリア王国の利権すら失ってシャピ、ノース連合王国、ハスラー聖公国の三か国貿易から弾き出されようとしている」


「でもそれがなぜアルハズ州の内戦に繋がるんだ。アントワネット・シェブリが始めて声をあげたのはアルハズ州だろう。其の方やジャンヌが食糧援助を始めたのもあの州であったが、ユリシアの実家のマンスール伯爵が治めるペスカトーレは侯爵家の身内の州では無いか」


「ジョン、それはアントワネットにとっては寝首を掻きたい仇の州でもあるかしら」

「しかしあの女がその程度の事で」

「そういう私情は消せないものかしら。ついでがあれば潰したい奴の一人だったのかしら」


 そんなものなのだろうか。

 その心情は分からないが、アントワネットは大叔母の王太后と同じだ。

 ペスカトーレ侯爵家に北海沿岸州を呑み込ませて、シェブリ伯爵家の手を汚さずに手中に収めるつもりなのだろう。


「教皇はもう長くない。その後は分からないけれどペスカトーレ枢機卿はハッスル神聖国へ向かうでしょう。ならアジアーゴの枢機卿はジョバンニ。そして浅はかで短慮なジョバンニ枢機卿を操るのはアントワネット・シェブリと言う事でしょうか」


【2】

「待って、セイラさん。それだけでは今回の事態の説明は付かないわ。いま『父さん』が言ったのは今までの状況の整理だけよ。アントワネットにも不測の事態が起こっているのだから今回の事件は彼女だけの計画とも言えないわ」


 そうなのだ。

 夏至祭前からアントワネットの計画は齟齬をきたし始めている。

 エポワス伯爵やド・ヌール夫人の暗躍でアルハズ州は予定外の内戦に突入してしまった。


 その為にアルハズ州の疲弊は酷いものになり州内の領主にも反乱農民にもアントワネットはの蛇蝎の如く嫌われてしまった。

 そしてカロリーヌの実力を読み誤ったアントワネットは裏で実権を握っていると考えたポワトー枢機卿の暗殺を試みて、指導者不在の間にオーブラック州から海軍の排除とあわよくばシャピまでの侵攻を考えていたのだろう。


 その結果がアリゴに釘付け状態に陥ってしまったと言う事だ。

 だがそのアントワネット不在の間に今回の国王陛下の軟禁事件が起こっている。

 どう考えてもポワトー枢機卿襲撃の前から手筈を考えていたとしか思えない。

 何より今回の事件はアントワネットが仕組んだにしては大掛かり過ぎるのだ。


「私はシェブリ伯爵家が一族で動いていると思います。少なくともアジアーゴの大聖堂やペスカトーレ侯爵家にここ迄大それたことを出来る者はいないと思っておりますわ。この二年アジアーゴで脱走組織を指揮しておりましたが、役人や州の騎士に才覚や気概の有るものは皆無。教皇家の顔色を窺う者ばかりではこの様な計画は進められません」

 ド・ヌール夫人、いや聖女ジョアンナもそう言い切った。


「だからシェブリ伯爵家と言うのは少々短絡的では無いか?」

「お兄様、それは甘い考えですわ。そもそもライオル伯爵家の廃嫡事件を裏で操ったのもポワトー枢機卿の殺害を画策したのもジャンヌの異端審問を仕掛けたのもシェブリ伯爵とシェブリ大司祭ですよ。あの一族は蛇です」


 聖女ジョアンナが言う通り私が巻き込まれたのは全てシェブリ大司祭とシェブリ伯爵の画策の為だ。

 ボードレール枢機卿はあの場に居合わせていなかったから判らないだろうが、フィリップ義父上とパーセル枢機卿の機転が無ければゲームのシナリオ通り教皇派閥がゴルゴンゾーラ公爵家を潰していただろう。


「それで其方らは今回の事態をどう読む」

 王妃殿下が私たちに対して最後の質問をした。


「シェブリ伯爵家の謀反でしょうな。ペスカトーレ侯爵家とモン・ドール侯爵家という二大侯爵家を手駒に使って謀反を起こしたと言う事でしょう」

 ゴルゴンゾーラ公爵が代表して見解を述べる。


「しかし、目的が見えん! いったい何を要求したいか判らぬではないか。立太子についてなら今の婚約が成就すればエヴェレット王女殿下の伴侶を条件にリチャード王子との立太子を認めるつもりはあるぞ」

 王妃殿下が困惑している。

 そうなのだ。

 リチャード王子が王冠を継いでも国内の政治を握れる実力はない。

 実権はジョン王子とヨアンナが握り、エヴェレット王女がリチャード王子を御する事になるだろう。


「私はシェブリ大司祭が教皇とペスカトーレ枢機卿を手にかけても驚きません。その後は謀反の汚名をモン・ドール侯爵家に着せて、シェブリ伯爵家が法王庁と教導派聖教会を牛耳ると言う可能性が高いのでは」

 聖女ジョアンナがそう言い切った。

いったい教皇庁の、教導派の目論見はどこにあるのか

敵の目的が読めず王妃殿下たちは困惑気味


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