久しぶりの登校
【1】
「シェブリ大司祭も考えたものだな。国王陛下をダシに使うと言う事か」
「王太后殿下は教皇猊下の妹君。国王陛下も自信の母君である王太后殿下の事でもあるでしょうしな」
ペスカトーレ枢機卿とアラビアータ枢機卿の話にジョバンニが割り込んできた。
「しかしなぜ国王陛下を?」
「別に国王陛下はリチャード王子殿下を即位させる事が出来れば相手が誰でも良いのだ。ただ王都聖教会の者が国王陛下に接触しては清貧派の背教者共に警戒されるであろう。モン・ドール侯爵家ならば極秘に接触できるというものだ」
「それでは父上がジュラに?」
「ジュラにはアラビアータ枢機卿にお願い致そう。他国の枢機卿が集まっておる今は王都大聖堂を離れる訳にはゆかん。なにせ王都には背教者共が集まっておるのだからな」
「それでは俺はどう致しましょう」
「国王陛下との顔繫ぎも有る。それならばモン・ドールの子せがれを連れてお前も同行しろ。セイラ・カンボゾーラの行状を知る者が多い方が良いだろう」
その日の内に王都聖教会から教皇の名前で使いが走った。
シェブリ大司祭の指示を実行する為である。
【2】
数日後、国王陛下が寵妃殿下を伴なってジュラのモン・ドール侯爵家に挨拶に向かったと言う情報が入って来た。
その理由に関してはもっともだと思われるが、幾つかおかしなことがある。
そもそも息子の婚約と言っても国王自らが寵妃の実家に赴くこと自体が異例である。
更には王都にもモン・ドール侯爵の別邸は有り、この夏至祭の為にモン・ドール侯爵夫妻は王都に居たのだ。
リチャード王子殿下の婚約発表の席にである。
「どう見る、ロックフォール翁よ」
「そうですなあ。多分セイラ殿がジュラにおると思っておるのであろう。挨拶にかこつけてあの王太后の治癒を依頼に向かったのであろうと思いますぞ」
「ああ、それなら合点が行く。あのババアはゴルゴンゾーラ公爵の怨嗟の的ですがな」
「しかしヨハネス殿のお陰でかなり溜飲が下がったのでは御座らんか?」
「ええ、今はこのまま目も見えず動く事もままならぬ状態で生かし続けて貰いたいと思っておるくらいですぞ」
「ポワトー枢機卿はあの女に色々と仕込みを行っておるようですぞ。返す返すも食えぬお方だ」
「あのお方も聖女ジャンヌ殿の治療には苦しまれているようですがな。セイラが申した様ですぞ、その苦しみはかの枢機卿殿への罰だと」
「あの娘子も口は悪いが本性は甘い。何より聖女ジャンヌには少々甘すぎるようですがな」
「そのお陰でジャンヌ殿がセイラを御してくれておる。我が家も助かっておりますからな」
「天下のゴルゴンゾーラ公爵家が末席の後継に形無しですな」
「肩書などあの者に必要ないござらんぞ。宰相は二年後に大臣席を用意しておるらしい。まああと五年もすればこの国の中枢に駆けあがっておるだろう。政界に残らずともこの大陸の経済はすでに半分を牛耳っておる。カタチだけでも血縁が有ると言う態で関係が出来た事が喜ばしい。フィリップの機転には感謝しておるのだ」
「ああそれを申すならロックフォール侯爵家が釣り逃がした魚はすこぶるでこう有ったなあ。セイラ・ライトスミスの頃に取り込んでおいたならばと悔やまれてならんぞ。バカ息子に至っては洗礼式後すぐに会っておったのに料理人を取り込みおった」
「何を申される。それでロックフォール侯爵家は王国の食と社交を牛耳る事が出来たので御座ろう」
そう言って笑い合う清貧派の重鎮二人の予想は当たっている様だ。
【3】
私は王都大聖堂が気付くまでは姿を隠せとの事で、ゴルゴンゾーラ公爵邸に幽閉されていた。
「幽閉とはご挨拶なのかしら。我が家の別邸で好き放題しておいてよくそんな口がきけるものかしら」
「でもこんな事では特待が、今年こそジョン王子殿下を抜いて歯噛みさせてやりたいのに」
「ジョンに突っかかって行くのは勝手だけれどなぜそこ迄拘るのかしら。ジョンよりエドに拘るべきかしら」
「ふん、エドの引きこもりはどうでもいいけど、ジョン王子殿下は派手な婚約も終わって卒業式後は結婚式も決定してそれ以上に何を望む! 結婚に浮かれて落第すれば良いのよ」
「あなた、それって単なる嫉妬なのだわ。あなたは本当に時々子供じみた事を言うのだわ」
「ああ、ジョン王子もイアンも妬ましい」
「なんでジョンとイアンなのかしら」
「それはどうでも良いのよ。それより私はいつになれば王立学校に戻れるの? せめて卒業式には絶対に出ますからね」
「そこ迄は長引かないのだわ。長くてもまあ後二~三日なのだわ」
「私はそれよりジョバンニの顔が見たいかしら。あいつの泣き面が見れればよい結婚祝いになるかしら」
なんだかんだ言ってヨアンナだって婚姻で浮かれてるんじゃないのか?
結局三日後に私は復学する事が出来た。
【4】
「お姉さま、夏至祭の時にはてっきり戻っていらしたのかと思いましたのに、アジアーゴ方面にも河船の航路を開かれたのかと思ったのだけれど船は使われなかったのですか?」
結局この娘の興味は河船か。
「エレーナは観察眼がねえな。私はすぐにお姉様じゃねえって分かったぜ。なあ、それよりあの光の祝福をしたのは誰なんだ? お姉様以外にあんな事ができる人がいるのか?」
うーん、一目で私じゃないと気づいたのか。
さすがは我が舎妹イヴァナだ。
「もう秘密にする必要もないし教えてあげるわ。あの人はジャンヌさんのお母様よ」
「ジャンヌ先輩の母上なのか。ああ、母娘で感動の祝福のためにお姉様は舞台を譲ったんだな」
「さすがはセイラお姉様ですわ。なんて奥ゆかしいんでしょう」
え、それだけ? 反応薄すぎないか。
「そうじゃないでしょう。私は夏至祭前からアジアーゴに行ってたんだよ」
「それで、ジャンヌ先輩の母上に替わってもらったんだな」
違うだろう、それで納得するなよ。
「お二人とも、お気づきになりませんの? ジャンヌ様のお母様は十八年前に亡くなった大聖女ジョアンナ名誉枢機卿様でいらっしゃいますよ」
それまで黙って聞いていたファナの妹のハンナが口を挟む。
「あ、そうなんだ」
「ファナお姉様も申しておりました。あれが名誉枢機卿様のお力だと」
「違うでしょうが! ハンナ様もファナ様から何を伺っていたのです。ジョアンナ様は十八年前に亡くなられたと言われているのですよ」
「「「あー、大聖女様だから生き返ることが出来たのですね」」」
ああ、今年の新入生はバカばかりだ。
そんな事をやっていた私の知らぬところで色々と自体が動いていた。
数日前から北東部のハッスル神聖国との国境沿いの諸州の生徒が登校しなくなっていたのだ。
王宮にも不穏な空気が立ち込め始めた
能天気な下級生たちと騒いでいるセイラの周辺にも何やら異変が
次回からしばらくは又ハウザー王国留学生編です
↓の☆☆☆☆☆評価欄↓を
もし気に入っていただけたなら★★★★★にしていただけると執筆の励みになります。




