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行方不明

【1】

 清貧派からの王都聖教会への問い合せは通り一遍のものばかりだった。

 光の聖魔法所持者のセイラ・カンボゾーラは教皇猊下の治癒にあたっており、面会は出来ないの一点張りだった。


 その日一日清貧派メンバーが無作為に過ごしている間に、教皇から明日一番に司祭会議を行う旨招集がかかった。

 司祭会議は王都聖教会の大聖堂において全ての枢機卿と聖女ジャンヌの同席を指示してきた。


「そんな事は呑めないかしら。セイラの無事な姿すら確認できいない今、ジャンヌを敵地に送る事は出来ないかしら」

「でも私が行かなければセイラさんの無事すら確かめる事が出来ないじゃないですか。誰が何と言おうが行きますよ私は」


「それなのですが、一つ不審な事が有るのです」

 そこにグリンダが口を挟んできた。

「王都大聖堂に乗り付けた馬車からセイラ様を確認したと言う王都騎士団の団員が、何故セイラ様だと確信したのかと言う事で少し気になりまして。実はセイラ様は王都に居ないのではないかと考えております」


「いったいどう言う事なのかしら? 王都大聖堂のあの返答はどういう事かしら」

「セイラ様の顔をよく知らない王都騎士が確信を持ったいい方で断言したと言う事のその根拠が少しおかしいのですよ。獣人属のメイドを連れていたからと言う理由なのです」

「セイラ・カンボゾーラが獣人属のメイドを連れていると言う事は当たり前のことなのだわ。セイラカフェのメイドをいつも…あっ! 今回同行したのはルイーズだったのだわ」


「セイラ様が自分のメイドを手元から放す事などあり得ません。特にルイーズならば絶対に」

「と言う事は王都大聖堂入りしたのは偽者。でも何故そんな事を。ならセイラさんはどこに?」

「セイラ・カンボゾーラならば途中で隙をついて脱走した可能性が考えられるのではないか。イヴァンの言う通りアイツとアイツのメイドの二人ならば教導騎士など打ち倒して脱走する事も可能だろう」

 ジョン王子が嬉しそうにそうにそう言った。


「いや、それは考えられんだろう。もしそうなら嬉しいが、その場合は王都の教導騎士団が総力を挙げて追跡捜査に動く筈だ。その気配は一切見えん」

 興奮する若者たちを押しとどめるようにゴルゴンゾーラ公爵が答える。


「ならばまだアジアーゴに拘束されている可能性が有ると言う事なのだろかねえ。そうなれば少々困った事になるのだけれど。場合によってはセイラ殿の姿を確認できるまで全てを拒否する事も考えねばね」

「いや、その可能性は低いであろう。教皇の体調が回復したと言ってもいつ急変するか判らぬ状況で光の神子を堂々せんのは悪手過ぎるからな。それに司祭会議は儂からの要請だ。拒否する訳には行かん」

 パーセル枢機卿の発言をポワトー枢機卿が否定する。


「船の渡し場からの移動では一つの馬車にセイラ様とルイーズと思しき二人と共に、治癒修道士と教導騎士が二人づつ六人が同乗していたそうです。それが王都で降りた時は馬車に二人だけ乗っていたとの事」

「と言う事は川を渡った翌日以降で入れ替わったと言う可能性が高いと」

 アドルフィーネの報告にロックフォール侯爵が納得気に頷く。


「結論を申します。セイラ様は王都よりあまり遠くないどこかの教導派聖教会か領主館に囚われている。その距離は馬車で一日未満。なぜなら教皇に何か問題が発生すればすぐに取って帰れる距離」

 グリンダが自らの見解をまとめて報告する。

「教皇派閥の外道どもが! 返す返すも忌々しい。この上まだセイラ殿を弄ぶのか!」

 ボードレール枢機卿が怒りに顔を朱に染めてテーブルをこぶしで叩いた。


【2】

「なかなか面白い事を考えられましたなジョバンニ殿」

 この男にしては中々上出来では無いか。

 今セイラ・カンボゾーラは教導派の手中の玉だ。

 なにより聖女ジョアンナが存命であったと言うイレギュラーが発生している今の時点でセイラ・カンボゾーラを手放す事は出来ないのだから。

 そう考えてシェブリ大司祭がニタリとジョバンニを見て笑った。


「それよりも聖女ジョアンナの件だ。シェブリ大司祭殿にも何かお考えは有るのだろうが、清貧派は今でもなお闇と光聖女を押さえていると言事では無いか。司祭会議において挽回する手段は有るのですか」

「我々も手を拱いてばかりもおりません。ペスカトーレ枢機卿殿が今動いておられる。それよりも北部領地の状況も気になります」


「しかしポワトー枢機卿は王都でも光と闇の治癒を受ける事が」

「勘違いなさるな。聖女ジョアンナは光の治癒力は有ると言えど十八年も前の治癒施術士。ジャンヌやセイラ・カンボゾーラとは技術が違うのですよ。いくらジャンヌの指導を仰ごうとも一日二日で習得できる技術でもありますまい。セイラ・カンボゾーラとはその重みが違うのです」

 王都大聖堂としてもセイラの重みは認識している。事実ポワト―枢機卿の延命を手始めに、王妃の解毒や回復、王太后の死からの復活処置、そして王太后監禁時のその回復状態も含めてその技術は太鼓判を押されているのだ。


「明日にはオーブラック州とポワチエ州の内乱の状況が王都にもたらされるでしょう。何よりアントワネットがまだアジアーゴに帰っておりません。指揮を執るものも今はおらんのです」

 ジョバンニの言葉にシェブリ大司祭の顔色が変わる。

 この大バカ者が。

 枢機卿が王都に居るからとアジアーゴの指揮をこ奴に任せたのにそれを放り出して王都にやって来ただと。


 現状の認識が甘すぎる。

 ポワトー枢機卿の暗殺が失敗した時点でアジアーゴの防衛を固めるべきではなかったのか。

 セイラ・カンボゾーラを手に入れた事で浮かれおって。


「あの時点でアントワネットが帰っていないと言う事はアリゴに足止めを食っている可能性が高いと言う事ですな。アリゴが落ちればアルハズ州はひとたまりも有りませんぞ。そうなればダッレーヴォ州の州境までは数日の距離ですぞ」

「それは…それはそうだが大司祭殿は悲観的過ぎるぞ。アジアーゴの教導騎士団は精強。ジュラからも教導騎士団の応援も貰っておる。なによりそう簡単にオーブラック州の教導騎士団が破れるものでは無い」


 ダメだ。

 このままでは北海沿岸州が総崩れになってしまう。

「仕方ない。わしが今すぐにアジアーゴに赴いて指揮を執る。後はペスカトーレ枢機卿殿とジョバンニ大司祭殿にお任せするが宜しいか?」

「ああ、分かった。了解いたした」

 シェブリ大司祭の言葉に押されたジャバンニは了解する以外の返答が浮かぶべきも無かった。


「それともう一つ、セイラ・カンボゾーラは今どこに?」

「それは…極秘となっておる」

「なら出来るだけ早くジュラにでも移して教導騎士団の手中で監視下に置かれよ。あの小娘は油断できん」

「それならばジュラの《《騎士団》》から受け取りに向かうと連絡が…」


 愚か者の若造め。

 極秘と言うならそんな事を口走るな! 危機意識が足りん。

 まあ良い。ジュラの教導騎士団が確保したのなら大丈夫だろう。


「ならば司祭会議が終わればすぐに国王陛下と寵妃殿下に王太后殿下の治癒の依頼を行うよう嘆願の為にジュラのセイラ・カンボゾーラにもとに向かってもらうよう願い出てくだされ」

「しかし国王陛下自らが」

「そう致さぬとセイラ・カンボゾーラは清貧派に取り返されてしまいますぞ。是が非でも言上奉って頂きたい!」

「分かった」


「ならば今すぐにワシはアジアーゴに向かいますから、今の指示忘れずに実行願いますぞ」

 そう言うとシェブリ大司祭は大急ぎで王都大聖堂を後にした。


王都の清貧派もセイラが王都に入っていない事にに気づきました

教皇たちはセイラがいなくなったことにまだ気づいていません


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