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福音派公爵家(2)

【4】

 プラッドヴァレー公爵は非常に機嫌が悪かった。

 何もかも後手に回っている。


 エレノア王女との婚約を思いついたときは妙手だと思った。

 留学当初は歯牙にもかけられない存在であった。

 どうせ本国の王家からは捨てられたような王女である。人質にすらならぬ存在だと高を括っていたのだ。


 それがわずか一年で王都での市民の人気を絶大なものにしてしまった。

 獣人族を擁護して国を追われた悲劇の王女。

 貴賤の隔てなく王族自らが手を差し伸べて治癒施術を行う慈愛に満ちた王女。


 この人気を取り込めば第一王子の人気も上がる。

 迫害された王女を庇護しさらにはラスカル王家との懸け橋になる外交上の功績も大きいと踏んだのだ。


 どうせ捨てられた王女でたかが十三や十四の小娘だ。

 側妃ででも居場所を与えてやれば直ぐになびくだろうと甘い考えでいた。

 お飾りの妃で十分市民の人気は得られると踏んだのだ。


 しかしその小娘たちは存外強かであった。

 のらりくらりと話を引き延ばし、愚か者のジョージ第一王子から情報だけを引き出して時間を稼ぎ続けたのだ。


 そしてエヴェレット王女の婚約の話である。

 ラスカル王国のリチャード第一王子の正妃として婚約が発表されたのだ。

 その結果双子の兄であるエヴァン王子の存在意義は非常に大きくなった。何よりエヴァン王子はラスカル王国の第二王子であるジョン王子と親しく友誼を結んでいると聞いている。


 外交上の功績で言えばラスカル王国でどちらの王子が即位するにしても、ラスカル王室に強いパイプを作ったエヴァン王子が優位に立っている事は間違いない。

 何より教導派のラスカル王家に獣人属の王女をねじ込んだその手腕はハウザー王国内でも大きく評価されている。


 早急に事態を立て直そうと動き出しかけた矢先に、今度はハウザー国王からジョン王子の婚姻の儀に間に合うようにエレノア王女を帰国させよという要請である。

 間違いなくジョージ王子の婚約計画への妨害であろう。

 あの王女たちは帰国させれば絶対にハウザー王国には帰ってこないだろう。

 こうなれば帰国までに是が非でもエレノア王女をジョージ王子の正妃に迎えねば挽回の余地が無いのだ。


【5】

 またプラッドヴァレー公爵から呼び出しがあった。

 エレノア王女との面会を調整しろと圧力をかけてきたのだ。

 テンプルトン総主教はため息をついた。


 エレノア王女とジョージ王子の婚約の話に乗ったのは事実であるし、それが成就するなら喜ばしいとは思うがプラッドヴァレー公爵はそれを強要しようとしている。

 テンプルトン総主教の思惑は、そもそもエレノア王女と共にテレーズ聖導女の取り込みを図る事が目的である。


 テレーズ聖導女の治癒施術講義により神学校性の治癒能力は大きく向上した。その結果福音派女子神学校性の評価が随分と高まっており、それに伴って福音派聖教会の力も強まっている。

 円満に婚約が成就するならともかく、ごり押しによってテレーズ聖導女の不信を買いたくないのだ。


 留学生の帰国の件については残念だがテレーズ聖導女の残留だけならば話は変わって来る。

 よしんば帰国したとしても彼女は聖女ジャンヌの側近の一人と聞いている。

 彼女との信頼関係が築ければグレンフォードから治癒術士の講師を新たに招くことも可能であろうし、改めてテレーズ聖導女が戻ってきてくれる可能性もあるのだ。


 今王都で聖女として崇められているテレーズ聖導女のネームヴァリューは大きい。

 これから先彼女のもたらす治癒施術によって福音派聖教会の権威を高める事が可能ならば粗暴な第一王子を切っても構わないとさえ思っているのだ。


 そのあたりの機微を理解しないプラッドヴァレー公爵は公爵家の権威と武力と財力のごり押しで何とかなると考えているようだ。

 そもそもが武闘派でなんでも力でねじ伏せられると考えているあの一族は、今回のエレノア王女の件も面会の席を用意すれば婚約を強要し脅しにかかるだろう事は火を見るより明らかなのだ。


 いまやプラッドヴァレー公爵もジョージ・ディッケルク・ハウザー第一王子も視野狭窄に陥りエレノア王女との婚姻しか見えていない。

 よしんば婚約が成立しても二番煎じとしかとらえられないではないか。

 しかも国を追われたような立場の第四王女にどれだけ力があると言うのだ。

 いくら諭してももう二人とも聞く耳を持たない状況に陥っている。


【6】

 姪のテンプルトン子爵令嬢から面会の要請が来たので女子神学校に出向いてみると現れたのは獣人属のメイド姿の娘だった。

 洗礼された宮廷作法で挨拶するところを見るとかなりしっかりとハウザー王国の作法を教育されているようだ。


「其方、たしかエレノア王女殿下付きのメイドであったな。その所作は他のメイドと比べても抜きんでおったので覚えておるが、エレノア王女殿下の名代か?」

「お褒めの言葉ありがとうございます。エレノア王女殿下付きメイドのシャルロットと申します。本日は私の独断で罷り越しました」


「フム、独断でか。主に内密と言う事は何やら覚悟が有る様だな。事と次第によっては其方の身に凶事が降りかかる事も覚悟のうえであろうな」

「もちろん弁えております。その上でお願いの儀が有りこうして場を設けて頂きました」

「まあ、察するにエレノア王女の婚約の話であろうが申してみよ」


「エレノア王女御一行の無事の出国にご尽力賜りたいとお願いに上がりました」

「まあその件については吝かではない。尽力は致すが総主教とは言え子爵の身。政治的な力は無いぞ。まして相手は武闘派のプラッドヴァレー公爵家を後ろ盾にしておるジョージ王子だ。武力と権力で押し切られれば聖教会などひとたまりもない。…まさか福音騎士団を当てにしておるならそれは無理というものだ。福音騎士団は各聖堂に帰属するもの。福音派聖教会は決して一枚岩ではないのだ。わしの力の及ぶ範囲ではない」


 福音派の聖教会は上意下達の教導派と違い各聖堂ごとに独立している。

 人属や獣人属が入り乱れ清貧派寄りや原理主義的な福音派寄りなど管理する司祭によって考えが違う。

 その上領主の息のかかった聖教会が有る為、一部は領内の武力統制に使われている聖教会も有るのだ。


「それは存じ上げておりますが私が申したいのはそこ迄義理立てしてジョージ王子を擁立する必要が聖教会にお在りなのかと言う事です」

「何を申す。メイド風情が口にして良い事では無いぞ」

 テンプルトン総主教は声を荒げたもののかと言ってシャルロットを止める事はしなかった。


「ならばお聞きしたいのです。なぜジョージ王子なのでしょう。こう申しては不敬ですが、ジョージ王子に次期国王が務まるとは思えません」

「それは其方の独り言だな。聞かなかった事にしてやる」

「ならばもう少し独り言にお付き合いを。どう考えても趨勢はサンペドロ辺境伯の治める北部の通商を軸に動く事になります。もしプラッドヴァレー公爵家がサンペドロ辺境伯領を領有しても綿花貿易を始めとした通商の流れが停まるだけでこの国に得る者は御座いません。後は収益を奪われた領主たちに潰されるだけでしょう。その結果は国内が疲弊してハスラー聖公国とラスカル王国に食い散らかされるだけ」


「見てきた様な事を申すな。それでいかにせよと申すのだ?」

「エヴァン王子の擁立以外に道は御座いません。ジェイムズ・ペッパー・ハウザー第三王子殿下では有象無象の南部貴族に国内を食い散らかされて終わりです。エヴァン王子ならハッスル神聖国と対峙して国を治める事が可能です」


「しかしそれを行うと南部貴族が黙っておるまい」

「福音派聖教会は南部貴族に義理立てする必要が、と申しますか上級貴族に義理立てする必要が有るのですか? 福音派聖教会は貴族とは独立した存在。信徒の支えの上に成り立っているのでしょう。上級貴族の顔色を窺い続ける必要は無いのでは御座いませんか? 今この時に聖教会の存在感を示すのが肝要では? 一般信徒の支持は大きゅう御座いますよ」


「だがすぐにエヴァン王子支持を行う様な節操の無い事は出来ぬぞ。急に農奴制反対を唱えると反発は大きい。貴族や地主では無いぞ。一般信徒が反発する。人というものは卑しいもので下として見下していた者が認められるのは容認できぬものが多いのだ。理想だけで物事は語れぬぞ」

「それは承知しております。ですからほんの少し歩み寄れば良いのです。それで全て動き始めます」

 そしてテンプルトン総主教はシャルロットの提案を飲む事にした。

シャルロットは第一王子派も第三王子派も切り崩し成功

一体そんな手段を使ったのか


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