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夏至祭初日(サロン・ド・ヨアンナ)

お正月明けまで毎朝一話更新を行います

【1】

 王立学校で夏至祭が始まった日の午後、サロン・ド・ヨアンナに集う貴族たちがいた。

 早くから来て席についていたのは清貧派聖教会の二人の枢機卿だった。

 パーセル枢機卿とボードレール枢機卿の二人が席についてワインを飲んでいる。

「ポワトー枢機卿とはもう三年来だね。あの策士の枢機卿が今回は何を企んでいるんだろうね」

「わしとしてはあの枢機卿殿には嫌な想いしかないのだがな。枢機卿になるためにかなり強引な事も平気でやっておった記憶しかない。シャピの財力でもぎ取ったような枢機卿職だな」


「まあそうだな。南部の我々には教導派枢機卿全てが悪魔にしか思えんかったからな」

 そう言って入って来たのはボードレール伯爵だった。

 その後に続いて引退している先代のロックフォール侯爵が入って来た。


「なぜ、今のロックフォール侯爵でなくロックフォール翁なのだ?」

 そう言いながら王妃殿下をエスコートしてゴルゴンゾーラ公爵が入って来る。

「なんとも、こうも年寄りばかり集めたものですね。わたくしも含めて」


「何を申される。わしやロックフォール翁はともかく王妃殿下はまだまだお若いであろうに。何よりこの中では一番お若いであろう」

「なに、わたくしの息子も婚姻を迎える年齢。いつまでも若い訳では無いということじゃ。後はサン・ピエール侯爵がポワトー枢機卿を連れて参るということかな」


「左様で御座います。今回は今現在信用が置ける高位の貴族か聖職者の方で、二十年前に現役であられた方というご要望でしたので、私が人選に口を挟ませて貰いました」

 聞き慣れた声がしてアドルフィーネがポワトー枢機卿を乗せた車椅子を押しながら入って来た。


「ほう、アドルフィーネが人選をしたと申すか。なかなかに凝った人選をしたものじゃが二十年前とは何か意図が有るのかや?」


 アドルフィーネに声をかける王妃を見て、ロックフォール翁が驚いたようにゴルゴンゾーラ公爵に問いかける。

「いったいどういう事だ。王妃殿下は獣人属をお嫌いであったはず。それが獣人属のそれもメイドにあのように親し気に…?」

「翁は信じられぬでしょうな。あれは王妃殿下が信頼するセイラカフェメイドの一人。セイラ・カンボゾーラの最側近のアドルフィーネと申す者。今の王妃殿下の最側近は獣人属のナデタと申すセイラカフェメイドですぞ」

「時代は変わった、いや変えたのであろうな、セイラ・カンボゾーラ嬢が」


「その通りだと思いますぞ。なあ、サン・ピエール侯爵殿。ワシもこうして死にかけて遅まきながら気づきもうした。これまでの教導派の教義がどれ程愚かな事だったのか今更ながらに」

 パーセル枢機卿は何やら昔の野心溢れたポワトー枢機卿が死を前にして舞い戻って来たような錯覚にとらわれた。


 ポワトー枢機卿はかつてのでっぷりした体躯は見る影も無くやせ細ってはいたが、三年前よりも血色も良く眼光も鋭く何やら決意の表れのようなものが見て取れたからだ。


「わしもポワトー枢機卿猊下から文を戴いた時は驚きもうした。まさかこの御容態で王都に向かわれるとはと思いましたが、こちらの御人に会って合点が行きましたぞ。さあ、こちらに入られよ」

 サン・ピエール侯爵に促され最後に入って来た者の顔を見てこの席に集う者たちが驚きの声をあげた。


【2】

 夏至祭初日の昼下がり、サロン・ド・ヨアンナから豪華な馬車が次々と王都の各所に散って行った。

 その状況を監視している者が居る。


 王都でサロン・ド・ヨアンナと言えばジョン王子派の拠点であり、清貧派の一般貴族や富裕層の集まる場所でもある。

 何よりもゴルゴンゾーラ公爵家の運営するサロンであり、当然集う者の多くはジョン王子擁立の王妃殿下派閥の者だ。


 そんなサロン・ド・ヨアンナは常に国王派、教皇派から監視されている。

 この日の集まりも直ぐに王都礼拝堂に報告が走った。


「予想した通りのメンバーではあるな。しかし南部がロックフォール翁とはいったいどういう事だ」

 ペスカトーレ枢機卿の疑問に報告を持って来たシェブリ伯爵も首を傾げた。

「ええ、そこが解せぬ所ですな。ロックフォール侯爵も今回の夏至祭に合わせて王都に居る。それを差し置いて隠居であるロックフォール翁とは」


「まあポワトー枢機卿に遺恨を持つのは侯爵よりも翁であるからと言う事かな? まあ良いわ。それでやはり集まりの内容までは掴めんか」

「ええ近衛北大隊の十二中隊の者を使っておりますが、あのサロンは店員も獣人属が多くゴルゴンゾーラ家への忠義が厚い。ケダモノどもを上手く使っておるものだと感心致しますな」


「近衛騎士団の大隊長の側近である十二中隊長でも難しいか」

「そう申されても北大隊は中隊や小隊ごとで独立している様なもの。北大隊長殿と言えど権限が届くのは我ら隠密行動を行う十二中隊のみ、第十中隊は王妃殿下の忠臣カプロン伯爵が牛耳っておりますしな。十一中隊はストロガノフやエポワスの影響力も大きいので。やはり自分のようにアジアーゴの教導騎士団長兼任は歓迎されないのでしょうな」


 それでも近衛北大隊長の息のかかっているロワール大聖堂とアジアーゴ大聖堂は州都騎士団に好き勝手されずに助かっているのだ。

 アルハズ州の惨状はすべてあの州都騎士団が逆らったためでは無いか。あのお陰で教導騎士が何人死んだかと思えば腹立たしい。

 ペスカトーレ枢機卿はその怒りを押しとどめて参加者の状況報告を促した。


 それによるとポワトー枢機卿が来るまでは集まりの内容も良く知らされていなかったようで、ボードレール兄弟やパーセル枢機卿も困惑気味であったようだ。

 これは清貧派聖教会関係者にすら詳細な情報が流れていなかったという事なのだろう。


 ロックフォール侯爵家は先代侯爵が単身で来たようだし、王妃殿下もナデタだけを連れて単身で来たようだ。

 そのナデタも会合時は屋外の周辺警備に当たっていたようである。


 ゴルゴンゾーラ公爵家も御曹司のヨハネス卿は顔を見せておらず、侯爵だけの参加だったようだ。

 ポワトー枢機卿はさすがに一人という訳には行かず、車椅子を押すアドルフィーネともう一人治癒術士らしき修道女がついて、サン・ピエール侯爵と共にやって来たそうだが。


「それで終了後は慌ただしくそれぞれ別の場所に散っていったという事なのだな」

「はい、ボードレールとパーセルの二人の枢機卿はどうも清貧派の大司祭や王都の清貧派聖教会を回っているようですな。王妃殿下はそのまま王宮に戻られたようですが、ロックフォール翁とサン・ピエール侯爵は各館から高位貴族に宛てて使いを出しておる様子」


「で、ポワトー枢機卿は如何している?」

「さすがに病人ですのでその後護衛のメイドと治癒修道女を伴なってゴルゴンゾーラ公爵家の聖堂に移った様子。あそこならば治癒術士もそろっておりますしな」


「…どう思う?」

「どうとおしゃられますと?」

「父上の、教皇猊下の動きじゃ。もしかすると夏至祭明けにはすぐに司祭会議招集と言う事になるかも知れんぞ」

「それは…在り得ますな」

「そうなれば、あのセイラ・カンボゾーラも随伴して帰って来る事になるのではないか?」

「それは…ちと不味い事になるかも知れませんあ。教皇猊下が清貧派に膝を屈したと思われるのは好ましくありませんから。ケダモノ王女との婚約の件を黙認するにしても光の神子に命を握られているとの印象は避けたいものですが…」

2024年は年明けから大変な年でしたがご愛読ありがとうございました

良いお年をお迎えください


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