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審問会(1)

【1】

 とうとう審問が始まった。

「まず初めに問う。ライオル伯爵の殺害についてその状況を聞こう」

 マリナーラ枢機卿の言葉にシェブリ伯爵が口を開きかける。

「その件は光の…」

「お待ちください。その件は現場に居なかったシェブリ伯爵では無く当事者のギボン司祭から聞くべきでは無いですか」


「娘! 僭越だぞ!」

「一般信徒の分際で!」

「待たれよ。その者は現場にいた当事者だ。シェブリ伯爵ではその娘の反論に答えられまい。ギボン司祭詳細を話せ」

 パーセル大司祭がギボン司祭に命じた。

 そしてここから完全に議長としての権限はパーセル大司祭に移ってしまったようだ。


 ギボン司祭が以前村長館で話した事と同じ事を話した。

 ライオル伯爵が私を殺そうとしてそれを庇ったルーシーさんを刺して更にルーシーさんの治癒を邪魔しようとしたため刺したのだと。

「そもそもナイフを出して私を脅したのはギボン司祭では無いですか。聖女ジャンヌ様を説得する事を強要して。ライオル伯爵は私を人質にルーシーさんに言う事を聞かせようとしただけ」

「後は私が説明いたしましょう。ギボン司祭に脅された時に聖堂騎士団長が躍り込んで彼女をなぎ倒しました。ライオル伯爵は拾ったナイフでセイラさんを脅して連れ去ろうとしたのです。それを阻止しようとして私は刺されました。そしてセイラさんの治癒魔法で一命をとりとめ彼女は力尽きました」

 部屋中から”おお”と言う感嘆の声が響き、聖女だ、光の属性だという声が部屋中に響いた。


「それならば光の聖女として今すぐにでも…」

「お黙りなさい! 今はライオル伯爵殺害の審問中です」

 パーセル大司祭がピシリと言う。

「その光の聖女たるセイラ様を害そうとしたのですから、我が懲罰を成したことは認められるべきです」

 ギボン司祭が言う。

「ライオル伯爵は聖堂騎士団長に拘束されておりました。セイラさんを奪う為にその女はライオル伯爵を弑逆したのです」

「我は光の聖女こそを大事だと、重要だと確信したからこそこの様な行動に出たのだ。ライオル伯爵は私欲の為に光の聖女を連れ去ろうとした。それを止めるのは聖職者の務めと考えたのだ」


「その私利私欲の為に私たちを攫って聖堂騎士団長を殺しかけた。いえ、私がいなければ殺されていたわ。その指揮を執っていたのは貴女じゃない!」

 ギボン司祭の平然とした態度に怒りのあまり黙っていられなくなる。

「それは否定せんよ。ライオル伯爵の愚かな計画に乗ってしまった我もどうかしていたと今なら思う」

 ふざけるなと言いたい。何を被害者づらしているのだ。どう考えてもライオル伯爵を唆していたのがお前だろう。

 私がさらに口を開こうとするのをゴルゴンゾーラ卿が押し留める。


「謝罪もするし、結果的に光の聖女を害するような結果に導きかけた事は我の不徳の致すところだ。ライオル伯爵を誅する事で聖女の命を救えたとは言えご母堂に危害を成したことは弁明の余地も無い。慈悲も請わん、罪は受け入れる」

 ギボン司祭はいつもの淡々とした口ぶりで無感情に機械的に言葉を吐き出し続ける。


「それで、ライオル伯爵の計画とは如何なる物だったのだ」

 パーセル大司祭に問いかけにギボン司祭は淡々と答えて行く。

 元々カマンベール男爵領に野心の有ったライオル伯爵家は領内で麻疹が発生した時に、カマンベール男爵領にも感染が広がれば領内が困窮するだろうと考えた。

 そこにギボン司祭からポワトー枢機卿の病の事を教えられ、実績査定の前に他界すると教区内が紛糾する事、治癒の為にジャンヌに依頼を出す事で清貧派に借りを作りたくない事を告げられた。

 それならば清貧派で聖女ジャンヌとも親しいカマンベール男爵領に麻疹が流行すれば助けに来るだろう、そこを異端審問を口実に連行し審問取り下げを条件に治癒をさせようと企んだと言う。

 ポワトー枢機卿は教区の中心聖堂であるロワール大聖堂から少しでもライオル伯爵領に近い東の領境の村に移して網を張っていたとの事だ。


 その計画をライオル伯爵が主導して立案したなどと言う戯れ言は、まるで信用できない。それ以前の嫌がらせを見てもそこまで頭が回る人物…一族では無いだろう。

「その計画をライオル伯爵が実行に移したと言うのですね。それに対しては今は検証も出来ませんので意義は唱えません。でもポワトー枢機卿の移送や村長館の接収、それに聖女ジャンヌの異端審問の告発や一行の拉致はライオル伯爵には不可能だと思いますよ」

 ルーシーさんがギボン司祭の説明の粗を突く。


「ワシはシェブリ伯爵から話を貰った。ポワトー枢機卿の為に骨を折ると言ってな。村の提供もポワトー枢機卿の移動も全て手配してくれた。ジャンヌの…いや聖女ジャンヌ様の告発の手続きはシェブリ大司祭が担当してくれたしな」

「その言い方では我らシェブリ伯爵家が何やら画策した様では御座らぬか。同じ教区の大司祭としてお助けする為に具申申し上げたのだ。其方も納得して了承したであろうが」

「そもそも初めに聖女ジャンヌ様を召喚して治療に当たらせようとワシが提案した時に反対したのは其方であろう。借りを作るだの体面がどうだのと言って。その挙句どうだこの様なスキャンダラスな事件まで起こしておいてその話は通らんぞ」


「シェブリ大司祭様もポワトー大司祭様もライオル伯爵の提案に賛同したのは事実なのですね」

「それはもうライオル伯爵が勝手に動き出していたからじゃ。今更止める訳にも行かなかった」

 ルーシーさんの質問にシェブリ大司祭が言い訳がましく応えた。

「それでも気付いた時に止める事も出来たでしょうに、そのまま流されてしまった責任は有りますよね」

「それはそうかも知れんが、父う…ポワトー枢機卿の容態は芳しくなかった。もう動いているのなら、それがワシに対する好意からだと思った故に認めてしまった。騙されているとは露にも思わなかったのだ」

「騙すとは心外な。いくらポワトー大司祭でも言葉が過ぎますぞ」

「しかしポワトー枢機卿が東の村に移った頃でも聖女ジャンヌ様に願い出れば彼女は駆けつけてくれたのではありませんか。こんな手の込んだ事をするよりも確実にもっと早く。それをさせなかったのはシェブリ大司祭様の落ち度ではありませんか?」

 ルーシーさんは畳みかける。ターゲットをシェブリ大司祭に定めたようだ。


「ハッキリ言う。リール州の聖教会大司祭としてグレンフォード大聖堂に膝を屈する訳には行かん。召喚して出向いて来るなら良いが、拒否された場合我らが懇願する訳には参らん。ましてやライオル伯爵めの所業が知れれば聖女ジャンヌ様の機嫌を損ねるだけだ」

「それでも同じリール州の聖教会も絡んだ所業なのですから監督責任が無いとは仰いますまい」

「おおそうじゃ。ギボン司祭は数年前にライオル伯爵領の筆頭司祭になったが、そもそもシェブリ伯爵領に居った聖職者ではないか。其の方の監督責任は明白じゃ」

 ポワトー大司祭がシェブリ大司祭に追い打ちをかける。


「そう言えばマリナーラ枢機卿様、聖女ジャンヌ様の捕縛は枢機卿のお膝元マリナーラ伯爵領であったとお聞きいたしましたがどなたのご指示ですかな」

 パーセル大司祭がマリナーラ枢機卿に水を向ける。

「聖女ジャンヌ様を西部の州内で捕縛させるとは嘆かわしい事ですな」

「いかにも、あのお優しい聖女様に対して無礼にもほどが有る」

 フォン・ド・ブラン大司祭とカチョエペペ大司祭がパーセル大司祭の言葉に賛同する。

「わしはただロワール大聖堂の要請に従ったまでだ。告発されているのならその要請に従う事に何を異議を唱える事が有る。許可を出した事に何も問題は無いはず」

「だからと言って他州の教導騎士を領内に入れるとは」

「まして勝手に連れ去るのを是認するとは、西部教区も舐められたものですな」

 マリナーラ枢機卿は顔を真っ赤にして黙ってしまった。


「それならば東領境の村についてもシェブリ伯爵領内にあるのですから、シェブリ伯爵家の管理で良いのですよね」

「それはそうだが、今回はライオル伯爵家に貸し与えていたのだ」

 ルーシーさんの問いかけに警戒したシェブリ伯爵が逃げの回答を始めた。

「それは領主貴族として如何なものでしょう。自領内の管理を放棄していると言っても過言ではないでしょう」

「そんな事は無い! その為に私が駐在しておった」

「ならあの館で起こったポワトー枢機卿暗殺未遂事件の警備責任は貴方にお有りになると言う事ですよね」

 シェブリ伯爵の顔が一瞬にして青くなった。

審問は罪のなすり合い、足の引っ張り合い

挙句にポワトー大司祭とシェブリ伯爵の非難の応酬

そしてシェブリ伯爵も追い詰められてきました


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