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衝撃の告白

【1】

「ルーシー、今まで辛い思いをさせて済まなかったな。俺も腹を括ったんだ」

 そう言うと凍り付いているルーシーさんの脇に左手を回して抱き寄せた。

「彼女とは昔から恋仲でね。妻にと望んだが公爵家のしがらみもあってね。子も授かったが、兄上の長女と同い年と言う事で色々と厄介事があった物で隠していたが、そう、そう言う事なんですよ」


 説得力があるようで、その実中身の無いスカスカの理屈で煙に撒こうとしている魂胆は見え見えだ。

 そもそもこのオヤジがルーシーさんと始めて会ったのは去年の事じゃないか。

「それは…理由は良く解るが、それが事実と言う事を証明できるのか」

 シェブリ伯爵が聞いてくる。…ってあの説明で納得できるのかーい!


「ルーシーとセイラの顔を見比べて頂きたい。目鼻立ちもそっくりでしょう。親子である事に異論をはさむ事は出来ないでしょう」

 いや、お母様と従妹同士なんだから私が似ていて何ら不思議は無いだろう。

「ああその通りだ。ルーシー・カマンベールの血筋であろう」

「しかしゴルゴンゾーラ卿、其方の娘かどうかは…」

「その問いはルーシーが不貞の者だと言うおつもりか? シェブリ伯爵」

「いやそう言う訳では無いが、其方が二人を取り込むための詭弁と疑う事も出来るのでな」

「まあ高位貴族出はよくある事じゃから邪推する訳では無いがわしもそこを知りたい」

 いや絶対詭弁じゃないの。高位貴族ではよくある事なの?


「お疑いなら説明いたしましょう。シェブリ伯爵もポワトー大司祭もライトスミス商会の名はご存じでしょう。何を扱っているか知らなくとも王都にまで評判は聞こえている大商会だという事はご存じでしょう」

「おお、知っておるぞ。コーヒーや香辛料に何よりシェリー酒やポルト酒はなかなか良い物を扱っておるな」

「ならその商会主がセイラ・ライトスミスと言う事もご存じでしょう」

「ああ、なかなかに食えぬ商人だと噂に聞いておる。南部や西部では婦女子に人気の店を構えておるそうだな。貧しい貧民の子供をメイドにして貴族に売っておるそうではないか」

「それは違います! 手に職を付けて仕事を斡旋しているだけで…」


 ゴルゴンゾーラ卿が私の肩を掴んでぎゅっと引き寄せた。

「修道女の方々はセイラカフェのメイドの事はよくご存じでしょう。彼女らがどれだけ優秀か」

 修道女たちが大きく首肯する。

「私共も雇いたいと思っておりますわ」

「北部には王都にしかお店が無いのでなかなか行く事も出来ず残念です」

「学生の頃南部の令嬢に自慢されて悔しい思いをしたものですわ。家格も下の男爵家なのに地元に店が有るだけでメイドを雇えて…」

「幾度かお茶会でセイラカフェのお菓子を御馳走になったけれどそれはもう…」

 修道女たちがキャピキャピと楽しげに語り出した。


「おほん、それで皆様に問いたいのですが、わずか四年でこれまでの大商会をセイラが単身で作れるとお思いか? 昨年にはクオーネで貴族御用達のサロン・ド・ヨアンナを開店したこともご存じでしょう。あの店も実質はライトスミス商会の経営ですぞ。その店名になぜゴルゴンゾーラ公爵家の令嬢の名が冠されているとお思いか」

「「おお!…」」

「「「ええ、サロン・ド・ヨアンナもセイラ様のお店なのですか」」」

「「「一度行ってみた~い」」」

 ポワトー大司祭とシェブリ伯爵の声を遮って修道女たちのキャピキャピが響き渡った。


「ええっああ、それでご納得いただけたでしょうかな」

「ああ、どうも誠のようだな」

「それでは致し方ない」

 良いのかそれで! 私はそれで助かるけど…。チョロいな貴族。

 でもこの後どうするつもりなんだろうゴルゴンゾーラ卿は。

 今は詭弁で最悪の状態は潜り抜けたけれど、この先どうなるか予想も出来ない。


「それでゴルゴンゾーラ卿。其方どうするつもりなのじゃ」

 ポワトー枢機卿が口を開いた。

 ゴルゴンゾーラ卿は溜息をつくと私とルーシーさんを抱き寄せて小さな声で呟いた。

「腹を括ってくれ。これしか方法は無いんだ」

 そう告げて私たちの肩に力を加えて跪かせると、自分も跪いてポワトー枢機卿に向かって首を垂れた。

「ポワトー枢機卿様。俺と妻と娘に家族の祝福をお願い致します。ここに夫婦と親子の契りを結び直す事を御誓い申し上げる」


 一体どう言う事? 祝福? 契り? ああ何て言う事なの。

「ダメ…。ダメよそんな事。私は父ちゃんとお母様の…」

「口をつぐめ。もう後戻りは出来ん。それ以外お前を守れん。お前もお前の家族もだ」

「ルーシーさんはそれで良いの? わたしの為に」

「私の命は貴女に貰ったものよ。私の為にこんな事になったのだもの。だから大丈夫よ」

「安心しろ。悪いようにはならない。名が替わってもお前はお前で、お前の親はオスカーとレイラで違いはない。だからここは耐えろ」


 ああ、私は何一つ変わっていない。

 思慮が浅くて、無鉄砲で、後先を考えない愚か者のままだ。

 昔、衝動的な行動で命を落とし娘を一人にしてしまった。そして四年前浅薄にも思い上がった私は仲間たちを危険に晒した。

 そして今また両親を泣かせるような事態に陥っている。余りにも愚かだと思うが、目の前で命を失いかける者をどうしても見過ごせない。


 ポワトー枢機卿の祝福の祝詞が唱えられる。

 頭を垂れて奏上される祝詞の祝福を受けながらゴルゴンゾーラ卿小声で私に告げる。

「反省とか、後悔とか下らない事を考えているようだな。誰かに迷惑をかけているとか思っていたらそれは大間違いだ。お前のお陰で救われている人間も沢山居るんだ。その手助けをしようと思う人間もな。そんな人の想いを否定する様な事は考えるな」

「そうよセイラさん。貴方は貴女のままでいてちょうだい。レイラお従姉ねえ様もきっとオスカー様もそう仰ると思うわ」

「少なくともこの部屋を出るときは、恥じる事無く胸を張って出て行くんだぞ。判ったな」


「其方ら家族に幸有らん事を」

 ポワトー枢機卿が祝詞を締めくくった。

「修道女様! 水魔法でポワトー枢機卿様に蜂蜜水を。そして枢機卿様これからゆっくりとお眠りください。眼が覚めれば今よりさらに体調は良くなっていると思います」

「聖女よすまぬな。そうさせて貰おう」

 ポワトー枢機卿はそう言うと修道女に手伝われて寝台に身を沈めた。


「アナ様、少し枢機卿様の容態を見て栄養補給のタイミングや量などを教えてくださいませんか。そう言う御処置はよくご存じだと思いますので」

「はいセイラ様、仰せのままに」

 アナ聖導女は私に傅くように一礼すると枢機卿のもとに向かった。

 そんな態度は止めて欲しいのだけれど。


「栄養補給はそのカップ一杯分を一刻の間に四回に分けて胃に送って下さい。枢機卿が目覚めて空腹を訴えられれば乳粥を三倍に薄めてそのカップに半分だけ食べさせてください。それから‥‥」

 アナ聖導女は修道女たちにテキパキと指示を出すと私の元に戻って来た。

「それではポワトー枢機卿はお休みになられます。用の無い者は退出いたしましょう!」

 私の宣言で看護の修道女以外の全員が立ち上がり私たちの後に付いてゾロゾロと部屋を出て行った。

このチョイ悪オヤジ

セイラをダシに使って惚れているルーシーさんを巻き込んだ

そもそもルーシーの年齢では王立学校在学中の出産になるから割とスキャンダラスな事になるのですよ


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[気になる点] この件に関わってた黒幕たちがなぁなぁで何のお咎めもなく終わるのは嫌だなあ [一言] ギボンとかいうガチ外道はちゃんと死以上の因果応報を食らって欲しい
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