今日の予報はふわもふもっふぃ日和時々姫の襲来
「人族の小娘!出てきなさい!」
戸越しに女性の怒った声が聞こえたので念のため私の相棒包丁さんを携えながら“料理中だったの。てへっ☆”と言うノリで扉を開けてみます。
「ちょっとあなた!どうやってディランさまを篭絡したのか知らないけれど、属国の王女のくせに調子に乗ってどう言うつもり!?」
そこには昨日晩餐会でお見かけした竜族の姫・・・つまりはディルさまの婚約者がいたとです。
金色の竜角、そして情熱的な赤いロングヘア。瞳はディルさまと同じ金色で竜族の伝統的な衣装に身を包んだ彼女は数人の女官と一緒に我が部屋を強襲なされに来たようです。
「ちょっと何とかいい・・・」
彼女が私に近寄ろうとした瞬間、侍女たちが彼女を私から遠ざけます。
「お待ちください!この小娘刃物を持っております!」
「おのれ!姫さまを害そうとするとは、属国の姫の分際で!」
いや・・・その、襲いに来られたのなら武器を持って応対するのは当然ではありませんかね。
すちゃっ。
包丁を構える私。
「近衛兵!近衛兵!この人族の小娘を捕らえなさい!」
「姫さまへの傷害・・・いえ、暗殺犯です!」
え、何故そうなる。暗殺も何もそちらが一方的に押しかけてきたのではないのですか?
因みにもう一方の手にはお玉を持っています。片手に包丁と来たらもう片方にはお玉ですよね。
※あくまでもメイリィの個人的な所見です。
「近衛兵ならここにおりますが」
その時私の後ろから、男性の声がしました。ディルさまではありません。背は私よりも少し大きいくらい。ディルさまのような長身ではありません。
「メイリィさまは料理中であったため、先ぶれもなく急なご訪問に慌てて応対したまでです。明らかにそちらが礼を欠いている挙句、いきなりメイリィさまのお部屋に押しかけ危害を加えようと乗り込んだのはあなた方ですよ」
「んなっ!あなた!」
彼の姿を見て竜族のお姫さまも、侍女たちも苦々しい表情を浮かべました。
「俺が誰だか知っているでしょう?今日の件は包み隠さず“兄上”に報告しますので。それともまだ報告事項を重ねますか?メイリィさまが“兄上”のお気に入りであることはあなたもお察しされたはずだ。だから直接ここに来られたのでしょう?ならばあなたがたの行為が“兄上”を激怒させることくらいわかるでしょう。今引き下がるのであれば“兄上”には、単に同じ婚約者同士である竜姫さまが昨夜の晩餐会で体調を崩されたメイリィさまを心配し、挨拶と見舞いに来られたと報告いたしますが、いかがですか?」
「うぅ、はい」
そう力なく頷いた竜姫さまは、侍女たちとそそくさと去って行かれました。
「さて、大丈夫でしたか?」
私を助けてくれた少年は私と同い年ぐらいの見た目です。扉を閉めると私に向き直って微笑んでくれました。
わぁ!なかなかの美少年ですよ。暗い藍色の髪に銀色の竜角。瞳はどこかディルさまを思い起こさせる金色の切れ長の瞳です。“近衛”と言っていた通り彼は軍服のような装いに帯剣しておりました。
・・・しかし。
「は、はい。大丈夫です。ありがとうございました。けど、どちらから入られたのですか・・・?」
我が部屋には私ともっふぃたちしかおらず、竜姫さまたちが押し掛けてきたため、私の後ろから現れる・・・と言うのは不可能なのです。
「俺の特殊能力です。俺は闇魔法使いなので影のあるところは出入り自由なのですよ。例えばあのテーブルの下とかですね」
確かにあそこは影になっていますね。
「頭をぶつけませんでしたか?」
椅子に腰かけるタイプの背の高いテーブルとは言え、彼が出入りするには少し窮屈かもしれません。
「ぷっ、そこなのですか?」
何故か笑われたのですけれど。
「だってぶつけたら危ないではないですか」
「そのようなへまはしませんよ?普通闇魔法使いと言うと、大体の方が恐れるのですが」
「確かに光魔法使いと同じように希少な魔力ではありますが・・・どうして恐れるのです?光魔法使いも珍しい故に歓迎されるではないですか。何故同じ希少な闇魔法使いが恐れられるのですか?」
「はっ!これは傑作・・・あっははははははっ!!」
何故か爆笑されました。何かディルさまの笑い顔を思い出しますね。あ、そう言えばこの方は先ほど“兄上”と仰っていました。それに何となく面立ちが似ているのです。
「あのもしかして、ディルさまの・・・」
「ひぃ・・・久々にこんな、わらった。はは・・・っ!そうだよ。あの兄上があなたを愛称で呼ばせているのも驚いたけれど。ご想像の通り俺は第2皇子のイルゼと言う」
「イルゼ殿下、ですね」
「・・・」
「よろしくお願いします」
「俺に対してそんな普通に応対する奴も初めてだけど・・・さ。ねぇ?」
ん・・・?何かイルゼ殿下のお顔が近くないでしょうか?そして何故か顎を持ち上げられました。それは兄弟ならではの癖かなにかでしょうか?いや、んなわけあるかです。
「あんたさ、どんな手を使って兄上を誘惑したの・・・?」
「はい・・・?」
誘惑・・・?先ほど竜姫さまも“籠絡”と仰っておられましたね。
「兄上は国が決めた婚約者は皇太子としての責務で受け入れていた。でもだからと言って世継ぎを産むための女・・・くらいにしか思っていなかった兄上は個人的に婚約者の部屋に通い、寝食を共にし、愛称で呼ばせる。そんなことは一度もなかったんだ。そんな兄上がわざわざ人族の属国相手に指名してあんたをここに呼んだ。兄上のことはずっと見てきたつもりだけど、あんたが兄上をどうこうするような話は聞いたこともないし見たこともない。ねぇ・・・天才闇魔法使いの俺の目をかいくぐって、兄上に何をしたの?」
イルゼ殿下の目が、恐い・・・?何だかゾクリとします。
「素直に吐くつもりがないのならいいよ。闇魔法で無理矢理操って吐かせれば済む話だからね・・・?」
「・・・えと、それは無理ですよ?」
「・・・何故?」
イルゼ殿下の冷たい指が私の首筋にひんやりと触れました。何故でしょう。イルゼ殿下にはどこか底知れないものを感じます。
「国家機密です。まぁ竜帝国に嫁ぐ以上、せめてディルさまの許可はとらねばなりません。けれどイルゼ殿下に闇魔法を使われるとそのことが知られてしまうので、使うのならばディルさまに私からお話してからにしてくれませんか?」
「・・・それは、俺があんたに疑問を持っていることも芋づる式に兄上にバレるだろう?」
「バレてはいけないのですか?」
「これは、俺が個人的に調べていることなのでね。一つ、可能性があるとすればあんたが光魔法使いの場合だ。・・・が、そんな物は国家機密でもなんでもない。むしろ国が率先して自慢してもおかしくないし、そんな希少な存在を帝国にむざむざ売るかね?それともだからこそ、皇太子である兄上を無理矢理言いくるめた?」
「ディルさまが、そんな言いくるめられるお方だと?」
「・・・ふふっ」
いや、何故またそこで笑いますか。
「まぁ、そうだね。そんな兄上じゃないから。だから・・・兄上を誘惑したあんたの国家機密を先に暴く」
イルゼ殿下の掌が私の首を握ってきます。そして少し力がこもって・・・っ
うぐ・・・っ
「もふぃ~~っ!」
「ふも~~~っ!」
「わっ!?」
その瞬間でした。イルゼ殿下がバランスを崩されてキッと自分の脚に体当たりして来たものを睨みます。
「2匹とも、あぶな・・・っ!」
私はその体当たりの主・・・もふちゃんとそのお婿さんに手を伸ばしますが・・・。あれ、イルゼ殿下がぷるぷる震えながら2匹を見ていますね・・・?
・・・何かが私のアンテナに引っかかりました。私の勘が正しければ・・・!
私はもふちゃんとそのお婿さんを抱っこします。
「なでなでしたいのですか?」
「んなっ!んなわけっ!」
あの、わかりやすすぎませんか?
頬が真っ赤ですよ?
「ひとまずイルゼ殿下が私と休戦してくださるのならなでなでしてもよいですが?」
「もふぃ!」
「ふも~」
2匹も同じ意見のようした。
「う・・・わ、わかった。だが、あくまでも休戦だからな!」
・・・ひょっとしてツンデレ皇子なのでしょうか?