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アルダの翼



トルー殿下は自分はエストランディスの王子だとほざいて暴れましたが、

屈強な騎士さんたちに拘束され、連れていかれました。


「・・・ディル、本当に来てくれて、嬉しいです」

私とシンシアは、念のため、

大公宮で診察を受けながらディルを見上げます。


「あぁ・・・朝、お前たちの姿が見えないと、

アナが知らせてくれて、

近衛騎士が中庭に倒れていたから、探していた」

アナやキャロル、モニカさまも、

心配して私たちの傍に来てくださっています。


「その騎士さまは」


「問題ない。軽傷だ」


「・・・良かったです。その・・・処分・・・とかは・・・」


「減俸は免れないが、後でルゼが鍛えなおすそうだ」


「・・・そうですか」

減俸は仕方がないですが・・・退役・・・

とかにならなくてよかったです。

私・・・甘いですかね?


「メイリィが呼ぶなら、どこへでも駆けつける」


「ありがとうございます」

私がディルと話していると、

黒ずくめに身を包んでいた彼が、こちらへ歩いてこられました。

今は顔をさらし、刃をその身にしまっています。

彼を見て、アルダさんが身構えたのがわかりました。


「大丈夫です。私の友人です」


「ゆ・・・友人って・・・」

ディルが渋い顔をします。

そう言えば、夜会から戻ってすぐ、女子会に移行したため、

彼のことを説明していませんでした。


「彼は、祖国の山ひとつ隔てた向こう側の国・・・

フーリン国のシュティキエラ王太子殿下です。

殿下、彼が私の婚約者で、竜帝国の皇太子殿下・ディランさまです」


「・・・先ほどは挨拶もせず、失礼いたしました。ディラン皇太子殿下」

殿下が相変わらずの仏頂面ですが軽く礼を取ります。


「あぁ・・・こちらこそ。シュティキエラ王太子殿下」


「此度は我が従国じゅうこくのものがご迷惑をおかけしました」

“従国”と言うのは、

宗主国に対する我々の祖国“属国”のような意味合いですが、

属国の最高統治権が竜帝国なのに対し、

彼らは彼らで最高統治権はそれぞれの従国の国主になります。


しかし、彼らはフーリン国と言う宗主国に従い、

下につくことで、強国の植民地化から身を守っています。

その中には、属国も存在するのですが、

サクル皇国は従国に当たります。


「いや・・・こちらこそ協力感謝する」


「だが誓って、我らは竜帝国に敵対するつもりはありませんし、

もし従国内に、此度の件に加担した者がいれば、

即刻あぶり出し、引き渡しましょう。我らは全面的に、協力いたします」

最高統治権はサクル皇国にありますが、

基本的に宗主国であるフーリン国は、

従国が裏切り、離反行為をした場合には、

強い権限を持つそうです。

それほどまでに彼らの国・・・と言うか、種族が強いんですよね。


「感謝する、シュティキエラ王太子殿下」


「それにしても・・・まさか、

トルー殿下・・・いえ、もう殿下ではありませんね」

彼は祖国を他国に売った、大罪人です


「彼が、竜帝国から離反し、エストランディスを

サクル皇国に売り渡すつもりだったなんて・・・

そんなことが本当にできたのでしょうか?」

私の指摘に、ディルが困ったような表情をしました。

だからこそ、シュティキエラ王太子殿下・・・

愛称はシュキ殿下とおっしゃるのですが、口を開きます。


「彼らは確かに、武闘においては優れている。

だが、魔法が苦手な国だ。竜帝国の竜族には遠く及ばない。

真祖も・・・違うはずだ」

竜帝国の真祖は、神龍さまです。

サクル皇国は・・・


「サクル皇国には、確固とした真祖が存在しない。

血統的にも、武力的にも竜帝国よりは劣る」

まぁ・・・その内容は、シュティキエラ王太子殿下だからこそ、

言える指摘ですよねぇ・・・


「シアを聖女として売ろうとしていましたが・・・」


「聖女や聖者を多く輩出する血筋を

手に入れたかっただけであろう。

俺は、皇王が絡んでいるとは睨んでいない。

恐らく、敵対勢力だろう。

その力を確固たるものにするために、

聖女と言う魔法の力を欲しがった」


「国ひとつを巻き込んで・・・ですか?」


「多分、あのエルフも騙されていたのだろう?」

それって、トルーでん・・・彼のことでしょうかね?


「彼らは単に聖女が欲しかった。

最初から、エストランディスを独立させようなどと言う気は、

無かったはずだ・・・そこまで見越しているならば、

俺など恐れない力を手に入れているはずだ」


「確かに・・・そうですね。でも、それは不可能なのでは?」


「それもそうだ」

シュティキエラ王太子殿下は苦笑します。

彼らの国の種族は、最強の名を

ほしいままにする戦闘部族だったりします。

その部族が、竜帝国を一目置く。

そんな竜帝国を敵に回す甲斐性など・・・

あるはずがありません。

なによりあのビビりっぷり・・・


「あの方は、最終的にどうなる予定だったのですかね?」


「さぁ・・・聖女・聖者を産み出すための子種にはなるな」

結局彼も売られる運命だったんかい・・・

あぁ・・・哀れ。

彼はシュティキエラ王太子殿下を見ても、

いまいちピンと来ていないようでした。

ま、実際に見たことがあるなんて、

フーリン国の周辺の従国、属国くらいですからね。

私も、彼がやいばを纏ったところは、

ほんの数回しか見たことがありません。


纏えば最強ですから。

そしてその最強部族と、シンシャ兄さまはやり合っていました。

本当に、シンシャ兄さまは読めないですね。

・・・シスコン変態なところも含めて。


「・・・それは混血か?」

不意に、シュティキエラ王太子殿下が、

アルダさんを見やりました。

既にアルダさんの目の瞳孔は、丸く戻っています。

シュティキエラ王太子殿下の瞳は、

常に瞳孔が縦長ですけどね。


「そうだ」

ディルが短く答えます。


「・・・そうか」

特に興味もなさそうですが、不意にアルダさんに手を伸ばし、

アルダさんが身構えます。


「その埋まっているのは、だそうか?」


「え・・・」


何が、埋まっているのでしょう?


「えと、だしたらどうなるのでしょう、殿下」


「・・・強く・・・なる?」


「バージョンアップしませんか!?アルダさん!?」


「えぇ・・・メイリィさま・・・!?」

ちょっと引いてませんか?アルダさん。


「我が主に聞いてください」


「・・・ディラン殿下?」


「ださないと不都合があるのか?」


「・・・背が・・・伸びない・・・

動きが・・・重くなる・・・あと・・・錆が、体内に・・・」

シュティキエラ王太子殿下が次々と挙げていきます。


「・・・親族は、もういませんが・・・短命でした・・・」


「・・・その、影響」


「・・・っ」

アルダさんが目を見開きます。


「だから、混血でも、我らはあまり国を出ない」

アルダさんの親族は、どんな理由があって

国をったのでしょうか・・・

それはわかりませんが、混血だと、

そう言うデメリットも持つのですね・・・


「俺は、竜族の翼を、だすことはできませんでした」


「その代わりに、そこに金鱗きんりんが埋まっている・・・のですか?」

彼ら部族は、その身に纏う刃を、金の鱗・・・と呼びます。

つまりは鱗でして・・・

竜族の鱗に少しだけ通じるものがあるのだと、昔彼に聞きました。


「だろうな」


「・・・それは、純血の方ならば、みな、可能なのですか」

アルダさんが口を開きます。


「・・・いや・・・訓練・・・か、俺の力だな」

つまり、訓練すれば、混血でも出せるのですね。

そして、シュキ殿下がそれを出す力を持っているとは・・・


「アルダさん、やってもらったらいいじゃないですか」


「メイリィがそう言うのなら、俺も賛成する」

ディルもシュキ殿下を信用してくれたようです。

無口で仏頂面だけれど割と優しい方なんですよね。


「・・・メイリィ・・・」


「どうしました?」

ディルが何故か私の顔を見てきます。


「メイリィを一番愛しているのは、俺だ」

何の話をしているんですか?

てか、シュキ殿下はもう婚約者いますからっ!


「主が・・・命じるのでしたら」


「では、頼めるだろうか、シュティキエラ王太子殿下」


「・・・あぁ」

シュキ殿下が、アルダさんの背中に手をかざすと、

その背中から、透き通るようなクリアブルーの金鱗が姿を現します。

まるでアルダさんの瞳と同じ色ですね・・・


そしてその形は・・・一対の竜の翼の形をしていました。


「・・・これは・・・」


「金鱗と竜の翼が・・・一緒になっていたのですか・・・?」


「・・・多分」

シュキ殿下が頷かれます。


「・・・だ、出し入れとかは、どうすれば・・・」


「滞在は、あとどのくらいか」


「・・・事後処理に・・・2~3日は。

それ以降は、帝国からの増援と交替して、

俺たちは帰国することになる」

と、ディル。


「なら、その間・・・練習に付き合う。そうしたら、慣れる」


「では・・・それで?」

ディルを見ると、頷いてくれました。


「何より、アルダのためだ」


「・・・わかりました、殿下」

アルダさんが頷き、シュキ殿下に訓練いただくことになりました。


「シュキ殿下のご予定は、大丈夫なのですか?」


「同行者も、此度の騒動を見届けたいようだ」


「ひょっとして、シリンズランドの・・・?」


「・・・あぁ、そうだな」

シュキ殿下が薄く笑まれました。

やはり、あの王女殿下とお付きの青年でしたか。


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