刃の血族
私とシアは、どこかの屋敷のような場所に監禁されていたようです。
ひととすれ違わないように、慎重に進みます。
ステップは、巨大扇子神楽のものを代用しました。
のっそり静かに動くステップですからね。
因みにシアのは、エストランディスに伝わる
巨大ハープのステップらしいです。
エストランディスにも、巨大文化がありましたか・・・
エストランディスもまごうことなく、竜帝国の属国魂を持っていましたね。
でも・・・ハープって・・・演奏しながら動くのですかね?
巨大だったら持って動けなくないですかね?
そんなこんなで移動していたら、話し声が聞こえてきました。
ここは慎重に・・・ですね!
『あぁ・・・これで準備は整った』
準備・・・とは、何のことでしょうか・・・
『一匹余計なものが紛れ込んだが・・・』
余計なもの・・・?私か、シアのどちらかでしょうか?
『あとは“シンシア”を聖女として売れば、
私は王の地位を手に入れるんだな!』
んな・・・っ、シアを・・・売る・・・?
それに、王って・・・
しかも、シアを、呼び捨てにできる人物・・・
「・・・トルーお兄さま・・・」
シアが、呆然と呟いた。
「誰だ!」
その瞬間、その部屋から竜族の方々と・・・
シンシアの兄王子・・・トルー殿下が姿を現したのです。
「・・・貴様ら!どうやって抜け出した!」
トルー殿下が叫びます。
「そんなことより、お兄さま・・・今の、どう言うことですか!」
「はっはっは、お前はこれから売られる身だ。
より絶望するために、教えてやろう!」
「我らは、聖女であるお前をサクル皇国に売り渡すことで、
サクル皇国を後ろ盾に竜帝国から独立、
更にはこの私が、母やあのハーフエルフを廃して、
王の地位につく!もちろんあのハーフエルフは即刻処刑だ!」
んな・・・っ、ハーフエルフとは・・・イザナさまのことですか・・・?
何と言うことを・・・
「さぁ、捕まえろ!お前たち!」
「行けない!シア、逃げますよ!」
「うん!メイリィ!」
私とシアは一斉に駆けだしますが、
竜族の方々が大勢追ってきます。
「どうしたら・・・」
「きゃっ!」
シアが髪を掴まれて転倒して!
おんどりゃ~っ!シアの美しい銀髪に何てことを!
私はシアを掴んだ竜族の手を取ろうとしますが、
すかさず私も腕を掴まれます。
「だめ、逃げて!メイリィ!」
「いやです!私だけ逃げるなんて・・・あぁっ!」
私も押さえつけられてしまいました。
「さぁ・・・終わりだぁっ!!!」
トルー殿下が叫びます。
ど・・・どうしたら・・・
あ・・・そう言えば・・・私、
ディルと魔力でつながっているのでしたね・・・
では・・・
「ディル――――――ッッ!!!早く来てくださ―――――いっっ!!!」
精一杯叫んだら、口をふさがれてしまいました。
「何を・・・ここがわかるだけ・・・」
トルー殿下が嘲笑った直後・・・
大きな爆風が吹き荒れ、
私たちの前方1メートルより先が、
粉々になっておりました。
その先には、竜族の角を持った、3人のひと影があったとです。
「メイリィ!」
ディルの声です!
「な・・・何故ここが・・・ここには人質がいるのだぞ!」
トルー殿下が叫んだその瞬間、物凄い烈風が蓋と思えば、
私とシアを掴んでいた腕が、外れました・・・
・・・本体から・・・
ぶぢゃっと血が溢れる光景に、
思わずぎゃああああぁぁぁぁぁぁっっっと思いましたが、
素早くルゼくんが本体を離れた腕をひっぺかし闇魔法で
覆った結界で、私たちをガードしてくれました。
「あ・・・あうぅ・・・っ!?」
どぎまぎしている私の視線の先に立っていたのは、
他でもない、俊足の剣の使い手・・・と呼びたい、
ディルの側近・アルダさんであり、
その双眸は、また瞳孔が縦長になっています。
あの瞳は・・・やはり・・・
そこで、ディルがすたっとこちらに降り立ちました。
「大丈夫か!メイリィ、シア!」
「はい、ディル!」
「私もです!」
ふたりして、ディルに抱き着いてしまいました。
ふと後ろを見ると、竜族の方々が逃げ出しています。
「こら、私を守れ!」
へっぴり腰で喚いているトルー殿下を気にする者はいません。
次の瞬間には、トルー殿下はアルダさんに
刃を突き付けられていました。
そして、その刃を持つ剣は、柄の部分が、
まるでアルダさんの掌が上から軽く触れるように添えられていました。
ここで、私の考えは確信に繋がりました。
そして、逃げる竜族の方々の前に、
ひょいっと、黒い布をはためかせて人影が降り立ちました。
黒いベールをひっぺかすと、
その下は漆黒の髪に、つり目の赤い瞳。
その瞳の瞳孔は縦長で、ハーフエルフのようなとがった耳を持つ
美しい面立ちの美少年です。
そして逃げようとしていた竜族の方々は、
彼を見て・・・正確には、彼が纏う刃に、
たいそう、脅えていらっしゃいました。
トルー殿下は何なのか全くわからないようですが、
あれをみて脅えるのならば、
逃げようとした彼らが何者なのか、ひとめで分かりました。
『つまり貴様らサクル皇国の竜どもは、
我がフーリン国に敵対するということか?』
彼は、彼の国の言葉で声を発します。
その両手には、アルダさんが持っている剣と
同じようなデザインの、
長い金の柄、刃が黒く、額に赤い宝石がはまった双剣を
まるで掌の下に添えるように握っており、
彼の背後には、6つの三日月形の黒い刃が照準を定めております。
『な・・・何で・・・お前が・・・この国に・・・っ』
『お前たちが友人を攫おうとしていたようなので、加勢した』
『ゆ・・・ゆうじん・・・?あのエルフ・・・が?』
『何か勘違いをしていないか?どうでもいいが』
『な・・・っ』
『全て切り刻めば終わる』
『ひ・・・ひいいいぃぃっっ!お、お助け・・・を』
『何故・・・?我らへの反逆行為を認めろと・・・?』
『お待ちいただけますが、フーリン国からのお客人』
ディルが声を掛けます。
『お気持ちはありがたいのですが、
それらは我が竜帝国の属国で、
罪を犯したもの。身柄はこちらで頂戴しよう』
『・・・いいだろう。こちらも竜帝国とやり合う気はない』
彼は頷きました。
そしてアルダさんをちらりと見た後、
腰抜けた竜族の・・・サクル皇国の竜族たちを一瞥します。
『俺も同行する。反抗すれば・・・
我が友人が危険に晒されるかもしれぬ。わかるな?
竜帝国の皇太子殿下の温情に、感謝するがいい』
『・・・ひっ』
その後、増援に来てくださった、
イザナさま率いる騎士さんたちと、
近衛騎士たちによって、彼らは護送されて行きました。




