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エストランディスの夜会



エストランディスの夜会は、やはりエルフ族の方が多いです。

人族や、竜族の招待客もちらほらと見えます。


私たちは国賓のため、

女王陛下や王族の方々に近い席におります。


ついでに、イザナさまとモニカさまも、

イザナさまが竜帝国の皇族の血を引く大公閣下ですので、

私たちの席のすぐ傍にいらっしゃいます。


エルフ族の王国・エストランディスの夜会とあって、

私も結構な緊張感でした。


けれど、ディルが付き添ってくれて、とても心強かったです。

シアもルゼくんと、側近になりきったアナにガードされ、

万全の態勢で臨みます。


ディルの元へは、やはり宗主国の皇太子とだけあって、

挨拶客が絶えません。

私も一緒に・・・と、思ったのですが、メイリィを見せびらかしたくない、

と言うディルのいつもの行き過ぎた過保護により、

私はそばの席でシアと一緒に静かに観戦しておりました。


そんな時、とあるエルフ族の方が挨拶に来られました。


金色の髪に、エルフ族にしては珍しい、黒い瞳の少女です。

そして、お耳の特徴から、混血であることがわかります。

隣に立つ青年は、黒髪黒目の人族でした。

そんな彼らをひそひそと笑う声がちょっとばかりしますが・・・

アナに無視しておきなさいと言われ、

ひとまず彼女たちを観察することにしました。


「ディラン・セレフィラ・ドラグーン皇太子殿下。

わたくし、シリンズランドの王女、

シェンナディア・マリン・シリンズランドと申します。

どうぞよろしくお願いいたします」


「付き人のクロウ・サーガと申します」

シリンズランド!聞いたことがあります!

エストランディスとは別の、エルフ族の国ですよ!

そこの王女さまだったのですね。

こんなところでお会いできるとは・・・!


「あぁ、よろしく頼む」

ディルさまも無難にお答えされます。


ひとことふたこと挨拶されると、

シェンナディア王女は、また別のところへ挨拶に行かれました。


「シア、シリンズランドの方も、

エストランディスにはよく来られるの?」


「私は、あまりこういう場には顔を出さないから・・・

だけど、シリンズランドとの交流はあるって聞いてる」

そうなのですね・・・

竜帝国の属国の中で、エルフ族の王国はエストランディスだけですが、

外の世界には、普通にエルフ族の国も存在しています。


「それでも、こんなにも聖女が多く産まれるのは

このエストランディスだけらしいよ」


「だから、向こうの国からの縁談もよくあるのだと聞いたの。

私にもその縁談は舞い込んだから」


「そんな・・・シアに!?」


「うん、けれど、その前にディランさまが、

私を婚約者にしてくださったから」


「そうだったんだ・・・」


「そのおかげで、私はメイリィと出会えて幸せよ」


「・・・シア・・・っ!」

うるうる・・・やっぱり・・・なんていい子なんだろう・・・!


「ここで抱き着くのは禁止よ」

事前にアナに読まれていたようです。

ぐすん。


「それにしても、何だか妙だわ」

アナが怪訝な表情をする。


「何か気になったことでも?」


「ほら、竜族の伝統衣装を着た、

竜族の客がちらほら見えるでしょう?」


「えぇ、確かに。ウチのディルも招待されていますし」


「そうなのだけど・・・多分あのひとたち、

竜帝国民じゃないわね」

おや・・・


「明らかに箸の使い方に慣れていないわ」

エルフ族の国は箸を使いません。

スプーンかフォーク、パンのサラダ包みは手で食べます。

しかし、本日はディルが来ているということもあって、

竜帝国本国の料理も並んでいます。


「ほら、シュウマイを“あの”レンゲで食べてる」

あ・・・ほんとだ。

小籠包や肉汁の溢れるシュウマイならわかりますが・・・

スプーンでもなくフォークでもなく、

レンゲを選ばれていますね。

しかも、とりわけ用のでかいレンゲです。


祖国の巨大扇子舞踊と同じように、

竜帝国にはとりわけ用のでかいレンゲがありましたとです。

竜帝国&属国メンツの中では、

巨大化アイテムがオーソドックスなのでしょうか・・・

エルフの王国でも、巨大化アイテムがあったりして。あははは。


しかしまぁ・・・私はラーメン用の普通のレンゲしか

見たことがなかったため、

あれが王城の晩餐会で出てきた時は、大変驚きました。

でっけ~、なにこれ、と。


幸い、アナと仲良くなった後だったので、

アナがすんなり取り分けて私に小皿をくれました。

因みに、私のレンゲの持ち方が、なっていなかったらしく、

その後レンゲの持ち方も指南されたとです。


さてはて、話を戻しますが、

小さなレンゲならまだわかりますが・・・

このような夜会の席に、ドレスにはねたら大変な

脂っこい汁ものを多く扱うはずがなく・・・


竜族なのにとりわけ用のでかいレンゲとの区別がつかないって、

そうとうな天然さんなのでしょうか。

※あくまでもこの世界でのレンゲ事情なので、

地球上の文化・習慣とは異なる場合があります。


まぁ、私も竜帝国に来て最初は、

食事用の箸が菜箸のようだと思ってしまいましたが、

竜帝国本国ではそれが普通なのでした。


だから、エルフ族の国で並ぶお箸も長いです。

レンゲもあれが普通だと思ったのでしょうか?

食事用のレンゲは、あくまでも普通サイズです。


「それに、あの伝統衣装・・・」


「気になるのですか・・・?」


「深い藍色でしょう・・・?あれは、竜帝国本国では、

皇族やその婚約者、伴侶に許された色なのよ。

だから、皇族がいる場では着るのを控えるのがマナーね」

確かに、レンゲシュウマイさんは、

深い藍色の伝統衣装を着こなしています。


「単にディルが出席することを知らなかったのでは?」


「まさか・・・宗主国の皇族が参加することを

事前に掴んで来ないなんて、ありえないわ」

まぁ、確かに先日の夜会でも

ディル目当てのお嬢さんも多かったので、

事前に情報を掴んでいたのでしょう。

仮に属国で育った方でも、夜会に出席するなら、

それくらいは知っていそうですよね・・・?

何だか妙です。


「宗主国の竜帝国に気を遣って、

衣装を合わせてきたけれど、

色のことをご存じなかったのでしょうか?」


「間抜けな話ね・・・」


「メイリィ」

そんな話をしていると、不意にディルに呼ばれました。


「はい、ディル?」


「少し外すね。イザナと少し仕事の打ち合わせに行くから」

気が付くと、ディルの隣にイザナさまもいらっしゃいました。


「わかりました」


「くれぐれも、ふらふらしないように」


「わ、わかってますよ」

まったく心配性なのだから。


そして、イザナさまが席を立っている間、

モニカさまのお席をこちら側に移してくれました。

なので、昨日のお茶会メンバーで、再び談笑です。


たまに挨拶が来ましたが、

それは全てルゼくんが対応してくれました。


この期に及んで、聖女であるシアに近づこうとするハレンチどもは、

ルゼくんが闇魔力で威嚇しておりました。


うん、いい弟をもったなぁ・・・


そんな時、私の前に、何故か黒い面をした

黒づくめの御仁がいらっしゃって、

ルゼくんが警戒を強めました。


けれど、その次に出てきた言葉で、

私はルゼくんに大丈夫、と言って、

下がってもらいました。


アナ、シア、モニカさまは不思議そうな表情を

浮かべていましたが・・・


『お久しぶりです』

私は、彼のお国の言葉で話しかけました。


『君も変わりないようで、よかった』

彼も自国の言葉で話してくださいます。


『君がこちらに来ていると聞いて、驚いた』


『私もです』


『竜帝国の皇太子殿下の婚約者になられたのだろう?』


『はい、そうです』


『できればご挨拶したかったのだが、あいにくご不在のようだ』


『彼には、よく伝えておきます』


『では、よろしく』


『あ・・・そうだ、あの』


『どうした』


『えぇと・・・その、こちらには

“サクル皇国”の方もいらっしゃっているのですか?』


『私の供のものにはいない』


『そう、ですか・・・』


『何か、気になることでも?』


『いえ、ちょっと、お聞きしてみたかっただけです』


『そうか。では、何か困ったことがあれば、

遠慮なく言ってほしい』


『わかりました。それでは』

私は一礼し、彼と別れました。


そして、一同の方を向くと、ルゼくんが怪訝な顔をしています。


「(姉上、サクル皇国って・・・)」


「(えぇ・・・竜族の国と言われている、あの)」


「(あの方は、そちらの方面のお国の方で?

あぁ、言えないのであれば、大丈夫です)」


「(えぇと、あの方はサクル皇国の隣国の方なのです。

そちらの皇国ともやり取りのある方なので、

参考までにお聞きしてみた次第です)」


「(へぇ・・・それにしても・・・)」


「(ルゼくん、他にも何か気になることでも?)」


「(わざと、兄上がいないのを狙ってきてない?)」


「(いや・・・その、気にしすぎですよ~)」

しかし、その後席に戻ってきたディルに、

“あの男、誰?”と、

恐ろしいほどの笑顔で問いただされたとです。

黒ずくめだったのに、よく男ってわかりましたね・・・?

いや、背は高めでしたが・・・

さすがにここでは・・・あとで“2人っきりで”と、

笑顔で微笑みかけると、何故かノリノリで納得してくださいました。

本当に・・・何で・・・?


さて、こんな調子で、のらりくらりと過ごした私たち。

途中、トルー王子とトリス王女が襲来しようとしましたが、

アルダさんが無言の圧を放っており、

夜会での騒動がトラウマになっているのか、

すぐさま退散したとです。


本当にアルダさんって・・・何者なんでしょう・・・?


あれ、そう言えばアルダさんの目って・・・

あの黒ずくめのお方にお会いしたせいか、

何故か唐突にそれを思い出したのです。


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