大公制度
「せっかく我が国へお越しいただいたのですから、
私自ら、最高級のおもてなしをさせていただきます。
その方が、シンシアも喜ぶでしょう?」
そう言って、トルーさまはシアを一瞥します。
今回はシアを庇うようにアナがキリっと目を光らせており、
アナの姿を見て、トルーさまはギリっと
苦虫を噛み潰したような表情をされます。
「とにかく、どうぞ」
「結構だ。私と婚約者たちの滞在先は、
イザナの元でと、竜帝陛下も女王陛下も了承されている。
それを、属国の王子でしかない貴殿が翻すのか?」
「えと・・・私は、未来の王太子で・・・」
この方が長子・・・と言うことでしょうか。
「それはまだ、正式に決まっていない。
女王陛下が指名し、
竜帝陛下が許可することで初めて正式な王太子と認定される。
よもや貴殿は、宗主国の竜帝陛下を差し置いて、
王太子の名を名乗る気か・・・?」
「せ・・・先日の夜会でも、ご挨拶をさせていただいて・・・」
王太子に相応しいとアピールするために来たということでしょうか。
「その件だが、義母のユリアナ妃が大変不快感を示された。
竜帝陛下も苦言を呈されている。
女王陛下から、そのことはお聞きになっていないと?
ことと次第では、女王陛下の評価も下がるが?」
「わ、私が王太子に、王になれば・・・評価は巻き返せます!」
現在進行形で、あなたが評価を下げているんですけどね・・・
「では、汝は竜帝陛下が下す決定に口をだすと・・・?
竜帝陛下が許可していない貴殿の王太子、王位継承について、
断言なさるのなら、そう取られても仕方がない。
そのように竜帝陛下にも伝えさせていただくが、よろしいか」
「えと・・・それは・・・その・・・」
さすがにトルーさまもこれは不味いとご自覚なさったようで。
「用がないのなら、失礼させていただく。イザナ、案内を」
「はい、兄上」
そう、イザナさまがおっしゃった瞬間、
トルーさまは物凄い睨みをイザナさまに向けますが、
イザナさまは素知らぬ顔で私たちを案内してくださいました。
さてはて、いきなりの前途多難フラグを感じますね。
用意していただいたお部屋は、
私とディルは同室・・・まぁ、予想はしておりましたが。
ルゼくんは、近衛騎士隊として来ており、
本人の希望もあったので、臣下用の部屋に滞在します。
シアは念には念を置いて、
アナとキャロルに常についていてもらえるよう、
3人部屋にしていただきました。
本来、キャロルは正真正銘侍女なので別室なのですが、
シアをひとりにはできませんからね。
お部屋に荷物を置いた後、早速みんなで集合です。
本当は、私がひとりでアナとシアの部屋に行くと話したら、
嫌だとディルが抱き着いて離れないので、
アナ、シア、キャロル、ルゼくんを部屋に招いて、
みんなで軽く談笑会と決め込みます。
まぁ、本音を言えば・・・ちょっくら聞きたいことがあったのです。
「あの、先ほどのイザナさま・・・とは、ご兄弟なのですよね・・・?」
本当はアナにさらっと聞きたかったのですが、
ここに兄君のディルがいるので、聞いてみます。
「・・・あぁ。イザナは第3妃・ユリアナの長子だが、
竜族の血を受け継がなかったので、
エルフの王国・エストランディスに返され、
そこで一代限りの大公の位を与えられている」
そう言えば・・・前にそんな話を聞きましたね。
ついでに、ほとんどが、竜族の遺伝子の方が優勢らしいのですが、
受け継がないことは稀にあるそうです。
その際にはこの“大公制度”と言う制度によって、
属国に送られ、一代限りの大公位を賜るそうです。
尤も、宗主国の皇族でもあるので、
こうして、宮廷内に宮を与えられます。
ほとんどの方は、属国の王族と婚姻を結び、
宗主国との関係強化を図るそうです。
あれ・・・と言うことは・・・
「イザナさまも、エストランディスの王家の方と、
ご婚約されているのでしょうか・・・?」
「・・・まぁ、遠縁ではあるが、
現宰相の実家・・・公爵家の娘と婚約している」
「そうなのですね」
・・・と言うことは、やはりトリスさまに婚約者は無理だったようです。
あんなにイザナさまを卑下していましたからね。
「あと、ディルはこちらのイザナさまの宮が
よろしいと希望されたのですよね」
「あぁ・・・他の場所だと、侍女でも貴族でも、王族でも、
構わず私の婚約者のポストを狙ってくる」
「婚約者なら、もうシアがいるでしょうに・・・」
「それでも・・・だ。鬱陶しいったらありゃしない・・・」
まぁ、イケメンですものね、ディルは。
「ここはその分、洗練されている。
イザナは、俺にすり寄ろうとするものは、躊躇いなく追放するからな。
元々、イザナに恩義を感じている者たちが多く集まる宮だ。
イザナはもちろん、その兄であり、
宗主国皇太子である俺に媚びを売るような真似は、ほとんどしない。
ここを追い出されれば、路頭に迷うものも少なくないからな」
「あの・・・それはどう言う・・・?」
「姉上、イザナ兄上は、その、混血の特徴が出ているでしょ?
だから、それをよく思わない奴もいっぱいいるわけ。
イザナ兄上は、自分と同じように卑下される立場でも、
優秀な人員を積極的に入れているんだよ」
と、ルゼくん。
つまりは、混血の方とか・・・?
「そうだな。ここには純血のエルフ族もいるが、
差別意識のあるものは、当然イザナは入れない。
だから過ごしやすい」
「ほう・・・穏やかな滞在にはうってつけなのですね」
「そういうことだ」
「私も・・・ここなら、安心です」
と、シア。
「そうですね。イザナさまは、
シアに対しても偏見を持っていないようですし」
と、アナ。
「私は・・・ここで育ったようなものですから」
シアが、ここで?それは、どう言う・・・?
普通は、王女としての部屋が与えられるはずですが・・・
「・・・私はこの外見で、あまり兄妹とは仲が良くなくて、
よくイザナ兄さまに泣きついては、ここに滞在させていただいていました」
そう言えば・・・確執がたくさんあって、
先ほどのふたりも、シアにとっては地雷のようなものでしたからね。
「母も・・・そんな私を心配して、
ここに滞在することを許可していただきました」
「あれ・・・と言うことは、ディルがここに滞在した時、
シアとも会っていた・・・と言うことでしょうか?」
「まぁ、見かけたことはある」
「そうだったのですか!?」
シアは驚いたように顔を上げる。
「あの・・・私・・・国賓の方がイザナ兄さまの宮に
お泊りになる際は、兄さまにご迷惑をおかけするのは忍びないと、
ずっと奥にこもっており・・・
属国の姫としては、褒められたものではないのかもしれません・・・」
「別に構わない。姫だからと言ってすり寄られては逆に不快だ」
と、すっぱり言い切るディル。
・・・もう少しオブラートに包めないのでしょうかね。
今度、オブラートを使ったお菓子を食わせてみましょうか・・・。
オブラート度をあげられるかもしれません。
※科学的・魔法的根拠はありません
「はうぅ・・・」
シアが泣きそうなんですけど!?ディルさまったら~~~っ!
と言う目で見つめてみると、
ディルは私の腰を引き寄せにこにこしています。
無駄に私の考えてることを読むくせに、
こういう時はポンコツですかぁ~~~っ!!?
「つまり、シアのことを不快に思っていないと言うことよ。
もっと自信を持ちなさいな」
と、アナがシアに告げると、
シアはきょとんとしながら、ディルを見やります。
「・・・事情はイザナから聞いていた。気にするな」
おぉ・・・ディルなりの気遣いのようです。
シアも驚きながらも、微笑みを浮かべて頷きました。
おぉ・・・っ!エンジェルスマイル!!
眼福じゃぁ~、眼福じゃぁ~!
と、心の中で拝んでいたら、
ディルに顎を持ち上げられ、
強制的にディルのイケメンを拝まされたとです。
その後、ルゼくんまで、
“兄上、俺の方も見て”と、甘えてきたため、
何故かディルを巡るハーレムみたいになっちまいました。
アナが気を利かせてお菓子を出してくれて助かりました。




