エルフの王国・エストランディス
エルフの王国・エストランディスへは、
みんなで馬車にて向かうことになりました。
馬車の中では、ディル、私、シア、アナ、キャロルが一緒です。
5人でも楽々乗れる、少し大きめな馬車だそうです。
ルゼくんやアルダさんは護衛のため、
他の近衛騎士たちと一緒に馬車の周りを
警護してくださっています。
馬車の中では和気藹々と・・・
ディルがやたらと私をお膝の上に乗せたがり・・・
変な体勢では逆に私が酔うと、
アナに叱られて、しゅーんとなっておりました。
アナ、いろいろと最強な気がしてきましたとです。
そんなこんなで無事、エルフの王国・エストランディスに到着です!
よくある・・・?
魔物の襲撃イベントや、賊襲撃イベントなども特になく、
平和的な旅路でした。
たまにはこんなのもいいですよね。
てか、そんな襲撃イベントは嫌ですよ!?
因みにこの情報は、シンシャ兄さまからのものです。
王女の馬車旅にはつきものとか言われましたが、
そんなイベント嫌ですよ。
私、ちょっぴり馬車が苦手になりそうでした。
けれど、近衛騎士たちの熱気をめちゃ見せられ、
この頃はそんな馬車嫌いも解消されましたので、
ご安心下さいませ。
因みに、馬車が一時苦手になった私は、
乗馬も簡単にこなす腕を身につけましたとも!
実は私、ひとりで馬に乗れるとです!
そんな話を馬車の中でしたら、
ディルが、自分が私を抱っこして飛んだ方が早いと
ノリノリで迫ってきたのですが・・・
それでは空飛ぶ魔物に出会った時に困る・・・
と言ったのですが、魔法で殲滅できるそうです・・・
ですが、とぶのは恐いと言ったら、
自分の前にのって馬に乗せると、
にっこり笑みで了承させられたとです。
さすがにこれは、アナも同意見らしく、
私をひとりで馬に乗せたり、抱っこして飛ぶのは不安だそうです。
そして、ディルのいちゃいちゃがますます加速しそうで恐いです。
しかしまぁ、ともかく今は、ディルの婚約者として、
恥ずかしくない姿をお見せしなくては。
エルフの王国・エストランディスでは、
まず誰かを思い起こさせる深い藍色の髪に、
金色のつり目の青年が、私たちを出迎えてくれました。
エルフ族の方・・・のようですが、耳が少し短めなので、
混血の方なのかもしれません。
エルフ族の方は、通常お耳が長いのですが、
他の種族のお耳が混ざると、
お耳が半分程度になることが多いのだそうです。
それを良く思われないこともあるそうなのですが、
私は特に気にしません。
祖国にも、エルフの王国では暮らしにくくて、
移住してきたという民もいましたし、
親に捨てられるようにして孤児院に預けられている
エルフ族との混血の子は多くいました。
エルフ族の王国と、祖国の距離は、
随分と離れていると言っていいでしょう。
エルフ族の王国や、他の人族の国から、行き場や受け入れ先がなく、
偏見が少なく、平民や孤児でも平等に教育が受けられる
遠方の祖国へ運ばれてくる子が多いそうなのです。
悲しい事情ですが、
せめて幸せに暮らし、教養や知識を身に着け、
立派な大人になってほしいと願います。
まぁ、ともかくは挨拶です。
「ようこそお越しくださいました、兄上」
「あぁ、元気そうでなによりだ、イザナ」
ほぇ・・・?兄上・・・?
ハッとしてディルを見上げると、
次に私たちの紹介に移りました。
「彼女は婚約者のメイリィだ」
「め、メイリィと申します。よろしくお願いいたします」
ツッコミたいところはたくさんありますが、
ここは無難に挨拶です。
「お聞きしております、メイリィ姫。
どうぞよろしくお願いいたします」
「こ、こちらこそ・・・です!」
「シンシア姫、アナスタシア姫、それからイルゼも、
お待ちしておりました。早速、女王陛下の御前へご案内いたします」
おや・・・ルゼくんを呼び捨て・・・ですね?
もしかして、ルゼくんとも・・・ご兄弟・・・?
え・・・?しかし、どうしてエルフ族の王国に・・・?
お婿さんに入った・・・とかでしょうか?
ひとまず、事情は後でディルに聞いてみるとして、
まずは女王陛下への謁見ですね。
女王陛下は、流れるようなストレートロングの金髪に、
優し気な碧眼を持つスレンダーボディのエルフ族の女性です。
何となく、雰囲気がユリアナさまに似ているなぁ・・・と、思います。
「ようこそお越しくださいました、ディラン皇太子殿下、
メイリィ姫、アナスタシア姫、イルゼ殿下、
そして・・・お久しぶりですね、シンシア」
私たちは順番に挨拶していき、
実の娘であるシアは、割とあっさりひとこと延べ、
一礼だけで済ませておりました。
久々の母子の再会ですのに・・・
とてもあっさりしています。
謁見の場では、こういう習わしなのかもしれませんね。
後でゆっくり、お母君とお話しできる時間があればいいのですが。
謁見を終えると、再びイザナさまが私たちを案内してくださいます。
「では、兄上たちはどうぞ、私の宮へお越しください」
と、イザナさま。
どうやら私たちはイザナさまの宮で過ごすことになるようです。
「あぁ・・・助かる。あそこは教育されているからな」
教育・・・?どういうことでしょうか・・・?
いまいち事情が呑み込めません。
しかし、次の瞬間、明らかに黄色い声が響きます。
「ディランさまぁっ!ようこそお越しくださいました!
覚えていらっしゃいますか?
このエストランディスの王女・トリスでございます!」
女王陛下譲りの金髪碧眼と美貌を併せ持った
エルフ族の少女が取り巻きと共にこちらに駆け寄ってきたとです。
確かこの方・・・先日の夜会でディルに言い寄ろうとして、
アナに怒られていましたね・・・
本当に王女だったようです・・・
ちょっとはしたない・・・
お転婆姫の私が言うのだから、間違いないです。
「ご滞在中は、そこのハーフエルフの宮で過ごされると聞きました!」
ハーフエルフとは、エルフ族との混血の方を指す、
“蔑称”であるはずです。
一国の姫が使う言葉とは思えないのですが、
エルフ族の本家・エストランディスでは普通なのでしょうか?
「ディランさまほど高貴なお方が、
そのような場所で過ごされるなんて、
とても看過できません!
そこのハーフエルフが調子に乗っているのでしょうが、
私の宮で、最大限のおもてなしをさせていただきます。
さぁ、ディランさま、私と共に参りましょう!」
何だか、私たち婚約者は軽くはぶられていませんかね・・・?
気のせいでしょうかね・・・?
トリスさまの姉であるシアもいるでしょうに・・・
なんなのでしょうか、この方。
「・・・ハーフエルフ・・・か?」
「はいっ!!」
トリスさまは、目を輝かせておいでです。
「つまり、貴殿は、私と同じ、竜帝国の皇族の血を半分受け継ぐ、
私の異母弟が、私や婚約者たちをもてなすのが、
相応しくないと言うのか・・・?」
「え・・・」
トリスさまがきょとんとしていらっしゃいます。
それにしても・・・やはり・・・異母弟君で
いらっしゃるようです・・・
しかも、トリスさまがハーフエルフと揶揄した御仁は、
宗主国の皇族の血を引いていらっしゃる・・・
それをディスるのは、さすがに勇気のいる行為ですね。
その度胸だけは、賞賛に値します。
アルダさんの前でディルを誘惑しようとするお姫さまです。
随分と肝の据わっていらっしゃる・・・
「それと、私の名を呼ぶ許可を与えた覚えはない。
不愉快だ。さがってくれ」
「え・・・そんなぁっ!」
これでもトリスさまは食い下がります。
イザナさまがトリスさまを見る目も、
冷ややかになってきましたね・・・
涙目になってうるうるし出すトリスさま。
そこに、新たな加勢がやってきたとです。
「ようこそエルフの王国・エストランディスへ!皇太子殿下!」
長髪の金髪碧眼のエルフ族の青年・・・
こないだの夜会で、シアを脅えさせた憎い敵・・・
「まぁ、トルーお兄さま!」
どうやら、トルーさまと言うようです。
そしてちゃちゃっと、トリスさまのよこに並ばれ、
ふふん、と胸を張られました。
何だかイザナさまとルゼくんとディルの顔が・・・
めっちゃげんなりしていて、やはりご兄弟だなぁと・・・
こんな状況にも関わらず、思ってしまいました。




