ピンク髪
私の1番上の兄王子であるシンシャ兄さまは、
たまに面白いことを言い出します。
それは時に味方の士気をあげたり、
国中を巻き込んだ衝撃ドキュメントになったりします。
あぁ・・・あくまでも、産気づいた妊婦さんを、
如何に早く産婦人科医の元へ移送するか、とか・・・
他には奥手な貴公子がいかにして、
意中のご令嬢と結ばれるかを取り測ったり、とか・・・
王太子の公務で多忙でしょうに、
そんな心温まるエピソードが国中に広まり、
劇になったり、歌になったり、新聞の一面を飾ったりとか、そんな感じです。
ある意味での天才肌ですね。
そんな中でも、シンシャ兄さまが警戒しているのが、
“ピンク髪”です。
生まれ持った髪の色など、私は心底どうでもいいと思っておりますが、
シンシャ兄さま語りました。
ピンク髪にも様々な方がおります。
王城にもピンク髪の侍女はおりますが、
彼女は何にも害はないそうです。
しかしある時、エイダ義姉さまにお尻ぺんぺんしてもらおうと
浮足立っていたシンシャ兄さまの元に、
横恋慕するピンク髪が現れ、
強引にシンシャ兄さまに襲い掛かったそうです。
その時は運よく、近衛騎士隊たちが取り押さえ、
事なきを得たそうなのです。
シンシャ兄さま曰く、イケメンにわけのわからないことを言い出しながら
迫ってくるピンク髪のことを言うそうです。
因みに、近衛騎士隊にもピンク髪の方がいましたが、
彼も大丈夫だそうです。
けれど、彼も以前、ピンク髪の襲撃を受けたそうで、
シンシャ兄さまの良き理解者となっているようです。
ピンク髪・・・
私も用心したほうがいいのでしょうか?
父さまとシンシャ兄さまについて、
竜帝国に行った時のことです。
そこにはピンク髪の竜族の女の子がおりました。
「血みたいな色の髪、気持ち悪いのよ!
私の前に、出てこないでちょうだい!
レオさまの隣には、私が座るから!
とっとと消えなさいよ!」
そう言って、ピンク髪が、
赤い髪の竜族の女の子を蹴っていました。
何ということだ・・・
あのピンク髪は、きっとシンシャ兄さまが言っていた、
恐怖のピンク髪なのです!
それに、あの赤い髪の子は、
尊敬するエイダ義姉さまと同じ髪の色なのです。
私はその子の元へ走り、手を取ると、
ピンク髪の前からダッシュで一緒に逃げました。
ピンク髪が追いかけてきます。
そして、私たちの前に、恐い顔をしたオジサンが立っていました。
「卑しい人族の小娘が・・・!アナスタシア!
貴様、またオフィーリアに嫌がらせをしたそうじゃないか!
卑しい人族とつるんで、汚らわしい!」
何を言うのでしょう、このヒゲのオジサン・・・
いえ、オッサンは!!
「そうなの・・・お父さま・・・お姉さまが、
レオさまが一緒に過ごしたいと仰った私のことを、
蹴って虐めてくるのです!」
このピンク髪は何を言っているのでしょう?
蹴っていたのは、ピンク髪の方なのです。
「貴様ぁっ!」
こ・・・恐い・・・っ!
そう、思った時でした。
「何をしている、ドラグニール公爵」
男の子の声が聞こえました。
「ひ・・・っ!で、殿下・・・」
「城の茶会に招待したのは、アナスタシアだ。
レオにもアナスタシアのエスコートをさせる。
その女は呼んでいないし、
皇族が呼んだ客に危害を加えようとするとは・・・
今すぐ、城から出ていくがいい」
「そんな・・・私は・・・!
それに、レオハルト殿下だって・・・」
「くどい・・・それとも、
お前はこの私の命に逆らうのか?
ならば、直接竜帝陛下に奏上すればいい。
客人に暴力を振るおうとしたうえ、
招待もされていない小娘を城に侵入させたうえで、
まだこの城にいすわりたいと」
「い・・・いえ・・・そんな・・・」
「では、去れ」
「ひぃ・・・っ!オフィーリア!行くぞ!」
「ちょ・・・お父さま!?待ってよ!!」
ピンク髪は、オッサンに手を引かれて、
その場から去ってしまいました。
気が付いたら、さっきの男の子はもういませんでした。
赤い髪の女の子は私に一礼すると、
恥ずかしそうにその場を後にされました。
その後、迎えに来たシンシャ兄さまに、
ピンク髪の話をしたら、案の定、
そのピンク髪は要注意ピンク髪だとのことです。
私も、気を付けねばなりませんね。
そんな、幼い頃の体験談でした。
―――
「・・・そう言えば・・・
やはりあの子は、アナだったのですね・・・そして・・・」
そこへ颯爽と助けに来てくれたのは・・・
忘れるはずもありません。
遠目に見ても、氷のような美しさの宗主国の皇太子殿下。
まさか、そんな方に私が嫁ぐことになるなんて、
あの頃は思いもしませんでした。
けど、きっとディルは、
そのことなんて覚えていないでしょうけど・・・
しかし・・・どうして当時から皇太子殿下であったディルが
あの場にいたのか・・・
それだけは、謎ですね。




