雪の妖精と氷の竜 その2
昔懐かしい夢を見た気がします。
私・メイリィの母は、
金髪にエメラルドグリーンの瞳を持つ美女である。
金髪碧眼の多いエルフ族からは、
嫁にどうかと言われるくらいの美女なのだが、
その誘いを突っぱねて、お父さまと結婚されたそうだ。
本当は、今のエルフの王国の女王さまの先代国王から
散々“愛妾”にと打診があり、
酷い時には無理矢理エルフの王国に連れ去られそうになったらしい。
本当に、酷い話ですよね。
出すけど、そんなとき、竜帝陛下が我が国にお越しになり、
当時婚約者同士だった父と母の婚姻をあっさり認めてくださいました。
当時王太子であった父は、エルフの王国の当時の王さまから
母を愛妾にと無理矢理迫られ、無下に断れば、
余計な国同士の諍いを招く恐れがありました。
光魔法使いと言えば、エルフ族と言われていましたし、
光魔法使いが必要になった際に、
我が国は援助を受けられなくなってしまいます。
ですが、竜帝陛下・・・は、当時から竜帝陛下だったわけですが、
宗主国である竜帝陛下が認めてくださったことで、
我が国と同じ属国であるエルフの王国が
いちゃもんを付ける隙が無くなってしまったのです。
そして難なく婚姻を結ぶことができ、
私たち兄姉妹が産まれたわけですね。
・・・そう言えば・・・
昔、エルフの女の子に因縁をつけられたことがありましたね・・・
“老婆髪”とか、“白髪頭”・・・とか。
美しいイメージのエルフのお嬢さんのイメージに
そぐわない感じでした。
泣きじゃくる私の前に、
けど、そんな時に、エイダ義姉さまのような
燃えるような赤い髪が見えました。
「このような場で、他人の容姿を貶すだなんて、
淑女として恥ずかしくありませんの?
それともエルフの王国では、
そのような習慣がおありなのかしら。
あなたは竜帝国の属国の王族なのでしょう?
宗主国である竜帝国の恥になる言動は、
おやめくださいませ」
彼女がそう告げると、エルフのお嬢さんは、
バツが悪そうにその場を後にしました。
そして、彼女が大きな声を出したおかげか、
異変に気付いた父や兄姉たちが駆けつけてくれて、
私は家族に保護される形で、その場を後にしました。
そう言えば・・・その頃から私は、
エルフ族の方に会うのが恐くなったのでした。
それでも、エルフ族のお姫さまのシアは、
私と同じような・・・でも、とてもキレイな銀色の髪と、
エイダ姉さまのようなステキな赤い瞳を持つ天使のような子で・・・
いつの間にかそんな苦手意識も、どこかにすっ飛んでしまいましたね。
そう言えば・・・あの時、酷いことを言われて泣き疲れた後、
私は用意してもらった城の休憩室で休んでいたのですが・・・
誰かがそっと、髪を撫でてくれたのですよね・・・
“メイリィの髪は、とてもキレイな雪の色の髪だよ”
そう、誰かが囁いてくれたのです。
朧気に目を開けると、少しだけ、後姿が見えました。
真っ黒ではない、不思議な、鉄のような色の竜のしっぽの鱗が、
証明に反射してキラキラと輝いていて、
とてもキレイだなぁ・・・そう、思ったのを覚えています。
はて・・・そう言えば・・・
ディルのしっぽの鱗も、髪の色と同じく、
鉄のような色をしていますね・・・
キラキラして、光沢が乗っているようです。
ベッドに横になっているディルの腕から、
器用に抜け出してみます。
これこそが、縄抜けならぬ・・・腕抜けの術!!
ベッドの毛布を少しめくって・・・あ、ディルのしっぽです。
やっぱり、キラキラしていてキレイですね。
少しだけ・・・触れてもいいのでしょうか?
勝手に触るのは、少し失礼でしょうか・・・?
と、呑気にしっぽを見つめていたら、
急にディルのしっぽが動き、
体に巻き着いてきたとです――――っ!!!
これは・・・これは竜族の習性か何かデスカ―――ッ!!?
「んん・・・メイリィ・・・?
嬉しいな・・・朝から俺のしっぽに抱き着かれたかった?」
と、ディルの声がしたかと思えば、
頬杖をついて、ディルのしっぽに巻き着かれている
私を、ニヤニヤしながら見ていたとです。
き・・・鬼畜・・・?
「朝から何をしていたの?」
「いえ・・・ちょっと、触れてみたいなぁ・・・なんて・・・
だ、ダメですよね!大事な鱗ですもの!」
「メイリィならいくらでも構わない。
何なら腕でも顔でも、角でも」
あぁ・・・角は以前、既に触れてしまいましたが。
「えと・・・ちょっとキレイだなぁ・・・と、
そう思っただけなので・・・あの、放していただけませんか?」
「えぇ・・・もうちょっとメイリィを堪能したい」
と言って、何故かディルがしっぽをうねらせながら
私の反応を愉しんでいます―――っ!!!
ヒイイイィィィッッ!!!誰か助けて―――っ!!!
と、今朝こんなことがあったと、
同じ竜族のアナに話してみたところ、
すごく赤面しておりました。
竜族的には、恥ずかしい・・・ことなのでしょうか?
でも、アナが試しに自分のしっぽを触ってみるかと
聞いてくれたので、お言葉に甘えてみたとです。
アナのしっぽは赤い鱗です。
ひとつひとつがルビーのように輝いていて、
触り心地もつるつるすべすべでした。
そんなこんなでアナのしっぽを堪能していたら、
何故かディルがものすごく不満そうに見てきました。
アナおススメの、鱗磨きを掲げたところ、
とても笑顔のディルにしっぽの鱗磨きをさせられたとです。
まぁ、機嫌が直って何よりなのですが・・・
「俺以外の竜の鱗に、気軽に触れないで・・・
思わずその鱗を剥ぎ取りたくなってしまう」
と、恐ろしい告白を耳元でされたとです。
「あ・・・アナのしっぽもダメなのですか・・・?」
ふるふる震えながら聞いたところ、
アナだけならばと、特別にお許しをいただきましたが、
代わりに1日1回、ディルのしっぽの鱗磨きをすることを
約束されてしまいました・・・。
いや、別にいいのですが・・・。
これも竜族の夫婦では日課なのでしょうかね。
因みにアナのしっぽのお手入れは、
メイドのキャロルの担当だそうです。




