捨てられ令嬢
ウチの一番上のシンシャ兄さまの妻である、
エイダ義姉さまのような赤い髪を持つ、
竜姫さまの姿を、すたたたた―――、
すたたたた―――、とひとびとの間をすり抜けながら探すと、
不意にすぐ傍に、燃えるような炎の色の髪を見つけることができました。
竜角が生えていますし、エイダ義姉さまではなく、
竜姫さまで間違いなさそうです。
「全く、場違いにもほどがあるわね、お姉さま。捨てられ令嬢のくせに」
ん・・・?お姉さま?それに、“捨てられ令嬢”とは・・・
竜姫さまの目の前には、桃色のゆるふわ髪に桃色の瞳をした、
竜族のご令嬢がいらっしゃいました。
どこかで見たことがあるような・・・
あ、ついでに、角は卵色をしています。
・・・そう言えば、以前シンシャ兄さまが、
“ピンク髪には気を付けろ!”と仰っていました。
彼女はその忠告に一致する特徴を持っています。
念のため用心しなくては。
「その毒々しい赤い髪、
苛烈なお姉さまの性格を表したかのようなです。
そして鋭利な刃物のような金色の瞳。
相変わらず、醜悪そのものですわね、お姉さま。
レオさまに捨てられて、
今度はレオさまの兄君であるディランさまに卑しくもすりよって、
まんまと婚約者の座についた気分はどうかしら?」
「・・・」
勝ち誇るように叫ぶピンク髪の言葉に、
竜姫さまは、先ほどまでの苛烈さが嘘のように俯かれます。
そして、そのピンク髪に寄り添うのは、
何だか見覚えのあるような金色の髪に碧眼の
美しい竜族の青年でした。
角はグレー、顔立ちは誰かに似ています。
はて・・・誰でしたっけ・・・?
「それに、聞いているのよ?
お姉さまったら、ディランさまに全く相手にされていないって!
はっ、無様ね。お姉さま」
「全くだ。君のような醜悪な女が、
兄上に気に入られるはずがないだろう?
その性格、少しは治ったと思えば、
兄上の前でも全く変わらなかった!
何だ?あのみっともない醜態は!
君と婚約破棄して、オフィーリアを選んでよかった」
「まぁ、レオさまったら」
どうやら、彼が“レオさま”とやららしい。
そして、彼は以前に竜姫さまと婚約していたのか。
しかも、婚約破棄した上に、
竜姫さまの妹君に乗り換えた・・・と。
これはあれでしょうか。
やはりシンシャ兄さまの忠告と関係があるのでしょうか?
ピンク髪は・・・底知れない。
「君に比べて、オフィーリアは優しく、華やかで、
そしてかわいらしい・・・まさに理想の女性だ。
それに比べ、君は相変わらず場の空気も読まず醜態をさらすばかり。
本当に、いちいち突っかかってくるその粗暴さにも、
オフィーリアへの実家での仕打ちも目に余るものがあった。
本当なら君は、断罪されるべきであったのに、
未練がましく、今度は兄上に乗り換えるなんて、ほとほと呆れるね」
何だか、勝手なことばかり言っているようです。
そもそも、竜姫さまはあの時・・・
竜姫さまをちらっと見やると、
あれ・・・先ほどまでの苛烈さが、
微塵もありませんでした。
むしろ、先ほどのシアのように俯き、
ドレスのスカートをつまんで、
ふるふると震えていらっしゃいます。
顔色も悪いようですし・・・
「何か言ったらどうなんだ!皇族である私に不敬だぞ!」
レオさまとやらが、竜姫さまに迫ります。
あれ・・・さっき皇族って・・・
それに、先ほどからレオさまとやらが言っている
“兄上”・・・とは、紛れもなくディルのことで・・・
ってことは、この方は第3皇子殿下、もしくは
第4皇子殿下・・・でしょうか・・・?
相手は宗主国の皇族です。
でも・・・それでも何故か納得できません・・・
よく考える前に、私の体は動いていました。
「勝手なことを、言わないでいただけますか!」
私は、竜姫さまを後ろに庇うように腕を広げ、
レオさまとやらとピンク髪の前に立ちはだかっておりました。
あぁ・・・私、何やってんだろう。
「先ほどの件、明らかに礼を欠いていたのは、
エルフ族の御仁とご令嬢の方です!
いたずらに皇太子殿下に手を出そうとし、
シンシアさまに暴言を吐かれたのを、
竜姫さまは止めてくださったのです!
そんなことも分からずに竜姫さまを責めるとは、なにさまですか!」
あぁ・・・言ってしまった。
なにさまっつか、皇子殿下さまと、ピンク髪さまなんですけどねぇ・・・
「んな・・・っ!何だお前は!人族のくせに!
私は竜族の皇子だぞ!」
「レオさま!この方・・・先ほどディランさまの隣に座っていた・・・!」
ピンク髪が私を指さします。
「あぁ・・・どんな醜悪な手を使って、
兄上の妃の座におさまったのかと思っていたが・・・
その醜悪な女を庇うなんて、やはり貴様も醜悪な女だな!」
「・・・っ!私をどう言おうと勝手ですが、
竜姫さまはお美しいです!燃えるような炎の色の髪も、
ディルと同じ金色の瞳も、とてもキレイです!
金色の角だって、ディルが魔法を使う時と同じで、
とても美しい金色じゃないですか!
その、どこが醜悪なんですか!あなた方の目は、節穴ですか!」
「んな・・・っ!?
ディランさまのことを、呼び捨てで・・・愛称で・・・」
何故かピンク髪がすっごく悔しがっています。
「私に向かって、何と言うことを!
今すぐこの人族の女を捕らえろ!」
レオさまとやらが叫ぶと、
すかさず近衛騎士とみられる方々が集まってきました。
―――まずい・・・
「お待ちください!」
私の前を遮るように出てきたのは、
金色の髪の青年と、赤い髪の女性・・・
つまりは・・・
「シンシャ兄さま、エイダ義姉さま!」
「何だ、貴様らは!」
レオさまとやらが叫びます。
「お待ちくださいませ、と言ったのです。聞こえませんでしたの?
目だけではなく、耳も節穴でして?」
うおぉ・・・エイダ義姉さま・・・強ぇ。
「んな・・・っ!貴様ぁっ!
もう許さんぞ!人族如きが・・・
しかも、アナスタシアと同じ醜悪な赤髪なだけで不愉快だ!」
アナスタシア・・・竜姫さまのお名前でしょうか・・・
てか、エイダ義姉さまの髪まで愚弄するなんて・・・
妹としても、ここは許せません。
「ですから、大人しくお待ちくださいませ。今、来られますので」
「は?来る?」
レオさまとやらはきょとんとしていますが、
いち早く異変に気が付いた近衛騎士たちが、
膝をついて騎士の礼を捧げています。
「これは一体、何の余興だ」
夜会会場を一瞬にして凍り付かせる冷たい声が響き渡りました。




