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炎の竜姫



燃えるような炎のように赤い髪を纏った竜姫さまは、

まさにディルに触れようとしているエルフのご令嬢の手を、

扇子で防いでおられました。


金色のつり目を鋭く光らせながら、

エルフのご令嬢を睨んでおられます。


「それとも、そのいやしい指ごと、

切り落とされたいのかしら」


「な・・・何を・・・っ」

苛烈な発言をする竜姫さまに、

エルフのご令嬢はビクッと震え、

すかさずエルフの御仁の影に隠れます。


その瞬間、嫌にわざとらしく、刃を鞘に納める音がしました。

私の後ろ・・・いえ、ディルの背後には、ひとの気配がしました。

先程までは、何も感じませんでしたのに・・・


もしかしたら、竜姫さまの言葉は、

単なる脅しではない・・・?


何だか、振り返るのが恐いこの頃です。


「後ろが詰まっておりますの。しがない属国の者の分際で、

長時間殿下を拘束するような真似は、おやめくださいませ」

そう竜姫さまが告げると、

エルフのご令嬢は、顔をみにくしかめさせ、

真っ赤にしながら、エルフの御仁に連れていかれてしまいました。

かくいう竜姫さまは、私とシアには目もくれず、

そそくさとディルとルゼくんに一礼すると、

そのまま去って行かれてしまいました。


ひょっとして・・・助けてくださった・・・のでしょうか?


嫌に攻撃的だったり、棘があったりと、

何だか掴めないお方ですが、

何となく、悪い方ではないような気がするのです。


はて、何故でしたっけ。


それに、先ほどの・・・

昔、どこかで同じようなことがありませんでしたっけ?


それに、竜姫さまは、パートナー連れではありません。

ディルがエスコートしない以上、

ここは竜姫さまの祖国である以上、

お父君や、男性のご兄弟のエスコートが

あってもいいような気がしますが・・・


竜姫さまは、おひとりでこの場にいらして、

間接的ではありますが、颯爽とシアを助けてくれたのではないでしょうか?


「メイリィ姉上。俺は、シア姉上を休ませてきます」

ディルが次の挨拶を受けている隙に、

颯爽とルゼくんがシアを支えて立ち上がりました。


「わかったわ。ディルには落ち着いたら伝えるから」


「りょーかい」

そう言うと、シアは申し訳なさそうに私を見ましたが、

気にしないで、と手を振って、

ルゼくんとその場を退出しました。


ひとまず挨拶が落ち着くと、

ようやくディルと話すことができました。

帝国の夜会がこんなにもハードだなんて、

聞いていませんよ~。


「シアの件、すまない」

ディルからそんな言葉が出てくるとは。

ちゃんと心配していたのですね。

偉い、偉い。


「いえ、ディルこそ」

そう言えば、先ほどディルの背後にいた御仁は・・・


「殿下」

その時、後ろから声がかかりました。


「シンシア姫は、イルゼ殿下と共に、

医務室で暫くお休みになられるそうです」


「そうか、わかった」

ディルは後ろを向き、そう答えます。

後ろにいたのは・・・思ったよりも、恐い方ではありませんでした。

金色の竜族の角に、ダークブラウンの髪、

瞳はクリアブルーのような、不思議な透明感のある瞳です。

爽やか系の青年で、顔立ちは可でも不可でもなく平凡・・・と言った感じ。

こう言っては失礼ですが、私も平凡な顔をしているので、

何となく親近感が沸いてしまいます。


帯剣していらっしゃるので、恐らく先ほどの“音”も、

彼が立てた音でしょう。


「あぁ、そうだ・・・メイリィ」


「はい」


「紹介してなかった。俺の補佐兼護衛のアルダだ」

唐突過ぎます、その他己紹介。


「よ、よろしくお願いします」


「はい、メイリィ姫」

とても礼儀正しい方のようです。

何だか和みますし。


「メイリィ」

てなことを思っていると、再びディルに呼ばれてしまいました。


「暫くメイリィの顔が見られなかったから、メイリィ切れだ」

なんつーしょうもない状態異常を発症しているんですか。

シンシャ兄さまと同じレベルなんですけど。


「メイリィ、メイリィは俺だけを見つめてくれ」


「え・・・えぇと・・・夜会では、無理なのでは?」

にこっ


「やっぱり、今夜は父上の反対を押し切って、

欠席すべきだったか・・・」


「いえ・・・皇太子殿下なのですから、

社交の場も大切にせねばならないのでは?」


「ディルと呼んで、メイリィ」

ディルが私の両頬を両手で包んで、

その美しい顔面を近づけてきます。


「あぁ・・・はぅ・・・ディル」

ぐ・・・ぐあぁ・・・イケメンの顔面破壊力、パないっす。


「うん、いい」

満足したのか、ディルはうっすらと笑みを浮かべ、

私の唇をなぞるように楽しみます。


「あ・・・あの・・・ディル」


「なぁに?」


「えっと、竜姫さまと、獣人族の姫さまのお席は、

何故こちらにないのですか?」

ここにあるのは、私とシアの席だけです。

妃さま方も参加されているかはわかりませんが、

少なくとも、竜姫さまは参加されています。


「どうして?ふたりとも、好きに夜会を楽しんでいるのだから、

放っておけばいい。それに、ミフェイなら、

実家から連れてきた弟と参加している」

ディルが示した場所には、獣人族の姫さま・・・

ミフェイさまと言うのですね。

ミフェイさまとご一緒に、よく似たケモ耳しっぽの

男性の方と一緒です。彼が弟さんなのでしょう。


ミフェイさまは特に皇太子の婚約者と言う席は望まず、

自由に過ごされている・・・と言う感じでした。


けれど竜姫さまは・・・?

ちょっとだけ、寂しげだった気がするのです。


「お席くらいは用意するべきでは?

竜姫さまはおひとりで参加されているようです。

ご家族の方もご一緒ではないようすですし・・・」


「あの家はそう言う家だ」

そう言う家とは・・・どう言う家なのでしょう。

全く以ってわかりません。


「メイリィ・・・俺と一緒なのに、何故、あれの話ばかりする」

“あれ”って、竜姫さまのことでしょうか。

ミフェイさまのことは、お名前で呼ぶのに、

竜姫さまにだけ、冷たくありません?


てか、また嫉妬ですか?


「それとも、また俺に足りないものがあるのか?」


「・・・そう、ですね・・・まず、私が竜姫さまを連れてきますので、

ディルは竜姫さまの席を用意してください」


「いや、メイリィをひとりでは・・・」


「心配ありません。私は目立たないので、

会場のひとの間を縫って、動ける特殊技能があるのです」

別に特殊技能でもなんでもないのですが、

ちょっとカッコつけて言ってみました。


「お席は、ディルが作ってください」


「俺が・・・」


「婚約者なのですから。竜姫さまは私が連れてきます。では」

そう言って、私の手に重なったディルの手を振りほどき、

私は夜会会場へと繰り出したのです。


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