竜帝国での夜会
夜会と言うものは、何故みんな、
そんなにも浮足立つのでしょう。
正直言って、私は王女なのに、
そういう場が苦手でした。
原因と言ってあげられるのは、
十中八九私のこの老人のようだと揶揄されて来た白い髪。
家族はもちろん、
そんな誹謗中傷から私を守ってくれたし、
親しい友人や、平民のひとたちは、
孤児院訪問や慈善活動に勤しむ私を、
“雪の妖精”と呼んで親しんでくれました。
しかし、美男美女の兄姉たちを持つ私に、
羨望や嫉妬で、心無い言葉を影で言うものはいるのです。
さすがに、面と向かって言ってきたひとたちは、
今まで数えるほどしかいないですね。
その度に、兄姉たちが“もうそいつには一生会わないから大丈夫”
と言って慰めてくれました。
あれ・・・そう言えば、再び会ったことはなかったかも。
私が参加する夜会なんて、王室主催のものだけだったから、
呼ばないようにしてくれたのかも・・・
でも、王室主催の夜会に呼ばれないって・・・
なんか鬼畜の権化のような仕返しに思えなくも・・・ないのですが。
私が夜会に参加しなければいいのでは?
と言う意見も言ってみたのですが、
さすがに王女ですし、宰相である伯父さまに却下されたとです。
そんなごたごたがあったからでしょうか。
私は夜会というものに・・・お茶会も含めて
苦手意識を持つようになっておりました。
むしろ、私、参加したくない。出席したくない。
けど・・・シアやルゼくんもいるのだから、
がんばらねば、と思います。
ドレスもシアとお揃いだから、
何だかそれをお披露目するのが楽しみで・・・
少し苦手意識も薄らぎました。
私は、王室専用席で、ディルの隣に座らされております。
借りてきたねこのような気分です。
ルゼくんとシアはその隣ですね。
一番真ん中には、竜帝陛下がいらっしゃり、
他のおふたりの王子のものと思われる席が設けられているのですが、
今はいらっしゃらないようです。
ディルは心配性なのか、
何故か他の王族の方々をあまり紹介してくれないのです。
まだルゼくんと竜帝陛下しか知らないですし、
他の弟殿下や妃の方々は紹介していただいていないのです。
ディルとルゼくんのお母君は、もう妃の地位を辞し、
ひとりは出家、もうひとかたは・・・結末は聞いておりませんが、
もうこの帝国城にはいないようですね。
4人のご兄弟は、それぞれお母君が違うはずなので、
あとおふたりいらっしゃるはずです。
「メイリィ」
「・・・は、はい!」
そんなことを考えていたら、ディルに呼ばれてしまいました。
「メイリィ、何を考えていたの?」
あの・・・口元に薄い笑みを浮かべているのに、
全く以って目が笑っていないのは、何故でしょうか?
「俺の隣にいるのに、
何故、他のものたちのことを考えるのだろうね」
やっぱりこのパターンかいいいぃぃっ!
本当に・・・このひとは、
私の心の中が読めるのではないでしょうか?
「メイリィが俺のことだけを考えているかどうかくらい、容易にわかる」
え・・・?どんな超常的能力っすか、それ。
「メイリィ・・・せっかくふたりっきりなのだから、
俺を見て、俺のことを考えて」
そう言いながら、私の腰に腕を回してくるとです。
いや、全く以ってふたりっきりではない!!
ルゼくんやシアも、竜帝陛下だっているのです。
更に、ホールには大勢のひとびとがいるのですが・・・
ディルの中では既に、
私とふたりっきりの世界に入っているようです。
しかも、参加者が竜帝陛下に挨拶をし始めましたよ?
そしてその方々は、次に皇太子殿下のディルの前に来るのですが・・・
相変わらず私の腰に手を添え、私の顔を見つめながら、
甘い声で囁き続けます。
あの―――。ご挨拶にきた方が困っているのですが。
私がちらり、と見やると、
なんか睨まれたとです。
何故・・・。
人族の小娘だからでしょうかね?
相手は宗主国の竜族の貴族の方なのでしょう。
たかだか属国の王女がここにいるのが
気にくわない・・・のかもしれませんね。
と、私が気まずそうに視線を落とすと、
ディルさまが私から視線を放し、正面を向かれました。
やれやれ、やっと挨拶に応じてくださるようです。
「・・・皇太子殿下におかれましてはご機嫌麗しゅう・・・」
などと言うお世辞文句が繰り広げられています。
王女と言う立場では、
そのようなお世辞文句ものらりくらりと
躱さねばなりません。
ただ、今挨拶しているのはディルへ、だけなので、
私は参考までに聞いている次第でして。
「そう言えば皇太子殿下。
我が家にも美しく優秀な娘がおりまして、
皇太子殿下のお眼鏡にかなえばと思いまして」
あぁ・・・妃候補の斡旋もするのですね。
みれば、竜族の御仁の隣には、
見目麗しい竜族のご令嬢がいらっしゃいます。
まぁ・・・竜姫さまの方が美人だとは思いますがね。
私が視線を向けても、全く眼中になく、
惚れ惚れとした目をディルに向けています。
・・・ん~・・・何でしょう、このむずむずする感じは。
まさか、花瓶に活けられた花による・・・花粉症・・・
・・・んなわけあるかです。
「属国の人族やエルフ族の賤民よりも、
高位の竜族である我が娘の方が
皇太子殿下によっぽど相応しいかと!」
まぁ・・・属国の王族と言えど、
宗主国の国民からすれば、賤民なのでしょうかね。
そこは属国の姫とはいえ、所詮は属国の姫。
宗主国のお貴族さまの不興を買いたくはないですからね。
別にいいのですよ。好きに言ってくださって。
もう、そう言うのには慣れましたから。
私は後でシアと一緒にもっふぃたちに癒されるので、
無視です、こういうのは無視が一番なのです。
「つまり、お前は、この私が選んだ婚約者が、
私には相応しくないと言うのか?随分と偉くなったものだな」
とても低いディルの声が響きました。
あれ・・・なんだか隣から妙な魔力の気配が・・・?
うおぉっ、ディル、めっちゃコワモテです。
先ほどは口元だけは薄く微笑んでいましたが、
今は口元まで怒気をはらんでいるかのようなコワモテです。
「えぇと・・・その・・・私は単に・・・
そ、そうだ!あの赤毛の捨てられ令嬢よりは、
私の娘の方が、あなたさまに相応しいと・・・!」
この状況でがんばりますね、竜族の貴族の御仁。
ご令嬢の方は完全に委縮しちゃっています。
それよりも、捨てられ令嬢・・・?
赤毛・・・と言うことは、
もしかして竜姫さまのことでしょうか?
ディルの婚約者である竜姫さまが、
何故そのように言われるのでしょう?
「くどい」
ぴしゃり、と放ったディルの言葉は、
尋常ならざる威圧が込められています。
「去れ、不愉快だ」
「ひ・・・ひぃ・・・っ!申し訳ございません!」
ようやく竜族の貴族の御仁は去って行かれました。
ふぅ~、やれやれ。
その後は、妙にビビった貴族の方々が、
脅えたようにディルにひとことふたこと挨拶し、
そそくさと去っていきます。
ディルに至っては、「あぁ」「そうか」しか言ってません。
完全にみなさまビビっておられます。
「メイリィ、メイリィ!」
ハッと、名前を呼ばれて顔を上げたその先にいたのは・・・
「シンシャ兄さま!エイダ義姉さま!」
属国からのお客さまも来られている今夜の夜会。
だからこそ、祖国から代表で、
王太子のシンシャ兄さまと
その妻・エイダ義姉さまが来られたのでしょう。
みれば同じ人族や、獣人族、エルフ族の方もいらっしゃいますね。
「お、お久しぶりです!」
「久しぶりだね。上の空だったようだけど、大丈夫かい?」
「体調が悪いのだったら、ちゃんとディラン殿下に言うのよ?」
と、何だか心配されてしまいました。
「えっと・・・大丈夫です・・・単に考え事をしていただけで」
「あらあら・・・」
エイダ義姉さまが美しい微笑を漏らされます。
シンシャ兄さまも美形なので、はたから見ると、
マジで美男美女夫婦です。
わぁ―――、羨ましいです。
「あ、あの、隣にいるのはシンシアさまです。
エルフの王国から来られていて・・・」
と、ここは親友として紹介せねば。
一度はウチの妹として連れ帰ろうと画策したのですし。
「あら・・・メイリィと並ぶと双子みたい」
「ウチの義妹になるかい?」
・・・って、シンシャ兄さま!?
つい先日まで私が計画していたことをんなあっさりと!!
「エルフの王国のことは聞き及んでいますわ。大変でしたわね」
と、エイダ義姉さま。
あぁ・・・それでエイダ義姉さまとシンシャ兄さまも・・・
「あ・・・いえ、メイリィさまには
大変よくしていただいておりますから」
と、シアは美しく微笑む。
ぶっちゃけ、美しい銀髪だけでしたら、
シンシャ兄さまの妹としてもなんら不思議ではありません。
・・・種族は違いますけどね。
「あら、皇太子殿下は?
メイリィも罪な子ね。さすがは私の義妹だわ」
「さすがはウチのメイリィ、モテモテでお兄さまは嬉しい!」
いや、ちょと、何言ってんですか、
このシスコン夫婦は。
シアが戸惑ってしまっています。
後ろが詰まっていると適当な理由で追い払い、
あ、そういやディルを忘れていた、と思い出し、
ディルを見やると、何故かものっそい威嚇していました。
あの、私の兄姉なのですが・・・
つか、このディルさまの前で、あのテンション。
さすがは父の血を引くシンシャ兄さまと、
その調教師のエイダ義姉さまです。恐れ入りました。
そして、次はエルフの御仁が来られたようです。
どうしてか、胸がざわついて、つい下を向いてしまいました。
「・・・この度は、エルフ族を代表してお詫びに・・・」
金髪碧眼の美しいエルフ族の御仁が、つらつらと述べています。
隣には、こりゃまた美しいエルフ族のお嬢さんがいらっしゃいますね。
婚約者さまでしょうか・・・?
ふと、私の腕に、ふるえる手がそっと触れました。
シアの手です。
どうしたのでしょう?
見ると、シアは顔面蒼白でした。
しかし、ディルは先ほどの御仁の
長ったらしい挨拶に付き合わされています。
先ほどのやり取りをご覧になっていないのでしょうか。
それとも、よほど勇気がおありと言うことでしょうか。
私がルゼくんに目を向けると、
ルゼくんも言いたいことを悟ったのか立ち上がり、
シアをエスコートしようと手を差し伸べます。
「シンシア!」
その時、ひときわ美しい伸びのある声が、
シアの名前を呼びました。
「やぁ、元気でやっているようで何よりだ」
「・・・っ」
先ほどの御仁が、シンシアに声を掛けた瞬間、
シアの顔から、完全に血の気が失せていました。
これはいけない・・・と思いつつ、ディルさまを見やると、
エルフ族の御仁のパートナーのご令嬢が、
ディルに猛アピールをしています。
何だかちょっとムカついてきました。
「姉を追い落として、皇太子殿下の婚約者の座に
おさまった気分はどうだ?」
と、再び先ほどの御仁の声が響きました。
んな・・・っ、シアにとって、双子の姉姫の話題は、
ぶっちゃけ言って、最悪です。
シアはその件で、酷く傷を負ったのです。
それなのに・・・
「あなた、いい加減になさったらどうかしら!」
その時、ひどく聞き覚えのある女性の声が響きました。
「しがない属国の王族の末席の分際で、
宗主国の皇太子殿下に迫るなど、恥を知りなさい!」
それは、エイダ義姉さまによく似た、
燃えるような炎のように赤い髪を靡かせる、竜姫さまでした・・・




