竜帝陛下
その日、私は久々に見る竜族の侍女たちに、
ドレスアップとヘアメイクをされ、
めっちゃ飾り立てられたとです。
・・・自分の準備もあるだろうに、
何故シアが混ざっていたのかは謎ですが。
私はシアと一緒に、ドレスアップ。
「もふぃ~」
「ふもっ♡」
「えへへ、似合ってる?」
「このドレスのデザイン、メイリィとお揃いなのです」
私たちのドレスアップに、
もっふぃのもふちゃんとふぃーくんも満足げな様子。
ふたりでふわもふと寄り添いながら、
ふっわもふな5本のしっぽを揺らしております。
・・・バリかわゆす。
そして、ふたりで先に準備を整えていた
ディルとルゼくんの前に立ちました。
因みに、私は落ち着いたグレーの
上品な竜族の伝統衣装をモチーフにしたドレス。
シアは薄い紫の竜族の伝統衣装をモチーフにしたドレス。
普段、胴着の下はパンツスタイルとスカートスタイルが選べるのですが、
ドレスなので、今日はスカートです。
宝飾品は、ディルの瞳と同じ、金色の飾りのついた、
私は瞳と同じ淡い紫、シアは瞳と同じ赤い宝石がついたネックレス。
また、シアの耳には、エルフの王国の伝統工芸でもある、
木製の軽い材質の耳飾りが踊っています。
「メイリィ・・・」
「う・・・うん・・・?」
変だったり・・・しないよね?
「・・・何故俺とではなく、シアとお揃いにした」
「え・・・」
そこ・・・?そこなのか・・・?
「その、女子と言うものは、
お友だち同士でおそろにするのが好きなので!」
って、前にユーリィ姉さまが言っていたのです。
私も姉さまたちとお揃いが着られるのは嬉しかったし。
「でも、普通さぁ、婚約者とお揃いにしない?」
と、ルゼくんのもっともらしい指摘ですね。
ぐはっ。
「それに、シア姉上は兄上と色が被ってるし」
確かに、ディルは紫の竜族の伝統的な礼装です。
あ、色合いはかすかに違うけど、確かに!
「それならお揃いでいいのでは?」
シアもディルの婚約者であることには変わらないのだから。
「メイリィとお揃いじゃない」
そこなのか。
「でも、さすがに3人お揃いでは・・・」
不釣り合いなのでは。
「メイリィとお揃いでなければ意味がない」
いや、そんなことは―――・・・
「あの、ディランさま。では、ディランさまの瞳と同じ色の、
この金色のヘアアクセサリーはいかがでしょう?」
と、シアがひょいっとディランことディルに差し出します。
「・・・そうだな。
互いの瞳の色を装いにいれるのもいいだろう」
あぁ・・・何か、そう言うのありましたね。
ユーリィ姉さまやアルシャ姉さまもやってましたよ。
互いの婚約者や伴侶の髪や瞳の色を取り入れるやつ。
つまり、ディルはそれがやりたかったのですね・・・
あれ・・・?てことはディル、
全身に私の瞳の色を・・・っ!?
てか、それならシアもじゃね?と
「シアは・・・いいの?」
ディルは私の色しか纏っていないのだが。
シアはディルの金色の瞳と同じ飾りがついた、
ネックレスを身につけてはいるもの。
「私は、メイリィとおそろのドレスを着られて、満足です♡」
え・・・?まぁ、私も嬉しいけど・・・ディルとは?
「今夜の夜会では、俺がメイリィをエスコートする」
「シアはどうするのですか」
両手に華・・・と言う可能性も考えたのだが。
「シアは代理で弟のルゼにエスコートを任せる。
護衛にもなるし、まさか聖女の隣に闇魔法使いがいるとは思うまい。
エルフの王国や、その立ち位置を狙う者への牽制にもなるだろう」
「シアはそれでいいの?」
「えぇ、もちろんです。
ルゼくんと一緒に、目一杯お2人の輝きを
この目に焼き付けます!」
「もっちろぉんっ!任せてねぇ!」
何を任せているのか、いまいちよく理解できないのですが。
てか、シアのその目的は・・・何かずれていないか?
私たちは今日、ディルが4人目の婚約者を迎えたお披露目を兼ねて、
竜帝陛下の主催する夜会に臨むことになりました。
まずは、夜会の前に竜帝陛下に目通り。
シアは謁見したことがあるそうだが、
何故か、私は未だに会ったことがないのです。
皇后陛下がわけあって出家している・・・と言う話は聞いているので、
ぶっちゃけ挨拶するのは竜帝陛下だけですね。
私たちは早速竜帝陛下に目通りすることになりました。
ディルに連れられてやって来たサロンには、
ルゼくんによく似た美青年がソファーに腰かけています。
銀色の竜族の角に、深い藍色の髪は、
後ろの髪が少し肩にかかっていて
鋭い瞳は金色で、髪や角の色はルゼくんに似ているが、
その端正で美しい顔の造りと、
その眼差しは、どことなくディルを髣髴とさせます。
天下の宗主国の竜帝陛下と聞くと、
私も最初は恐いおじさん・・・
みたいなイメージを持ったのですが、
以前公の場でお見掛けした時、
あちらが竜帝陛下だと父に紹介され、
すらりとしたたいそう美しいひとだったので、
子どもながらにとても驚いたのを覚えております。
「よく来たね。メイリィ姫、そしてシア姫。
ここは公の場ではないから、気にせずくつろいでくれ」
まぁ、天下の竜帝陛下に気にせず・・・
なぁんて言われても無理難題なのですが。
でも、ここはどうぞ好きにしゃべっていいよ・・・
くらいの意味なのです。
「お初にお目にかかります。
ツェイロン国が第3王女・メイリィと申します。
本来ならば、真っ先にご挨拶へ伺わなければならないところ、
大変失礼いたしました」
「いや、構わない。
それは愚息のせいでもある。君の責任ではないよ」
おや・・・それは一体どう言う・・・?
ちらりとディルを見上げると、
いつもの優しい笑みを返してくれるだけ。
「かわいい婚約者を男の目に晒したくないと、
ものすごいごねるのだよ。ウチの愚息は」
え・・・ええぇぇっ!?
その・・・いかんせんその・・・
嫉妬深いような、ヤンデレ臭を感じてはいたのですが・・・
じ・・・実の父親ですよね!?
と言う念を、ディルに送ります。
「でも、それも仕方がないかな?」
「えぇと・・・勉強不足で申し訳ないのですが、
参考までにその理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「あぁ・・・そうだね。ディルの婚約者候補を見繕うために、
夜会を開いてね・・・ふらりとホールでのんびりしていたら、
数名のご令嬢方が、私は愚息と思われたのかナンパされてしまった」
え・・・いや、何で!?
確かに、父子と言うよりは・・・
兄弟みたいだけど・・・
「あの・・・僭越ながら、発言してもよろしいでしょうか」
「構わない。気兼ねなく聞いてくれ。
そのうち私は義父となるのだからね」
と、にっこり微笑まれる。
わぁ、普段のディルの仏頂面を眺めていると、とても輝かしいです。
「そのご令嬢方は、陛下の顔をご存じなかったのでしょうか」
「あぁ、挨拶には来たけれど・・・
ディルと私は似ているだろう?少し薄暗いと、
髪の色ではあまり見分けがつかない」
確かに、言われてみればお2人とも濃色ね。
てか、そんな薄暗いところに行ってもいいのか?
天下の竜帝陛下が。
「私は、将来の愚息の嫁候補はどんなだろうと、
ちょっと興味本位でふらついていたのだけど」
ふらつかないでください・・・竜帝陛下なのに。
「ふふ、まさか皇帝である私にすり寄って来るとは、驚いた」
そりゃ、ナンパしたご令嬢方もきっと驚かれたことでしょう。
「愚息はその笑い話を危惧したのだろうね?」
本当に笑い話で済んだんだろうか。
竜帝陛下は笑顔だが、どこか底知れないなにかを感じます。
だが、そこに触れてはいけない・・・そんな気がします。
「ディルさま。しょうもない嫉妬しないでください。
私がディルさまと竜帝陛下を見間違うはずないじゃないですか」
と、ぴしゃりと言うと、ディルは驚いたように私を見て、
そして竜帝陛下も失笑していました。
「えと・・・あの・・・?」
そんな竜帝陛下に顔を戻すのですが。
「そうか、そこなのか」
そこ以外に、何かあるのでしょうか。
「ディルが気に入る姫なだけのことはあるね。
これからもよろしくね、メイリィ姫」
「はい、竜帝陛下」
そんな感じでお目通りを終えた私たちは、
早速夜会の会場へ向かうため、
竜帝陛下の御前を後にしたわけですが・・・
ディルは仏頂面なのに、
嬉しそうに私の肩を抱きながら歩いていました。




