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エルフの双子王女と晩餐会



私とディルが痴話喧嘩をやらかしたその日の夜の晩餐会はさすがに取りやめとなった。シンシアさまことシアも私を“メイリィ”と呼んでくれている。


シアも静養を必要としていたし、私もディルと魔力をつなげた影響で少しはもっていたのだが、無属性の方の魔力切れでとんでもなくだるかった。


天才闇魔法使いであり天才魔法研究家でもあるルゼくんが、何やら怪しげな特製の仙薬湯せんやくとうを煎じてくれたので、それを飲んで安静にしていることになった。


ディルも魔力をつなげた後で安定させるために私の傍にいてくれることになった。まぁ、夜はまた抱きしめられながら寝たわけだが。


そしてその翌日は・・・何故、またっ!!と言うほどに谷間にうもれておりました!そこは聖なる谷間ですのに!ディルのバカっ!心の中で叫んだとです。


「さて、今日の晩餐会だが」


「シアのドレスはひとまず私のものでいい?」


「まぁ仕立て上がるまでは仕方がない」

最初は嫌がっていたものの、じゃぁ裸で過ごさせる気ですか変態!と言ったらディルが折れてくれたのだ。


幸い、瞳の色は違えどシアが銀色、私が白と、髪の色が似たよっていたため、髪の色に合わせたドレスはよく似合う。


後はアクセサリーだが。アクセサリーはすぐ買えるよね?っと、笑顔で脅し・・・丁重に頼んだら、ディルがすぐに取り寄せてくれた。


シアの赤い瞳に合わせた赤い宝石がはまったネックレスで、縁取りはオーソドックスだけれどディルの瞳と同じ金色だ。何故か私用に淡いバイオレットの石がつけられている金縁のネックレスを与えられてしまった。いや、他にもまだ用意されていたのだけど。


「ひとまずシアに元々与えていた宮の調査は終わった」

何と日中にディルが済ませてくれていたらしい。そしてシアのことをディルもちゃんと愛称で呼んでいる。私?私は特にないからなぁ。そのまま“メイリィ”です。


あと“お転婆姫”もあるけれど、それは愛称だけどそういう愛称じゃないので却下だ。


「そして今日の晩餐会だが。シアが1日姿を消しただけで面白いことになっているそうだ」

にやり、とディルがひとの悪そうな笑みを浮かべる。

それを聞いた時シアは倒れそうになるし、私は唖然としたものだ。


でも今は私がシアをしっかり支えているし、ディルもシアの味方だとシアもはっきりわかっているので心強いものである。


「今日の晩餐会はちゃんとエスコートしてくださいね」


「わかっている」

今日のディルは両手に華。私とシアをエスコートする。初日のような展開にならなくてよかった。シア、マジ天使。女神だわ。聖女さまだし、いいわよね?拝んでも。


一応、近衛騎士であるルゼくんも一緒に来てくれる。もふちゃんとふぃーくんはふたりで仲良くお留守番である。わぁっ!仲睦まじくてかわいい。2匹だけでいちゃいちゃふわもふしてていいからねっ!とエールを送り、早速私たちは戦場に、赴いた!


―――


晩餐会の会場に入った私たちは信じられないものを見てしまった。いや、事前に聞いていたのだが、マジか。


竜姫さまと獣人族の姫さまも私とシアがディルにエスコートされているのにも驚いたようだが、何よりも彼女たちはその間に座る少女をいぶかし気に見た。知的そうな獣人族の姫さまは元より、猪突猛進そうな竜姫さまも“彼女”がその場に座っていることにはさすがに疑念を持っていたらしい。


そして“彼女”は驚いたように目を見開きシアを睨んできた。


「さて。この晩餐会には私の婚約者たちを招待したのだがイスの数が足りないな」

“彼女”が座っているおかげでイスが足りなくなっていた。私が前回ディルと座った2席を除いて他の席が埋まっていたのだ。


「どうやら呼んでもいない野良エルフが紛れ込んだようだ」

その言葉を聞いた途端“彼女”はクワっと目を見開いて立ち上がった。金色の鮮やかなロングヘアに碧眼を持ったエルフ族の見事な美少女は、鮮やかなオレンジ色のドレスに、イヤリング、首飾り、ブレスレットなどと言った装飾品を身につけ美しく着飾っていた。


「わ、私はエルフ族の王国の王女で、聖女よ!」


「だから何だ?たかだか属国の王女の分際で、呼ばれてもいない皇太子の晩餐会にもぐりこんだのか?」


「だ、だって!でも、私は聖女で!」


「だから、何だ?私は回復魔法には困っていないし、何よりウチの弟は闇魔力が強くてな。聖女は“シア”以外は受けつけないそうだ」

ディルが“シア”と愛称で呼んだことに“彼女”は苦々しそうに唇を噛んだ。ルゼくんは闇魔力が強いおかげで光魔力の強い聖女の存在は苦手のようだ。だが1日一緒にもっふぃを愛でたおかげかもっふぃの不思議なパワーなのか、2人は仲良くなった。ルゼくんはシアを“シア姉上”と呼ぶし、シアも“ルゼくん”と呼んでいる。


だけど“彼女”のことは無理らしく、傍らで聖女の魔力反応に顔をしかめている。


「それに、何故・・・。何故出て行ったシンシアがそこにいるのよ!」


「出て行った?お前が追い出したのだろう?」


「ち、違います!シンシアは、皇太子殿下の婚約者と言う責務に耐えられなくなり、逃げだしたのです!元々王国は私を皇太子殿下の婚約者に差し出したのです!シンシアのような出来損ないの、エルフ族の王族の証である金色の髪も碧眼も受け継がないばかりか老婆のような白髪に魔物の血のような赤い目などと言う醜い容姿を持ったものを娶っては竜帝国皇族の恥となります!」

んなっ!シアの髪はキレイな銀色だし瞳はルビーのようにキレイなのに!


私も言いたいことは多々ありますが、ここはディルにお任せします。


エルフ族はプライドの高い方が多いのです。シアは真逆な性格ですけれど。だからエルフ族によっても個人差があります。ですが“彼女”はその典型的な性格だったようです。ここで人族の小娘である私が口を挟めば更に罵詈雑言を巻き散らかすでしょう。それでは他の正当な参加者である他の2名の姫にも失礼ですから。


「ほう、私の婚約者と言う責務にお前は耐えられなくなったのか?」

ディルがシアの方を向いて問います。


「いいえ、ディランさま」

ディルの本名は“ディラン”と言います。どうせならシアも愛称で!と提案したところ、そこは私以外に呼ばれたくない!!と言われてしまいました。シアにとっては本名であっても名前で呼べることはとても幸せなことなのだとか。と言うことでシアは“ディランさま”と呼んでいます。


「私は“侍女”として付いて来た姉の仕打ちに耐えられず、保護したもっふぃと共にメイリィさまに助けを求めたのです。そしてメイリィさまと共に支えてくださったディランさまのお心にお応えするために婚約者の責務を全うしとうございます」

シアが力強く語る。

まぁ、まだ“彼女”を見ながらとはいかないようで。いざとなればディルの顔を見るように先にアドバイスをしている。


「んなっ!?あんた何を言っているの!?王命に逆らう気!?」

王命、と言うことは、エルフ族の王国の国王陛下・・・いえあちらは女王制ですので、女王陛下の命と言うことですか。まぁ、先代は女児がおらず例外的に男性の王だったようですが、通常は女性優位だそうです。


「面白いことを言う」

“彼女”の剣幕にビクリと身を震わせたシアを見て、事前に示し合わせた通り私がディルの腕を強く握ったのを合図にここからはディルにチェンジです。


「お前たちの国は宗主国の皇太子が見初め、竜帝が許可した婚姻よりもお前たちの女王の命が優先なのか?」


「えと」

例えようもない重たい覇気に“彼女”は小刻みに震えていらっしゃいました。


「確かにお前たちの国の女王はお前を推した。だが私はシアを選んだ。それに不満があると?エルフ族の王国はいつから私の意思に関係なく、婚約者を押し付けられるほど偉くなったのだ?」


「いや、その・・・皇太子妃として相応しいのはこのわたくし、で」


「残念ながらお前には興味が沸かない」


「そんな子に興味が沸くわけないじゃない!白髪頭に魔物みたいな赤い瞳!醜悪にも程があるわ!そんな醜悪な娘を娶れば誉れ高き竜帝国の竜皇族の名に傷がつきましょう!」

シアは十二分に美少女ですよ。本当に月の女神のように美しい少女なのです。目の前で醜悪なお顔を披露している“彼女”とは雲泥の差があります。同じ顔なのに悲しいものですね。


「白い髪、か。それは私のメイリィへの侮蔑でもあるな」

ディルが私を見ます。私はそんなに気にしていませんけどね。


「人族の小娘が何だっていうのよ!」


「メイリィは、私が唯一見初めた次期皇太子妃だ。その侮辱は許さん。場合によっては次期皇太子妃を侮辱した罪でエルフ族の王国にいくばくかの罰を与えることも検討しようか」


「んなっ!」


「それに、“魔物”と言ったか?」


「えっと」

“彼女”は口ごもります。


「我々竜人は魔物の最高位でもある竜の血を継いでいる。我らの祖であり崇められる神龍もまた神として崇められてはいるものの元は魔物である竜の一種だ。だから私を含め、竜皇族は全員魔物の血を引いているが?何か問題はあるのか?」


「い、え」

“彼女”はようやく失言に気が付いたようです。しがない属国の末の姫である私ですらそこら辺は祖国で学びましたよ?ほかならぬ宗主国の先祖のことですからね。


「また、お前は侍女として竜帝国に来ながらシアに与えた宮を不当に占拠し、本来シアに与えられるべきであった国家予算を自身のドレスや装飾品に費やしたそうだな。そしてシアに碌な衣服や食べ物を与えず、寝床ですら廊下をあてがったと聞いた。さらには我が竜帝国で保護しているもっふぃを守ろうとしたシアに暴力を振るったと。これは我が竜帝国の法律に触れる」


「そ、そんなのっ!シンシアが嘘をついているのよ!!」


「ルゼ、どうだ?」

不意にディルがルゼを振り返る。


「宮への捜索は無事終了。中にいた侍女たちも捕えてこのままでは宗主国を騙した罪で犯罪奴隷落ちだと脅したら、全部吐いたってぇ~。シア姉上の証言通り♡」

ルゼくんがにやりと笑みながら告げます。


「んな!そこにいるのは邪悪な闇魔法使いでしょう!?聖女である私の目はごまかせません!きっとよこしまな闇魔法で操ってっ!」


「確かに“弟”は闇魔法使いだがこの竜帝国の第2皇子であり、その後見人は私だ。つまり“弟”を侮辱するということはその後見人である私への侮辱ととっていいか?」


「そん、なっ!あの、呪われた第2皇子!?」


「弟への侮辱は許さんぞ」

再びディルが“彼女”を睨むと、彼女はビクリと肩を震わせ俯いてしまいました。シアにはディルという支えがいますが“彼女”は完全に四面楚歌ですね。両脇の2名の姫さまとて味方をする義理はありません。だって“彼女”は竜皇族に・・・竜帝国にとんでもない失礼な暴言の数々をまき散らしてしまったのですから。


「他の宮に入っていた侍女どもは主犯格である王族の指示に従わざるを得なかったということで、シアのための予算で不当に得たものは全て没収、王国に即送り返すとともに王国へは多額の賠償金を請求する。次にお前“シンディア・エルフィナ・ホーリーウッド”」


「ひっ」

最後に、ディルが“彼女”・・・シンディアさま・・・いえ、シンディアの名を呼びました。


それを合図に女性の近衛騎士隊員が彼女を拘束し、テーブルから引き剥がします。


「いやっ!何をするの!?私は王女なのよ!?」

しかしそんな言葉を気にする近衛騎士隊はひとりもいません。


「その女が着、身に着けているものは我が竜帝国の国家予算を不当に騙し取り手に入れたものだ。全て没収しろ!」


『はっ!皇太子殿下!』

近衛騎士隊の女性たちは素早く彼女から宝飾品をはぎ取りドレスをはぎ取っていきます。


「いやぁっ!やめてぇっ!何をするのです!?これはエルフ族の王女への冒涜ぼうとくです!!」

すっかりひん剥かれた彼女は恥ずかし気に女性としてデリケートな部分を隠しています。まぁ、男性の近衛騎士隊員にやらせなかったところはディルのせめてもの恩情なんでしょうかねぇ。


「このままじゃ風邪をひいてしまうわ!」


「黙れ!お前にはこれくらいで十分だ」

女性の近衛騎士が彼女に投げたのはかつてシアが着せられていたボロ着でした。


「な、何よこれ!王女である私にこんなものを着ろと言うの!?」


「私の婚約者に着せておいてお前は着られぬというのか?」


「当たり前じゃない!私は王女よ!王女として扱いなさいよ!」


「我が竜帝国が、属国の王族を立てているのは単純に属国の王族が我ら竜皇族に従順であるからだ。そうでなければ王族など滅ぼし、国民を奴隷とし、その国土を丸ごと植民地としている」


「・・・っ!」

その言葉にシンディアはぐうの音も出ないようです。それはある意味真実なのです。


それが我々属国と宗主国の絶対的な力関係です。そして我々属国は、宗主国に庇護されなければ他の大国にあっという間に侵略されてしまいます。


他の大国が私たち属国に手を出せないのは、竜帝国が彼らよりも絶対的な力を持っているからなのです。そうでなければ他の大国は奴隷制度などもとても充実しており、身分階級は本国の臣民と占領された国の民“奴隷”に明確に区別され、奴隷は一生奴隷、その末代まで奴隷と言う生活を一生しなくてはならない国もあるのです。


まさに先ほどディルが言ったような支配の仕方です。それから逃れるために、我々属国は竜帝国に膝を折ったのです。


あれ、私そんな竜帝国の皇太子相手に先ほど史上最悪の痴話喧嘩をやったわけですが。あぁ、今にして思えば私、大変なことをしでかしてしまいましたね。まぁ結局仲直りできたのでめでたしめでたしですが。




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