7告白
手を差し伸べれば、彼女ははにかみながらも躊躇うことなく手を預けてくれる。
人の手の形なのに、爪も毛皮も肉球もある、化け物としか言いようのない手だ。なのに彼女はその手を取って、毛並みを撫で、肉球をむにむにと指圧し、指先を押して爪をにょっと出して、目を輝かせながら弄ぶ。怖がるどころか、「大きな手なのに、かわいいですね」なんて、かわいいのは君だ…!! みたいなことを言ってくる。
「化け物の手だろう……?」
「違います。人に恐れられても人を守り続ける、力強くて、優しくて、誰よりも安心できる手です」
そんなことを言って、握った手に頬を寄せられて……惚れてまうやろぉぉぉぉ!!
「手だけじゃありません。この大きな身体もその顔立ちも全部、凜々しくて気高くて、……かっこいいと、思います」
リリーたん、かわいい……。もう惚れた。惚れたから、それ以上はやめて……襲ってまうやろ……。
「はは……気を遣わせたようだな。すまない。私は、女性にとって……イヤ、人間にとって、恐ろしい見た目だと言うことは理解している。無理をしなくても良い。それを責めるつもりはない。こんなかわいらしい女性から気にせずに、こうして普通に話をしてもらえるだけでも、私は十分に救われている」
全力! 自制!! ちょっと自分で古傷抉って吐血しそう。大丈夫。リリーたん優しいから否定してくれる!! それを見越しての自虐である。二百年の経験値舐めんな。
リリーの優しさに甘えてほんのちょびっといい気になりつつも、自分の立場を確認するそんな自虐の言葉だった。
なのに彼女は、ひどく驚いた顔をして、苦しそうにうつむいた後、きっと俺を睨むように見つめてきた。
「そんな悲しいことを、おっしゃらないで下さい……!」
「悲しい?」
「私は、心から……。いえ、確かに最初は恐ろしいと思いました。でもすぐに皆さんもレオンさまも優しい方々だと分かって、そのお姿も大好きになりました」
「……ありがとう。その言葉だけで十分だよ」
この子、マジ天使。リリーたん一生推せる。
尊さで昇天しそうだ。俺は、なんとか笑顔を浮かべることができただろうか。イヤ俺の笑顔は牙がのぞいてめちゃくちゃ怖いんだった。やっべぇ。
けれど俺に応えるように、彼女も微笑む。微笑んだ彼女は「それで、あの、……」と、何やら言いよどむ。
なになに? もうそんなかわいいこと言われたら、おじさん、なんでも聞いちゃうよ!!
「気高く美しいあなたの姿も、誇り高いその心も、全て、お慕いしております……!」
頬を染めて、彼女はそう俺に告げた。
うっそ。マジで?
いやいやいや、落ち着けオレ。お慕いって、別に恋してなくても尊敬でも使うってば。
「…………こんなかわいい天使に慕われるとは、私も捨てた物ではないな。それほど尊敬されるようなことは、してないから、照れくさくはあるが、リリーがそう思ってくれるというのはうれ…………」
「違います!! お慕いしてるって言うのは、そうではなくって……あの、あ、愛……愛して、ます!」
思考が飛んだ。
待って、俺、夢見てない? 夢じゃない? じゃあ、なにか勘違いしてるよね? 愛情にも色々あるしね! なるほど!
「……父親のように?」
「違います!」
「…………兄?」
「こ、恋してます!!」
「……鯉?」
こ、これ、やっぱり幻聴じゃね? え? 幻覚? いや、そりゃ、脈アリとかなんとか脳内会議してたけど、イヤだって、そんなん妄想だから勝手に言えただけで、夢?! いや、だめでしょ!! こんなところに閉じ込めちゃったから、なんか歪ませちゃった? うれしいけど、これ、リリーのためにならないんじゃない?!
動揺とは裏腹に、リリーたんが真剣な顔で言い募ってくる。
「恋です!!」
ずっきゅーん☆
打ち抜かれた。死ぬ。
「こんな、獣なのに……?」
「姿は関係ありません。どんな姿であっても、レオンさまはレオンさまです。あなたが、好きなんです。姿なんて、関係ないんです」
「だが、獣相手に……」
「……レオンさま!!」
「はい!」
「ごめんなさい!」
なにが、と言う前に、リリーに口元を両手で挟まれ、ナニゴト?! と思っている内にリリーが顔を近づけてきて、ちゅっと。
ちゅっ、っと………。
キスされたんだけどーーーー!!!!!
ふぁー!! 乙女のキス!! 告白のキス!! これって、もしかして!!
呪い解けるやツーーーーー!!!
俺の周りを光が取り囲んだ。
おっふ。魔女のヤツ、派手なエフェクト仕込んでやがった! 確かに、呪いが解けました感があった方がいいもんな!!
俺の身体が、みるみるうちにしぼんでゆく。
ガチだーーーー!!! ホントに呪い解けていってる!!! 俺、リリーたんに、本気で愛されてたーーーーー!!!




