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5嫁さん(未定)かわいい!


「そりゃ、旦那様に触られたら気絶もしますね」


 しれっと俺の心の傷を抉ってきたヘビ執事に、涙目で「仕方ないじゃん!!」と訴える。

 俺だって好きでこんな怖がられる見た目じゃないやい。


「これでも紳士的に、キリッと対応したんだよ!」

「その顔でキリッとされたら、余計怖いでしょうが」


 呆れたように言われて、はっとする。


「……確かに!!」


 言われてみれば、ただでさえ鋭い顔が余計に鋭くなっちゃう! じゃあにこやかに……牙が出たらこわくね……? じゃあ無表情なら……普通に怖い……。


「じゃあ、どういう感じだったら、怖くなかったと思う……?」


 執事にたずねると、さりげなくス……っと目をそらされた。


「言外に、どうしようもないって言うの、やめてくれる?!」

「ひとまず、妻が様子を見て、できれば事情もたずねておきます。それまでは、おとなしくしていて下さいね」


 俺の訴えは、華麗にスルーされた。ちくしょう!


「……ちょっとだけ、様子見に行くぐらいは、よくない?」

「ダメです。見た目だけで気絶します」

「ひどい!」


 彼女はどう考えても訳ありだ。それは、みんなの一致した見解だ。でも、あんなドレスのお嬢様が一人でここに置き去りにされるって、どんな状況? 結構殺す気満々だよね。

 イヤな子だったらどうしよう……。良い子だといいな。ついでに俺に惚れてくれたらもっと良いな……。


 結論から言うと、かわいそうな子だった。

 婚約者に嫌われて、冤罪で死刑とか言われて罰としてこの森に置き去りにされた、と。そのやり口は気に入らないな。

 彼女が捨てられた森が面してるのは隣国側だったわけだけど。隣国、ちょっと荒れてきてない? 新しい国だけど、こんなことするようじゃ、長く続かないぞ。


 ちなみに俺の祖国である帝国側には、刑罰にこの森を使うと、魔物を抑えるのをやめることを通達している。数十年に一回ぐらいやらかして、その度に魔物が氾濫して、何かいっぱい貢ぎ物をもらう。ということで、これからは、隣国側にはペナルティとして、マーキングをするのをしばらくやめるため、魔物が出て行っちゃうかもしれない。てめーらの面倒を俺らに押し付けんな。後味わるいのは冗談じゃない。自分のケツは自分で拭け。幸いにも、隣国側で直接面してるのは城の裏側だ。国が責任とれ。昔から森と隣接してるところには通達してるんだけど、新しい国だし情報が少ないのと、今までたいした問題なかったせいで、軽視されてる気がするんだよな。


 今回の彼女を捨てた件だって、完全なる森への軽視だ。森に彼女を捨てておいて、殺さないだけありがたく思えと言ったそうだが、むしろこれ、苦しんで死ねって言ってるようなもんだよね。

 うちのハウスメイドなリス女さんは、嘘ついてたら分かる能力持ちで、捨てられたお嬢さんの言葉に嘘はないと、涙ながらに語った。割と悲惨な生い立ちのお嬢さんのようで、オレも聞きながら泣いちゃってた。あんなにかわいい子に、なんてことするんだ。

 その婚約者、どんなクズ……。ていうか、両親は? って思ったら、両親は死んでて、叔父夫婦が両親の代わりに家督を継ぎ、家ではメイドのような暮らしをしいられていた、と……。そのくせして表向きは王子の婚約者としてちゃんとしてろって……無理すぎない?


「……かわいそうすぎない?」

「ええ、かわいそうなお嬢さんです。……だから、旦那様……近づいて怯えさせたらダメですよ」

「そんな! 俺もかわいいこと仲良くなりたい!」

「なれると思っているんですか。かわいそうでしょう」

「ひどい!!」


 俺と、ハウスメイドなリス女さんとメイドなハムスター女さんとのガチンコ勝負が勃発した。絶対負ける戦だが、俺だって簡単に引くわけにはいかない。だって、かわいいフリーの女の子!!


「あ、あの……」


 俺とリスとハムスターなメイドが話していると、遠慮がちな声がして二人とも振り返る。

 あの子だ。

 俺が振り返った途端、ビクッとなった彼女だけど、すぐに体勢を立て直して、頭をぺこりと下げた。ありゃ、これ、完全に、メイドの挨拶だ。


「お礼が遅くなってしまいましたが、助けて頂いて、ありがとうございました。助けて頂いたのに、あの時は驚いて失礼な態度を取ってしまいました……申し訳ありません!!」


 一気に喋ると、彼女は肩に力が入ったまま、不安そうに俺を見てくる。

 かっわいい!! なのに俺を前にして、ちゃんと普通に喋ってるし、逃げない!!

 思わず抱きつきたいほどかわいかったが、ハウスメイドに、んんっと、咳払いで釘を刺される。


「節度を保った反応を」


 ぼそりと呟かれた声の低さに、俺は震えた。

 も、もちろんだとも。


「……近づいても、大丈夫かい?」


 できるだけ優しい声を出してたずねる。


「は、はい!」


 そして近くまで行くと、彼女が震えていることに気付いて、片膝を突いた。


「手を、にぎっても?」

「は、い……」


 怯えているのは分かったが、女の子の手を握りたかった!! 握りたかった!! 生の肌に! 触れたかった!! だって、悲鳴上げて逃げない女の子が!! しかも美少女!! 二百年前に鍛えていたような気がする、俺のイケてるメンズな貴族力を見せつけるときがきた!!

 手は一応、人間の形をしているけど、猫パンチすれば爪はにゅっと出てくるし、毛皮に覆われてるし、肉球まである。五本指あっても、きっと怖いだろう。でも、手の平というか肉球に置くようにして、そっと手を取る。ちょっと猫っぽさをアピールすれば、ギリ、かわいい寄りに傾くと信じて……。

 ちっちゃ!手、ちっちゃ!!

 ちょっと震えているけど、我慢してね。……俺、人肌に、餓えてるんだ……。逃げない貴重な女の子、逃したくない。


「……大変な目に遭ったようだね。ここには君を傷つける人はいない。見た目は恐ろしくても、優しい者達ばかりだ。どうか、皆を信じて、君がどうしたいか決まるまで、ここにいてくれないだろうか。君には恐ろしい化け物屋敷のように感じるだろう。だから、君が出て行きたいというのを引き留めることはできない。だが、闇雲に逃げてしまうと、身ひとつの君は、きっとつらい目に遭うだろう。だから、どうするか決まるまででいい。私たちを心から信じる必要もない。だが、先を決めるまでの間、私たちの申し出を利用してくれれば………」


 そこまで言ったところで、慌てた様子で彼女が叫んだ。


「あ、あの!! 待って下さい、そんな、ごめんなさい。私が怖がったから、あの、助けて下さったのに、私、そんなつもりじゃなくて………っ」

「……信じてくれるのかい?」

「もちろんです!!」


 待って。チョロすぎて心配なんだけど……。

 困ってリスのハウスメイドを見る。なんか、隠れてサムズアップされた。えぇ……、アリなの? ……いや、ナシでしょう。


「……もう少し、人を疑いなさい」


 ひどい目に遭ったばかりなのに、純粋すぎる……。

 なのに彼女は首を横に振った。


「あなたに助けて頂かなかったら、あの時私は死んでいました。あなたがもし私を騙しているのだとしたら、それでもいいのです。今、私が生きているのはあなたのおかげなので、あなたの言葉を信じます」


 天使か!!


「君は……」


 ダメだって、と思うけど、なにをどうダメと言ったらイイかわかんないレベル。

 こんな純粋培養、いていいの? いや純粋培養じゃないよね、むしろ不純物に晒されまくってるよね?! ……そうか、わかったぞ! 石と砂利と砂に晒されて、濾過されちゃったか!! 大変な目に遭って、清流のごとき清らかさが出来上がっちゃったかー! 理解した!


「……命を助けて頂いたのに、これからのことまでも気にかけて下さるなんて、感謝しかありません」


 俺を見つめてきっぱりといった美しさに、俺はもうノックダウン寸前だった。


「こんな我々を、君は、受け入れてくれるのだな……感謝する」


 咆哮を上げて、抱きしめてグルグル回りたいのを、命をかけて我慢して、それっぽいことを言ってみる。もう自分がなに言ってるのか、よく分かってない。

 とりあえず、自分の手の中にある彼女の手の甲に、ちゅっとキスをする。

 あ、やべ、鼻の頭も当たっちゃった。濡れたかも。ごまかすために、親指で、口づけた辺りをスリスリしてごまかしておく。よし、乾いた。


「あ、の、……」

「ん?」

「手……」

「……もしかして、今は、レディへの挨拶に、このような方法はしないのかな? ……申し訳ない、時の流れに取り残されているから……無作法をした……」


 ……まあ俺の時代も、親しくないと直接触れたりはしなかったけどね!

 でも、彼女は知らないので、しれっと、そういうことにしておく。恐ろしいから、隣のリスとハムスターなメイドの方は見ない。


「い、いえ、丁寧なご挨拶、ありがとうございます……」

「……私も、食べられる! と叫んで逃げない君に、感謝している」


 ここで一発親しみやすい茶目っ気を見せようと、渾身のウィンクをかましてみたところ、慣れてなさ過ぎて首も一緒にかしげるはめになった。恥ずかしい!!

 けれど、その失敗が功をなしたのか、彼女がクスクスと笑う。


「優しい方……。あの、お世話になります。できましたら、何か私にできるお仕事があれば賜りたいです。どうぞお言いつけ下さい」

「気にしなくていい。君は客人だ。しかも傷ついた客人だ。どうか癒えるまでゆっくりして欲しい」

「でも……」


 大事なお嫁さん候補を使うなどせぬ!! 姫のように大事に扱って、愛してもらいたい!! 俺だって、かわいい女の子に愛されたい!! 


「もし、気が収まらないというのなら、外の話をしてくれないか。私たちはこの姿だ。人の世界に行くことが叶わない。どんな暮らしをしているのか、教えてもらうというのは、どうだろう」

「そんなことで……」

「……私たちは、どれだけお金を積んでも、民の話は、聞けないのだよ」

「あ……」


 苦笑する俺に、彼女が、悲しげに唇を噛んだ。

 この子、ほんっと優しいな!! これはもう……濾過じゃなくって、蒸溜じゃね? 純粋すぎる!!

 こんな子が、お嫁さんになってくれたらいいのにー。

 チラッと後ろに控えるメイドたちを見る。サムズアップされた。まさかの許可。よし、ガンガン行こうぜ!!


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