3獣の王の事情
レオン視点
「なー、そろそろ現れても良いと思うのよ。俺のことを、「あなたがあなたであるなら、姿なんてどうでもいいの……」なーんて言ってくれる子がさー!!!!」
「……さようでございますね」
相変わらず冷てぇな。
無表情で隣に控える蛇男をすん……とした顔で見やる。
ライオン男になって早二百年……。この辺りの魔物の森を統べて早百年。
獣人でもいい、平和を作ってくれた百獣の王様、愛している!!! と言われたくて、人間と魔物の世界の治安のためにがんばってきた。
せっかくそうやって、人間の世界に魔物たちが迷惑かけないように手綱を握る事ができたのに。平和のために尽力したのに……俺達は慕われるどころか、人間に恐れられるようになってしまった。
なんでだ……。
ことの発端は二百年前。若かった俺は、ちょっとやんちゃでブイブイ言わせてた。そしたら魔女から「お前ホントクソだわ」と言われて獣の姿に変えられた。「なんか、そのまま死んだらかわいそうだから、人間に戻るまでは不老不死にしてやるわw 人間に戻れたら、そっからまた時間が動くようにしてあげるし。人間戻ったら老人ってのも、くっそウケるけどw」とか、余計なことされて、死ぬことも出来ない。「やっべ、私、優しすぎね?」とかほざいていたが、うっせえわ。お前が思うよりド鬼畜です!
森を統一した百年ぐらい前に、魔女から「……そんなに嫁ができないとは思ってなかったんだわ……ごめんな……」と、至極申し訳なさそうに言われて、……ホントお前!!
そんな魔女も、ついには死んだと噂に聞いた。
……嘘だろぉぉぉぉ!!! 死ぬ前に呪いを解けや!! 俺ちょっとうっかり、魔女の家全壊しちゃっただけなのにー!!! 全部弁償したじゃんよ!! そりゃ二度と手に入らないかもしれないコレクション全焼は悪かったけどよ!!
ちなみにそれがコンプリートできたら、解除してもらえるはずだった……。できなかったらしい……悪かったけど、死ぬついでに解除しろください……。
ということで、魔女より長生きになってしまった、俺の近辺。家まるごと呪いかけられたせいで、住み込みの者が巻き添えになった。
獣人になったせいで、俺含めみんな家族に見捨てられ、人間社会を追われてしまった。
そのとき使用人たちは、俺を責めに責めた。「アホか!」「バカか!」「バカだもんな!!」「だからあれほど頭を使えと!」……と、延々……。ごめんて、ほんとごめんて……。未だオレは彼らに頭が上がらない。
そんなこんなで、人間と魔物の境界として建てられた要塞に追いやられた。
「お前が防衛とか適任じゃん!」って指さしてゲラゲラ笑っていた兄貴、許さん。ヤツも老衰で死んだけど。何回か嫁候補を送ってくれたことは感謝している。だが、「ぎゃぁぁぁぁ!!」と令嬢にあるまじき勢いで毎度逃げられ、おかげで余計にひどい心の傷を負った。
その兄貴は老衰で大往生を遂げ、その子供には怯えられ、今はもう人間社会との関わりは、ほぼない。要塞の管理の関係と、日常生活に入り用がある関係で、国や商人との繋がりは多少あるけど、それだけだ。
国の者達は俺達を怖がって、この城に近寄ってきてくれない……。いつの間にか、街の者たちの間では俺達が占拠してるみたいな話になってるっぽい……えええ……違うしぃ……。守ってるだけだしぃ……。国はその噂を払拭してはくれなかった……。そう思われてる方が人間が来ないし、被害も出ないもんね……。ひどい。
俺は貴族の次男坊で一人暮らししてた状態だから使用人はそう多くない。
俺に仕えていたせいで同じく悠久の時を過ごしている彼らは、今となっては完全に家族だ。蛇男に変えられた執事、その嫁のリス女になってしまったハウスメイド。嫁が食われそうで恐ろしいとか思えるカップリングに、割とドキドキするが、「夜にいただいておりますので、大丈夫です」とか、そんな下ネタいらねぇわ!!
あとは護衛の熊男と、メイドのハムスター女。気がついたらこのふたり、出来てやがった……なんだと? 俺が嫁見つけられない間に、なんでお前らがくっついているんだ?
料理長のワニ男と庭師のゴールデンレトリバーな犬男………え? できてる? 恋人? え? だってお前ら、男同s……。
後は雑用のネコ女とウサギ女の二人、……いつもふたりでイチャイチャしてるけど……え? そうなの……? 二人とも、そうだったの?? 何なら今からでも二人とも俺と……え? 俺じゃダメ、と……。あ、はい……。
人間でなくなってしまったし、種族も違うんだから男女枠とか小さすぎてどうでもいいんだけど、むしろそんな些細なことより、犬とワニってどうやって……いやむしろ熊とハムスターの体格差ヤバくね……? と下世話なことばかり気になってるけど、それもどうでもよくって、……俺だけあぶれてる! なぜ俺だけ!! なぜ奇数!? もう一人!! なぜもう一人、俺と心を重ねられるめちゃクソかわいい女の子がなぜいない!!
……まあ、俺に付き合わされて、人間社会からあぶれちゃったんだから、そのくらいいいんだけどさー……。でもさ、でもさ、なんでみんなして、「お前だけは、ない」みたいな表情なのよ……。俺と愛し愛されれば、呪い解けるのにさー……。
「そういうところです。それは愛じゃなくて、打算というのです」
「でも、みんな近くにいるんだし、効率いいし、俺を選ぶのもアリだったと思うんだよー……」
「効率で恋愛は致しません」
「……はい」
執事の目が冷たすぎて、心が折れた。
ということで、日々、俺はかわいい女の子との出会いに期待している。人間迷い込め。めっちゃかわいい女の子、迷い込め。
もっとも出会うのは、俺に怯えた魔物か、やんちゃして襲ってくる魔物の二択だけれども。こんな人間と魔物の境界にやってくる女の子は、度胸試しのアホか、戦闘狂ぐらいだよ…!! どっちも、むり!! 俺の未来終わってたー!!