10後日談
その後のことを少し話そう。
まずリリーたん。びっくりな思い違いが発覚した。
執事から城を追い出されそうになってると思ってたらしい……。
執事てめぇ、許すまじ。
「お前、リリーに町に行くことを勧めたそうだな?」
と、凄むと、執事はしれっと
「レオンさまに嫁いでこられるなど、あまりにもリリーさまがおかわいそうで……」
とか抜かしやがった。やかましいわ!!
まあでも、事実として苦労かけるのは確かだ。それでなくとも魔の森との境界での生活は死と隣り合わせだし。
俺と執事のやりとりを聞いて、リリーもようやく勘違いに気付いたらしく、気遣いを悪い意味に受け取ったことをひどく気に病んでいた……天使かよ。
リリーは、「レオンさまと共にいきられるのなら、何だってがんばります」と、健気なことを言って、俺を泣かしにかかっていた。使用人がこぞって「リリーさまのような方が、そんなレオンさまのような苦労を背負わなくても……」とガチ泣きしていた。だまれだまれ!! そんな不良債権押し付けられたみたいな言い方すんな!!
こいつら、今までちょっと迷惑かけたからって、俺に厳しすぎやしないか?!
やたらとリリーたんへの哀れみが見受けられる物の、おおむね祝福された。祝福されて、リリーが幸せそうに笑ってくれたから、よしとしよう。
そんなリリーも、一月ぐらいかかったものの、人間姿の俺にも慣れたらしい。よかった。
……………………ほんっっとよかった!!!!
しばらく近寄る度に、びくぅってされてたもんな……。俺の見た目が、ダメだったらしい……。
鏡見たけど、やっぱり結構いけてると思うんだけど、いかんせん色合いが悪かった。元婚約者と一緒だったらしい。あと、婚約者も顔はよかったらしく、俺も顔面はよかったせいで、ちょっと見た目の共通点が多すぎた。
「あの、お顔が、綺麗だと、なんだかうさんくさく見えてしまうようで……あ、違います!! レオンさまは違うとわかっています!!」
アピールポイントと思ってた顔の良さでリリーたんからダメ出しとフォローされる俺。ちょっと、泣いていい……?
そして、俺達の生活の今後のことも少し触れておこう。
呪いが解けたということは、魔物の森の境界の今後について、考えなければならなくなったということでもある。
俺達は二百年ぶりに要塞の外へと出た。
国に戻ると、兄の子孫から歓迎された。
話によると、祖先が魔の森の獣王レオンに多大なる迷惑をかけ、あまつさえ助けてもらったのに、何の恩も返せなかったのだという。それゆえ、十三代辺境伯の顔に似たレオンの名を継ぎし者が尋ねてきたときは大事にせよと、言い伝えられていた。
十三代とは、兄貴のことだ。確かに顔だけは似てたんだよなぁ……雰囲気が別物過ぎたから別人みたいだったけど。あとは本物か確認するための、家族しか知らない秘密の問答をいくつかされたけど、奇跡的に全部覚えてた。何があったかとかエピソードの記憶力は高いのだ。でももし名前とかが質問だったら絶対無理だった……。認められてよかった……。
その後、兄貴の手記と、俺の持ってる情報とを合わせて精査した結果、俺は兄貴の子孫の血縁として迎えられた。
それにつけても、子孫はその言い伝えを律儀に守っていたのだからすごい。おまえら良い子すぎるだろ……泣ける。その申し送りをした祖先の名前を聞いて、聞き覚えがあるなぁ、と考え込む。兄貴ではなかった。誰だ。
あ、兄貴の息子か! さすがに二百年も昔になると兄の名前さえうろ覚えである。甥っ子の名前を思いだした俺、えらい。
あいつ散々俺に懐いてたくせに、思春期にちょっととがって、俺に反発しまくってたんだよなぁ。 バカだとか、獣のくせにだとか。かわいい甥っ子だったし事実しか言われてないし全然かまわないんだけど、近寄ったら邪険にして避けられるし。挙げ句、あるときから急に、俺から逃げ出したんだよな。避けるじゃなくて、逃げる。声かけても悲鳴あげて逃げてさ。
さすがに俺もへこんだ。邪険にされてもかわいいもんだったけど、逃げられるのはへこむ。ちっこい頃は、俺の上に乗っかって毛皮に大喜びしてたくせに。……理性が働くと、やっぱり怖いもんなんだな……って、しょんぼりして、兄貴が死んでからは、甥っ子を怖がらせるのもかわいそうで、城に引きこもって、会いに行くのをやめたんだが……。
違ったらしい。俺にひどいことをして合わせる顔がなかったらしい。
アホか。甥っ子の思春期の失敗とかそんなん気にするかよ。そんなことで距離取ったとか、さすがにちょっと、後悔が込み上げた。
それいったら、俺の方がよっぽどひどいことやってる。謀らずして魔女のコレクションを全焼させたりとか……。イヤ魔女、やっぱり、この呪いはやり過ぎだって……。死ぬなら呪いといてから死にさらせ。
……イヤ、嘘です。呪いとかなくてよかったです。リリーたん助けることできなくなっちゃうから、呪われてよかったです。
そんなわけで、実家の子孫のおかげで国との繋がりを太くすることができた。
ちゃんと「レオン」が獣人として魔の森の統制を取ってたことも、伝わっていたらしい。兄貴の子孫良い子過ぎる……。ま、信じられるかどうかは別だったわけだけど。「レオン」を受け入れてくれたから、些細なことだ。兄貴の子孫、良い子過ぎる……。
兄貴、俺が呪いにかかったときゲラゲラ笑ったことも、か弱すぎる令嬢送り込んで俺のガラスのハートを傷つけたことも許すよ……。いい兄貴を持った……。
地盤はできたけど、問題は俺達の力がいつまでも当てにならないことだ。
でもまあ、呪い解けちゃったし、俺の力はそれなりに残ってるけど時間が動き出したから、これまでのように魔の森に力を尽くすのは無理だ。
とはいえ俺達が要塞で真っ当に生きてこれたのは、獣の力だけではない。国からの供給あってこそだ。だから衣食住への恩に報いて国への護りを継続する意思はあった。
だが、呪いが解けた今となっては俺達だけで現状維持するのは無理で、国からの戦力的な助力が必要になる。体力がね、人間になっちゃったからね。
もし国からの補助がないなら、完全に手を引いて、自分らの身を守るぐらいにするつもりだった。そのくらいの力はあるし、その場合は兄貴の子孫の領地ぐらいなら守れる。その庇護と一緒にそこで暮らしていく算段もつけてたけど、国の方は、俺達を手放すつもりはないようだった。
今まで、細いながらも、国の援助が途切れなかったぐらいだ。国は俺達のことを把握していて、その効果も理解していたらしい。
はっきり言って、俺たちはいつ国から迫害、追放されてもおかしくなかった。それをされず居場所が確保されていただけでも、一応恩がある。見た目が化け物ということは、それだけで罪となりうるのだ。未知を恐れる心はそれだけで、何もなくとも人を恐怖に陥れる。生活に影を与えてしまう。
二百年の間に存在が忘れ去られることなく、軽視することもないままというのは、相当幸運であり、相応の情報統制がされてたという事だ。そんな俺達の存在を国は無視するつもりはなかったようで、むしろ報償と共に、今後の要塞の守りも託された。
人間は「あたりまえ」になると、それまでの苦労は忘れる物だ。だから俺達は軽視されてもおかしくはなかった。それをせず今までに報いる為政者であった事は、幸運だった。
とまあそれは表向きで、実質は面倒な土地だし、丸投げというか、押し付けの部分も大きいだろうと思っている。報償を与えられたと言えば聞こえがいいが、客観的に見て、突発的な補償金としては上出来だが、二百年の報償としては微々たる物だった。ちょっとの報償で維持できるのなら、この際便利に使っとこうって訳だな。だが俺もそれ以上は無理だろうと思っているし、これ以上あると国からの要求も大きくなりそうだから、この辺りが手打ちだろう。辺境伯、上等である。




