神の成り代わり
レイペヤートがエイランを馘首する、すると、エイランの身体から虹色の何かが噴き出し、そのままそれは空へと消えていった。それと同時に、魔族は消滅し、魔族による世界滅亡の危機は免れ、魔王エイランを討ったレイペヤート達は勇者として、現代まで語り継がれていく、はずだった。エイラン討伐後、わずか数日で、世界中が光で覆われ、消滅したのだ。エイランは自身の死の数日後に、世界を消滅させるよう、女神に頼んでいたのだ。そうして世界は消滅し、全てが消えた。
「はずだった。でもそこで現れたのがこの……」
「えっと……? さっきみたいに普通に話してもらえます?」
「ハイ……」
しかし、そこに時を操る女神が現れた。その女神、ルシフェリアは、エイランと女神クロノスによって消滅させられた世界の時を巻き戻し、世界の再構築を図った。全て元通りにはならなかったものの、レイペヤート達や、各国王達の生まれ変わりを生成することに成功した。それを見たクロノスは激怒し、その世界に、エイランと自身の血を受け継いだ、呪われし血族であり、二人の子孫を、その世界のごく普通の夫婦の腹へ授けた。
その子供は、アランと名付けられた。アランは、エイランの膨大な力と、人であった頃の優しさなどをそのまま受け継いでいたが、記憶が受け継がれることはなかった為に、また世界を破滅させられるようなことはなかった。しかし、もしかしたら、クロノスが過去の記憶や思想を植え込み、世界を崩壊へ導くか可能性を懸念したルシフェリアはクロノスよりも先にアランを見つけ、接触を試みた。
「そして今、こうしてアランと二人で、ラニーヤスに向かってるってわけ」
「なるほど……つまり、女神さまは、裏切るってことですね?」
アランが、ルシフをじっと睨みつけ、普段より低い声で冷たく呟く、それを聞いたルシフは焦ったような表情で、少し怒っているような口調で言い返す。
「今の話聞いてたんだよね? 私は君と世界を守るために来たんだよ!」
「聞いてましたよ。ちゃんと聞いてそう思ったんです。エイランの元に現れた黒い髪の女神クロノスとレイペヤートの伝説。本来であれば世界は消滅し、その事実は残ってないはずです」
「言わなかったっけ。君たち人類の歴史の記録と保管、そしてそれを人類に伝達させる。私たち神様のお仕事なんだ。だからそのことも保管されてるってわけなんだけど……納得してくれた?」
アランはそれでも納得することはなかった。
「それに、時間を操るのはクロノス様の力のはずですが」
「あちゃー。知ってたかー……君意外と博学なんだね……」
ルシフは笑っていた。
「僕を利用してそんなことを企んでいるなら、僕は今ここで死にます」
「ちょちょ! 早まらないで! 信じてもらえないと思って隠してたんだけど、君はパりゃレルワールドってしってるかな!」
ルシフが今までにない早口でアランに質問をする。相当焦っていたのだろう。噛んでしまうほどだった。
「いえ」
「実は、その、なんていうか……両方私……なんだよね、クロノスも、ルシフェリアも……」
アランは何を言っているんだと、呆れたような表情で首を傾げた。
「パラレルワールドって言うのは、違う時間軸の、同じなんだけど違う世界。簡単に言うとね、今こうして私たちが出会ってる以外にも、出会ってない世界とか、アランが存在しない世界とか、こことは違う別の時空にある世界のことで、その、この世界の私は生命の創造が担当の、光を与えるものとしての存在で、この世界とは別のパラレルワールドでの世界の私は、絶望に満ちた時空の穢れを打ち消す、光を与えるものとしての存在なんだ! だからその、そのね! 私は一応アランを知ってるけど、こっちの世界のアランのことは知らないし、世界のほほほ、崩壊とかひゃめつととと、とかきょう興味ないし、私はどの世界のアランも好きだ……あ……」
とてつもなく焦りながら弁明をするルシフ。しかし、アランの警戒は下がらなかった。最後の一言を聞くまでは。ルシフの顔が熱くなり、ルシフは顔を両手で隠す。
「あ、あの……い、今のは、その」
「わかりました。あなたが本当のことを言ってると信用しましょう。僕への熱い思いも伝わりましたし」
「い今のはちが……わないけど、その、ラブじゃなくてライクのほうで……」
ルシフの謎の言葉に、アランは首をかしげる。
「ら、いく?」
「あーもう! この世界でこの言語使われてないの? つまり……その、恋愛的感情ではなく、友人として好きってこと!」
「そうですか。それは悲しいです……」
アランはかなり傷ついたのか、肩を落として、顔を下に下げる。
「ウソです! めっちゃ恋愛感情持ちながら見てます! だから最初であったとき凄い恥ずかしかったし褒められた時もとても嬉しかった! だからそんな顔しないでお願い!」
ルシフはなんとかアランを元気づけようと、顔を赤くしながら必死でアランに思いを伝えた。
「その言葉を待ってました!」
アランは下げていた顔を上げる。そこには、ルシフが想像していたのとは真逆の、少し憎たらしい満面の笑みを浮かべていた。
「君はそうやって乙女ゴコロを……この世界線も私は優位に立てないのか……」
ルシフは残念そうにぼそぼそ呟く。
「ところで、ラニーヤスまであとどれくらいですか?」
「えっと、あと8キロだね。頑張れば今日中に着けるかも」
「そうですか……では頑張って今日中に行きたいですね。ルシフ」
アランの何気ない名前呼びに心をうたれたのか、ルシフはその場に崩れこむ。
「もう一回聞くために、神の力で時間巻き戻しても……怒られないよね……」
「そんなことしなくても、名前くらい何回でも呼びますよ、ルシフ」
「はぅ……!」
二人の間には、間違いなく、幸せが漂っていた。
二人が向かっている未来に最悪が待っていると知らずに……