Aran
朝は、必ずやってくる。夜にすがっても、時計を壊しても、朝はやってくる。たとえ、世界が壊れようとも。この世界に存在している魔王エイランはかつて、普通の人間だった。ありふれた農家の後継ぎだった。そんな彼には、夢があった。それは、この世界の貧困、飢餓、戦争、あらゆる哀しみから、人々を救うため、世界を統率すること。
彼は、自身の思想に従わないものを全員城へ閉じ込め、何不自由ない暮らしをさせたのち、自身の想いを伝え構成させるという処置を取ったり、発展していく文明の中で失われていく自然を尊重し、世界のバランスを保ち、自然とひとがともに生きていける環境づくりに取り組んだ。他にも、価値観の違いから生まれる争いを防ぐために、同じような価値観を持つ国同士を隣り合わせにさせ、そうでない国を遠ざけることで、自身の思想を押し付けずに、平和を造り上げたのだ。
しかし、ここで一つ疑問が出てくる。なぜこんなにもうまく収まったのか。これはあくまで、ただの言い伝えに過ぎないので、史実とは異なっているだけだと、ひとは言う。しかしこれは史実であり、実際に起こったことなのである。だからこそ、その後世界は滅びかけたのだ。
エイランが15の歳のことである。その時エイレンは羊の世話をしていた。その時、突如として、森の方に虹が現れた。その森は、光を吸収し、良くないちからをため込んでいるという言い伝えがあったため、虹がかかるのは変だと、不思議がって虹のふもとを目指し歩いていると、そこにはとても美しい女がいた。
女は、自分が神であると名乗り、何かの縁だと、願いを一つ叶えてやると言い出す。女神は自由の象徴である空の色、青や、平和の象徴である緑色の髪の毛だと聞いていたエイランは、自身と同じ黒髪の女を疑った。しかし、女の美しい容姿に魅入ってしまい、言われるがままに願いを言った。
この世界の平和を。
それに応じた女神は、その代わりに、お前はひとでない生き物にならなくてはならないと、言った。自身を捨ててでも平和を望んでいた彼は、それに了承した。五年後に、エイランは死に、別の生き物へと生まれ変わると、女神は言うと、そのまま消えていった。あの虹も、いつのまにか消えていた。
その後、三年でエイランは世界を統率し、幸せな暮らしを送っていたが、あと一年後に、自身が死ぬことに、恐れを抱いていた。そして、約束の時がやってくる。エイランはその死を受け入れ、妻と子供、沢山の友人達に囲まれながら息を引き取った。
その瞬間だった。城の周りに虹が数十とかかり、その虹たちが、エイランの元へと集まり始める。そして、虹を全て吸収しきったエイランの遺体は、輝きを放ち、その輝きで周りにいた人間すべてを、ドロドロに溶かしてしまう、そして、ひとだった液体は動き出し、やがて、動物とは形容しがたいなにかに、姿を変える。そしてなにか達はエイランの遺体を囲むと、この世界に存在していない言語で、何かを呟き始める。すると、そこにあの時の女神が天から降りてくる。女神はエイランの遺体をみて微笑むと、遺体に接吻をした。その時、遺体の目が見開いた。女神はその様子を見てまた微笑むと、儀式は果たしたと告げた。エイランは起き上がり、女神の方を向き、言った。この世界を平和にしよう、と。
その後、世界にはひとから創り出したなにかによって支配され、数多の国と文明が崩壊した。ひとは、そのなにかを、魔族と呼んだ。世界がどんどん崩壊していく中で、一つの国だけが、平和に時を過ごしていた。国の名はジェネクトリア。
その国には、未来を知る者と呼ばれている賢者ダイヤ、世界最強と謳われている戦士レイペヤート、最高峰の魔力と知識を所有している魔術師ローラ、そして神から生を授かったと言われている神生ティミットの四人が国を保護していた。レイペヤート達は仲もよく、生活を共にしているのでは、と噂されるほどであった。レイペヤート達は、国に攻めてきた何万もの魔族の大軍に、追いつめられることもなく撃退して見せた。
そのころ、既に魔族の王となっていたエイランは、それを知り、このままでは世界を破滅させるという望みが叶わないと、自分の手で四人を殺すため、ジェネクトリアへ自身の側近の部下たちと共に、攻め込んだ。
だが、未来視を持った賢者によって、そのことを既に察知していた四人は、すぐに対策を練った。エイランが神の力と、強大な魔力を持っていることを知っていた四人は、国から数100キロ離れ、エイランが攻めてくるとされる方角で待機し、そこでエイランを討つことにした。
エイランが攻めてくると予知されていたその日、やはりエイランは現れる。世界中の魔族を集めたのだろう。魔族の群れは、どこまでも続いていた。最初は余裕だったものの、次第に疲れ始めたのか、魔族の大軍に劣勢になってきてしまう。
だが、そうなる事も予測していた四人は、敢えて兵士の半数を待機させ、疲れが溜まってきたら交代し、少しでも休ませ、戦力の消耗を抑えたのだ。魔法兵達も、強力な魔法を使うのではなく、事前に準備していた油を染み込ませた木材を、エイランが侵攻してくるであろう方へと設置し、そこに下級魔法で着火させるなど、なるべく体力を消費しないように最善を尽くした。その結果、何とか魔族の大軍を突破することに成功した。その後のエイランの側近達にも、温存していた体力を使い、討伐に成功し、エイランをも追いつめた。