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予兆

「光を打ち消すもののトコに、虹がかかるなんてな」


 アランと雨雲が去った数時間後のジェネクトリア王国、胸壁にて、レペアート達は、ドドスゥンイーロの森にかかる、大きな虹を見上げていた。


「詩人気取りの勇者さん。ちょっといいかしら?」


「なんだよヒナ」


「その呼び方辞めてくんない?」


 レペアートの呼び方に苛立ったのか、自身のチャームポイントでもある長く美しい金髪の毛先を、指でくるくると回しだながらデイヤが言う。


「悪かったな。小さい(ひな)みたいな大賢者サマ」


「フンッ……泣き虫のくせに」


 喧嘩のようになってしまっているが、これは彼らにとって、普段通りの普通の会話だった。レペアート達四人は、幼いころからの付き合いだった。毎日のように遊んでは、時に喧嘩し、時に別れ、苦楽を数十年と共にしてきた仲間だった。

 そんな彼らに、悲劇が津波となって、襲いかかる。


「勇者様! 大変です!」


 一人の王国騎士団員が、息を切らし、声を震わせながら、レペアート達の前に現れた。


「どうした?」


「ドドスゥンイーロの森から、ひひひ、火が!」


「はあ? 森なら虹がかかってるくらいの平……なんだこれ」


 レペアートが森を見て驚愕した。数分前まで平和だった森からは、灰色の煙が立ち、煙の根元は赤く光っていた。


「おかしいだろ! さっきまで鳥の鳴き声一つ聞こえない静けさ……まさか……」


「計画的犯行に決まってんじゃん! 数秒であんな燃えないし、そもそも、さっきまでも森全体に雨が降ってたんだよ! 天気の予知くらいお手の物でしょ!」


 冷静に状況を判断するレペアート、それとは逆にパニックになるデイヤ、それを見て黙り込むテメットとローリエ。何の解決策も出ないまま、緊迫した状況が続く。その間にも、炎は広がっている。


「とにかく、皇族や皇族に使えているものを全員避難させろ。そのあと全国民に知らせ、健康な男以外は全員避難させろ! あと騎士団員は全員桶をもって国中の水を持ってこい!

「わかりました。伝えに行ってまいります!」


「あの理系バカが……」



 ____



 暫くして、国民全員が避難し、国は丑三つ時のように静かになる。


「いいか! 森の火全てを消しきるには、この国の水だけでは足りない。王国に火が移らないように、国に近い炎だけを消化しろ!森が燃え尽きるまで耐えきるんだ!」


 レペアートの指揮に、国中の騎士と男たちは「オーッ」と声を挙げる。正直な話、助かることは絶対にないし、王国が無事だったとして、水不足で生きていくことは困難になるだろう。この行為に、意味がないことなど、きっと全員気づいていただろう。しかし、彼らにはそんな無意味な行動を全肯定し、実行に移してしまうほどの名誉があるのだ。


「たとえこの命が! この王国が! この火の中に消えようと、我々ジェネクトリア王国騎士団の誇りにかけて! 最期まで、この国を守って見せるのだ!」


「水をこっち側に集中させろ!」


「砂だ! 砂も使って食い止めろ!」


 騎士と男たちが一丸となり、森と闘う、皮膚が焼けるもの。火に飲み込まれてしまうもの。それを助けようとするもの、様々な被害もあったが、それでも彼らが怖気ずくことはなかった。そして……



 ____



 ジェネクトリア王国全体に火が回り、王国は崩壊、10数万の騎士団員全員と、避難指示を無視し闘い続けた、国民の中の英雄たち8397人が焼死した。勇者一行は、レペアート以外の全員が、最初から避難していたので無傷で済んだが、レペアートの左手が焼け、細胞が壊死を起こし、腕ごと切断することとなった。

 その後ジェネクトリア国王は、国を死守した騎士と国民を称え、生き残ったレペアートを逃げを選んだ愚か者だと酷く罵った。

 ジェネクトリア王国は、同盟国の協力によって、食と住の提供と、復旧作業への支援で、数日で王国内に戻れるようにはなった。建物はほとんど残っていないか、崩壊しているため、現在は物販を生業としている国民以外は、ほとんど訪れてこなかった。レペアートはこの一件で、パーティメンバーも含め、ジェネクトリア王国を永久追放となり、国を追い出されたのだった。


 ____



「ラニーヤスは、ここから東に30キロほど進んだところにあるよ」


「30ですか……他のところに行きません? 仲間なんてどこで勧誘しようが問題ないでしょう?」


 時は、ドドスゥンイーロの森が炎に包まれる前に遡る。アランとルシフは森を抜けて、次の目的地、ラニーヤスという、世界でもなかなか冒険者ギルドやパーティの結成が盛んに行われている、中規模の町である。


「違うの! そこじゃなきゃダメな理由があるんだってば!」


「はい?」


 アラン達はそこへ仲間を探す目的で足を運ぶのだが、仲間探しなど他でもできる。だが、アランが何を言っても、ルシフは納得しなかった。


「実はさ、このラニーヤスは、奴隷とか、臓器の売買が最も盛んに行われてる場所なんだ。ラニーヤスは別名、人間たちの通り道とかって呼ばれてて、表向きは人間同士が新たな出会いを探す場所って謳って、裏では、観光客を誘拐、その後奴隷として働かせ、ダメになったら使える臓器だけ取り外してそのままどこかへ……とかしてるんだよ」


 ルシフの話に背筋を凍らせるアラン。しかし、それと同時に、感情の制限が解かれたアランに、二つの感情が沸き上がる。人身売買をしている人間への怒りと、奴隷となり、今も辛い思いをしている人々への庇護欲。この思いがアランに30キロ歩かせることを決意させたのだった。


「わかりました……行きましょう!」


「ふふ、そうこなくっちゃね!」

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