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力の開放、本当の思い

「それじゃあ、最初の願い、私が服を着飾る文化に触れるって願いと引き換えに、君には、この世界を死守してもらいます。……本当にこれでいいの?」


 ルシフがアランに確認を取る。もちろんアランは「はい」と二つ返事で了承し、ルシフが少しつまらなそうに、念じ始める。すると、ルシフの周りに光が現れる。

 やがてその光は、ルシフを包み込むと、とても綺麗でどこか儚げな白のワンピースへと姿を変える。他にも、白のハイヒール、ニーソックス。ゲッケイジュの花を模して造られた髪飾りと、一通りの装飾品へと変わっていった。


「どう……かな? 似合う?」


 少し頬を赤らめながら、ルシフはアランにそう聞いた。


「凄く、美しいです」


 アランは、感動で言葉が出ないようにも、無関心なようにもとらえることの出来るようなトーンで、ルシフの質問へと返答した。それを見たルシフは、何を思ったのか、突然ワンピースを胸が少し見えるくらいまでたくし上げると、アランの顔に触れそうな位置まで、自身の胸の下部を近づけた。色情など一切感じない、真面目な表情でアランを見つめる。森に涼しい風が吹いている。


「よく見て。私の胸、目を逸らさずに、ちゃんと」


 アランはルシフが何を考えているのか理解できなかったが、ルシフがふざけていないということだけは理解できた。じっくりとアランは見つめる。ルシフの純白のきれいな肌、今にも破裂しそうなくらい圧迫され、飛びだしそうな状態だ。

 それを間近で見つめるアラン。少しこの状態が続いた後、ルシフは何かを察知した様子で、「もういいよ」というと、たくし上げていたワンピースを元に戻し、少しアランから目を背けた後に、言いにくそうに、アランにある事を伝えた。


「アラン。君、力だけじゃなくて、感情も制御されてるよ」


「はい?」


「今、君には大抵の人間の男性が性的魅力を感じるような行為をしてみたんだ。喜怒哀楽の感情は隠しやすいけど、性的魅力に触れて発生する欲情は隠しにくいからね。これでわかるのはその人間に性欲があるかどうかだけ、でも君の言動や感情に、まったくの変化が見受けられない。そしてより深い君の深層心理の部分を覗かせてもらったんだけど……」


 ルシフはまた顔を曇らせ、アランから少し目を背ける。そしてまた、話を始めた。


「君には、怒りと悲しみの感情を一定値以上上がらないようにされてるし、楽しいとか嬉しいとか、その類も、性的興奮や優越感、幸福感などの感情を一切感じないように、感情の封印をされてるよ」


 アランには到底理解できなかった。これが普通だと思っていたからだ。特に変だと思うこともなければ、おかしいと思うこともない。これが自分であると思っていたからだ。


「多分、その腕輪だよ。それ、いったい誰に貰ったの? 怪しい人間とかかな?」


「これは……」


 アランの脳裏に、忘れていた記憶が蘇り、現在行われている事かのように、アランの中で再生された。



「アラン、これはお前のパーティの参加記念だ! 特注だぜ。俺たちの想いをその腕輪に刻み込んでやったんだ。大事にしてくれよ!」


 そこに映し出されたのは、レペアートだった。レペアート達の想いがこもった腕輪。仲間の証。友人の証、そして


「裏切りの……証」


 アランの中で、怒りと憎悪の気持ちが渦を巻き、それはアランの血液となり、体全体に流れて行こうとしていた。しかし、腕輪による感情の制限のせいで、アランは自身の感情を解き放てずに、苦しがることしか出来なかった。


「うぐッ……がア……!」


 アランは苦しさのあまり、その場に崩れ落ちてしまった。ルシフは少しためらったが、腕輪の破壊と、アランの感情の開放を優先した。


「アラン……この腕輪に愛着があったかもしれないけれど……ごめん!」


 ルシフは小刻みに震える、白くか細い手でアランの腕輪に触れると先程の白い光ではなく、黒く禍々しい光が現れ、腕輪を包み込んだ。少しして、黒い光がなくなると、アランの手首から腕輪は消失し、その瞬間、アランの奥に詰め込まれていた感情の全てが解き放たれる。


「なんだ……なんだこれ」


 アランの脳に、心に、今までの全ての感情が流れ込む。レペアート達との楽しい日々、涙した日々、徐々にニクイ自身への態度が冷たくなっているのを察した際の悲しみ、ニクイ信用から怒りへと変わったあの時、全員の態度に対してのニクイ想い。その全てがニクイ混ざり合って一つとなニクイり、ア憎いラ殺してやるンへと襲いニクイかかクルシイる。憎い。殺してやる。裏切り憎い殺したいぐちゃggちゃにヒヒhhキさいてヤリタイ


「アラン! それはあなたの本心じゃないよ! 感情を無理やり抑えたから、それで、それで……」


 ルシフはそこで口を閉じた。しばらくアランの憎悪と殺意の呻きが、閑静な森中に広がった。そのうめき声を独り聞いていたルシフは、アランに対して恐怖心を抱いてしまったのか、アランの人生への同情か、涙を流してしまった。そして、ルシフはアランに、真実を告げた……


「ごめん……嘘。それは全部、アランが思ってること。本心。隠しようがない、誤魔化しようがない本心だよ……」


「本心……これが、僕の」


「そう、偽りも濁りもない、純粋な気持ち……さあ、その想いをもっと吐き出して。私にその全てを預けるような、そんな気持ちで。あなたの潜在能力を、封印された力を、全て解き放つよ……」


 ルシフはアランの手を、両手でそっと握ると、何かに祈るように目を瞑り、何か、歌のようなものを詠唱しだす。次第に辺りに黒い何かが現れる。それと同時に、アランの体内から光が放出される。光の色は、白だけでない。赤、青、緑はもちろん、紫やピンク、黄色や空色、たくさんの光がアランから放出され、そしてそれを何かが吸い取る。やがてアランから光が放出されなくなり、次第に黒い何かも消えていった。


「気分、どうかな?」


 ルシフは幼い子供の用に力任せに自分の目を擦りながら言う。


「ごめんね、神としてのプライドみたいなのがあってさ、人間に涙を見せるのは恥ずかしいんだ……」


 笑いながら話すルシフに対し、無表情のアラン。アランは深く息を吐き出した。


「ありがとうございます」


「え?」


「僕の為に、泣いてくれて。一緒に、向き合ってくれて」


 アランはルシフ、心の底から感謝していた。疲れで笑いは出来なかったが、それでも、伝えておきたかったのだ。自分の為に、家族以外の他人が、自分の気持ちを分かち合ってくれたのは、初めての経験だった。


「もうっ……もー、なんで君はそうやって……拭き取ったばかりなのに、この服だって、まだ来て間もないのに……」


 再度涙を浮かべ、泣き崩れるルシフを見て、アランは笑った。心の底から、笑った。それを聞いたルシフも、涙を零しながらも、笑った。


「どういたしまして!」


 王国から雨雲が流れ始めたのか、二人の元へ雨が降る。曇る空と湿気を漂わせる森達。光のないこの空間に、二人の間に、虹がかかる。

お疲れさまでした。お読みいただきありがとうございます。

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