出会いと別れ
始めまして。また会いましょう。 現在この小説は改定中です。内容が変更されている可能性があります。
「残念だが、お前はうちに要らねえんだ」
レペアートの言葉が閑静な部屋中に響いた。
「えっと……それはつまり、どういう……」
「追放だよ。わかんねえのか。直接言わせんな無能が」
僕はレペアートのその言葉に初めて怒りを感じた。いや、もしかしたら前から、レペアート、いや、こいつら全員に怒りを感じていたのかも知れなかった。
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「ふう……やっと着いた。父さんたちを説得するのに手間がかかったけれど、そのかいがあったなあ」
一年前、僕は、田舎暮らしの遊牧民の肩書を捨て、新しい旅路を進む冒険者となった。理由はいろいろあったが、やはり一番の理由は「特別な力がある」からだ。その力を活かすためにも、冒険者になろうと決意したのだ。僕には生まれつき、たまにだが謎の声が聞こえる、という力があった。その声はこれから起こる出来事、つまり未来を、その声は伝えてくれるのだ。それにはいろいろ世話になった。嵐が来るとか、羊が伝染病に感染してしまうとか、とにかくその声に今まで助けられてきた。周りのひとたちは、僕の事を、神の生まれ変わりだと言って慕ってくれていた。
「えーっと、冒険者登録はどこで……」
「冒険者登録がしたいのか?」
僕が街の案内板を見ていると、ひとりの男性が、僕に話かけてくる。そう、レペアートだ。
「え? なんでそのことを?」
「その成りで案内板見てるやつは、大抵そうだからな。全員冒険者になりたい。ってな」
そこから、レペアートと僕は仲良くなっていた。何も知らなかった僕に、レペアートは色々教えてくれた。その内容はまるで、僕の心を見ているかのような気がした。レペアードの話は全て、僕が思ったことや疑問に感じたことに回答しているような話ばかりだったからだ。その後、僕はレペアートや、レペアートのパーティメンバーと意気投合し、レペアート達と、この世界の負の根源、エイランの消滅を目標に、冒険をしていく。……はずだったのに。
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「アラン、なんで、未来予知能力と、なかなかの魔力を持っているお前が追放されるか、わかるか?」
「みんな……僕のことが嫌いだから、とか?」
レペアートはこぶしを握り締めるようなそぶりをした後、冷酷な眼差しでアランを見つめ、言う。
「確かにそれもあるが、そうじゃない。一番の原因は、お前が戦闘に一切必要ないことだ」
レペアートは少しアランから目を逸らし、そのまま話を続ける。
「お前の未来予知で攻撃が回避できるというメリットはある。しかし使いたいときに使えるもんじゃねえ。しかも、最近になって、俺たちも強くなった。お前と出会ったときはFランクだったが、今はAランク。大抵の魔物くらい、攻撃される前に殺せる」
「で、でも」
「でも魔力があるから役には立つだろうと思ったか? ちげえな。お前の魔力は所詮中くらいだ。だから火力も足りねえし、もうこれ以上の成長はできないらしいじゃないか。これから先、更に敵は強くなる。そんななかで、成長しないお前が、どうなる? 戦死さ。わかるだろ?」
レペアートのその言葉に、他のメンバーたちは笑いもしなかった。ハナからこの話に無関心、というような態度で、その場に立っていた。
「お前はお前にあった場所に変えるべきだ。そうだなあ……また田舎に戻って、そこでてめえのうっすい冒険譚でも語ってなよ。その話だけで生計立てられんじゃねえか? あッはッは!」
レペアートは、涙を浮かべ、顔を赤くしながら笑っていた。そして、そこでようやく、ただ立っているだけだった、他のメンバー、デイヤ、テメット、ローリエが口を開いた。
「ほら、さっさと行きなよ」
「もう二度と、わたくしたちの前に現れないでくださいねえ~」
「デイヤ、ローリエ、言いすぎだぞ、もっと間接的に言ってやれよ。こいつの弱い心が崩壊して発狂したら、誰が止めるんだ」
アランは三人の言葉と、レペアートの態度に、手と声を震わせながら、部屋を出る。
「わかったよ……みんな、今までありがとう……」
そう言って、アランは、部屋の扉を閉め、そのまま宿を出ると、今まで生活してきた、ジェネクトリア王国を立ち去った。アランが、後ろを振り向くことはなかった。
「今までありがとう。だってさ」
アランが立ち去った後も、アランについての話がされていた。
「わたくし達に恩を感じていたのでしょうか。それとも、社交辞令?」
「これで、俺たちが前に進めればいいんだけどな……こいつはどうだ?」
テメットとローリエが、冒険者リストを見て、アランの代わりを探していた。
「私さ、毎回いうけど、正直こんなことしたくなかったんだけど」
「いまさら何言ってんだ。これでいいんだよ」
テメットはデイヤにそう言うと、冒険者リストをパタリと閉じ、ふーっと一息吐いた。
アランが立ち去った後の王国には、雨が降っていた。