表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/12

幻覚の少女

「あ!ちょっと、食べに行くのはいいとして、フード被りなさい!」


 卯佐美さんに言われて、フードを被ってハッとする。

 今私の頭に(フードの)猫耳生えて……、うん、幻覚幻覚。

 私は猫耳パーカワンピなんて着てない。


「今はその髪の色目立つんだから、厄介ごとに巻き込まれないように隠しなさいよ。」


 髪の色?水色なのは幻覚なので、白髪が見苦しいので隠せと言う事ですね。わかります。

 なんて勝手納得しながらフードを被り、曖昧に頷いておくと、卯佐美さんは本当にわかってんのかコイツ?みたいな顔をした。


「もう、ご飯食べたらちゃんとまっすぐ帰ってきてくださいね。」


 仕方ないなぁ、とでもいうような顔をして、七尾さんが交番から見送ってくれる。

 犬飼パパと思われる部長さんは、こちらに一瞥(いちべつ)もくれず、机で何やら書類の様な紙を難しい顔していた。



「ファミレスでいいか?」

「あんたの奢りでしょ?違うとこ連れてきなさいよ。」

「は?俺は緋璃さんに聞いたんですー。てか、なんで先輩まで奢られようとしてんの、年下にたかんな!」

「あんたが言いだしたことでしょ。よってあんたの支払いに決まってるでしょ。」

「翔、よければ俺が半分……。」

「あー、いいよいいよ。怜司はパーティー中で一番消耗費買うくせに、経費で落とさないんだから、お前に出させらねーもん。」

「……俺の趣味半分で買ってるようなものだ。経費でなんて買えない。」


 道すがら、三人の会話についていけず、疎外感を感じるものの、和気あいあいとした雰囲気に微笑ましくなる。


 ああ、何で私ここに居るんだろう。まぁ、とりあえず。


「犬飼君、ファミレスで異論はないのだけど、いい加減に手を離してくれると嬉しいな。」


 あ、わりぃ、と言いながら犬飼君は手を離してくれた。

 なんとなく掴まれた手首を見つつ(さす)る。


「やーい、フラれてやんの。」

「うっせぇわ。それより手、大丈夫か?痛かったか?」

「うん、大丈夫。」


 顔を上げて、あっ、と思う。

 犬飼君の後ろお店の窓ガラス、中が覗けないようにフィルムみたいなのが張られてるのか、鏡みたいになっていた。

 そこに犬飼君達が映っていたが、私が映っているところに別人が立っている。

 猫耳パーカワンピースを着た少女で、その物凄い美少女はゆったりとしたパーカワンピースを着ていても、スタイルがいいんだなと思えるような体格で、服も似合っていた。

 熟れた柘榴(ざくろ)の実みたいな色をした瞳を、空色の長いまつ毛の付いた瞼を瞬かせ、こちらを見ている。


「幻覚って、こんな鮮明に見えるものなんだぁ。」

「え?なんて?」

「あ、いや、何でもない。大丈夫。行こう?」


 少女から目を離して犬飼君を見る。彼や他の二人も怪訝そうな顔をしていたが、彼らは歩き出し、その後をついていく。



「飯、ちゃんと食った方が気力が出んだろ。」


 ファミレスに着いて適当に注文した後、若い彼らと何を話したらいいかわからず、ほぼ黙って彼らの会話(と言っても主に犬飼君と卯佐美さんが喋って、日比谷君がたまにぼそりと呟く感じだったけど)をぼんやり聞きながら、グラタンを食べ終わった時に、犬飼君がそう言ってきた。


「今日会ったばっかりの俺に言われても、あれだろうけどさ。飯はちゃんと食った方がいいぜ。じゃねーと、余計落ち込んだりすっからさ。」


 少し気まずそうに、襟足を掻く犬飼君を見て、幻覚の下の素顔は酷い顔をしてるんだろうと察し、こちらまで気まずい気分になる。

 やり方は強引だったけど、彼なりの気づかいだったのだろう。

 だから他の二人も呆れた風ではあったけど、止めなかったのか。


「……ありがとう。落ち着いたら、服の代金や食事代払わせてちょうだいね。」

「そんなのはいいって、女の子に払わせちゃ男が(すた)っちまう。」

「あら、その割にはいつも私の時は割り勘じゃない。」

「先輩は、ほら、別枠だから。」


 別枠って何よ!別枠って!!と卯佐美さんが少し怒るのを、日比谷君がまあまあと宥めるのを見て、クスリと笑ってしまう。

 久しぶりに笑った気がする。


「それに俺ら、Aランクハンターだし結構稼いでっから、本当に気にしなくていいぜ。」


 ほら、と言って犬飼君は運転免許ぐらいの大きさのカードを、手渡してきた。

 それを受け取って見てみる。


 青い透明のカードで、プラスチックにしては冷たい感じがした。

 カードには大きくAの文字が筆記体で書かれており、犬飼君の名前と下に細々とHPとかMPとかスキルがどうとか、何か掘られたいた。


 何のゲームのカードだろうか?若い子の流行りなんてわからないからなぁ。

 さっきも、なにかのポーションがどうだの、なんかのアイテムがこうだのと、話してたけど、全然ついていけなかったし。


 さて、どう返事をしたものかと思って、カードから顔を上げると、何やら卯佐美さんと日比谷君がぎょっとした顔をしていた。

 あ、日比谷君、そんな顔もできるんだね。


「それ見てどう思った?」


 犬飼君だけが普通の顔をして、そう尋ねてきたので、首をひねる。

 こんなおばさんに、どんな答えを求めてるのかね?君?


「……Aランク、凄いね。」


 何が凄いのかちっともわからないが、自慢してきたぐらいだからいいランクなのだろう。

 とりあえず笑みを浮かべ、犬飼君にカードを返す。


「(嘘だろ)……だろ?」


 ニコッと、自慢げに笑う犬飼君を見て、返事はこれで良かったんだとほっとする。

 卯佐美さんらも顔がも普通に戻っていた。


「じゃ、先輩も食べ終わったみてーだし、デザート食いに行こうぜ。」

「おすすめのデザートがあるんだっけ?」


 食事を頼む前に、デザートは別のところでって言ってたものね。


「そ、二、三番目がどうとかいうパンのアイス?ってやつ。先輩が場所知ってんだよな?」

「ちゃんと自分で調べときなさよ。」


 まあ、前に言って覚えてるけど。ムスッとした顔で卯佐美さんが呟く。

 とりあえず私はお手洗いに、と断って席を立った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ