きつい
特定の服には、年齢制限がある。
何歳から何歳までと言うはっきりとしたものではなく、人の主観や着る人の見た目年齢によってかわるものだけど、年齢制限があると私は思ってる。
想像してほしい。三十代後半の二児か三児持ちで見た目バリバリの主婦、まさに誰かのお母さんって感じの女性が、学生の制服でセーラー服を着たとしよう。
皆さんどう思う?コスプレ?そういうプレイ……?とか、とにかく違和感を持つだろう。
他にも、腰が曲がっていて髪の毛は全部白髪で、手が震えてるような九十代の女性が、ナース服でしかもスカートを着ていたとして、その年でしかもスカートで仕事できるの!?むしろ看護される方では?転んで骨折しないように気をつけてね!というという気持ちになるだろう。
とにかく、服と人の組み合わせよっては、違和感、もしくは見苦しいい印象を他人にあたえてしまうものなのだ。
それ故に私は、曖昧にだけど服には年齢制限があると思ってる。
話を戻そう。
前情報として、私は三十代(これより細かくは言いませんよ。個人情報ですから)女性で、ちょっと自殺するぐらいにはいろいろあって、鏡で最後に自分を見た時なんか、年齢にそぐはないくらいに白髪が生えてたし、染めてもなかった。
もうね。ぱっと見、四、五十代、だったわ。しかもやつれて気味の悪い感じのね。
それがね。白地の膝上五、六センチのパーカーワンピで、お腹の部分についてる大きいポケットとフードに着いた猫耳、腰から背中にかけて描かれた長い一本の尻尾、それと裾と袖の部分が黒い生地(尻尾はプリント)になっている。
その下に厚手のタイツ、しかも灰色の肉球マークの柄付きを履いて、あとは怪獣サンダル黒(爪部分はちゃんと白い)を履くだけの恰好をしている。
なお、金の鈴付き黒リボンのチョーカーも、袋に入っていたが、断固拒否でつける気はない。
……なにこれなんて罰ゲーム?私まだ三十代だけどさ、美魔女とか童顔で十歳くらい若く見えるとか、そんなわけじゃないのよ?
明らかにおばさんが年不相応に可愛い子ぶってる?若い子ぶってる?な状態で、見苦しい以外の何物でもないの。
年齢制限にがっつり引っかかってるというか、もういろんな意味で突き抜けてイタイイターイ!な状態だから。
ねぇ、こんな格好してたら警察に職質されない?あ、此処が交番か。職質待ったなしどころかまっしぐらだわ。
顔を覆ってうずくまる。
濡れた服は今着てる服が入ってた袋に入ってるが、もう着れなくなっている。
脱ぐ前から少しスカートの裾が裂けていたのだが、脱いだ拍子に思い切りそこから縦に裂けてしまい、服としてはお亡くなりただの布なったからだ。
さらば、しま〇らでキュッパで買ったセットの喪服のワンピースよ。
コンコン
一体どうしたら……、そう悩んでる私にノックの音が聞こえた。
しかし、私にはどうすることもできない。
往生際が悪く十秒くらい間を開けて、小さくどうぞと答えた。
「サイズは大丈夫そうね。」
「まあ!よくお似合いですよ。」
私を見て頷く卯佐美さん、七尾さんは褒めてくださった。
……うん、あれだ。髪の毛と同じで私の幻覚なんだよ。この格好は幻覚で見てる物で、きっと現実ではマシな格好してるんだ。そうに違いない。
無理やり自分を納得さ、いや、本当に幻覚を見てるだけで本当はマシな格好だし、と思い込み、今度こそ病院にとにと意気込んでいると。
「うわあ、スゲー可愛い!先輩にしてはいいセンスしてんなぁ。」
七尾さんの後ろからひょこり、犬耳青年、あ、違う違う幻覚だった。翔君が現れた。
「私にしてはって、どういう事よあんた。あ、服の代金はあんただしなさいよ。あんたが手を出したんだから当然だからね。」
「金は別に構わねーけど、手を出したって、なんか語弊が……。」
「……翔が泣かせた。」
「怜司ぃ!お前まで悪乗りすんなよ!!」
フード付きの黒いローブの青年が、翔君の後ろでぼそりと呟き、翔君は俺に味方は居ねえのか!と騒いでいる。
今更だが、この黒ずくめの青年が怜司君なのだろう。
そういえば街中に居た時は、ずっと卯佐美さんの隣に佇んでいたけど、喋んなくて全然存在感がなかったな。
「なあ、あんた!そういえば名前なんていうんだ?あ、俺は翔、犬飼翔な。」
なんて、今更自己紹介をする翔君、いや、苗字で呼ぶか。犬飼君に、なんだかなぁと黙って見てると、卯佐美さんや怜司君を引っ張り。
「こっちのちっこい人が卯佐美心音先輩で、この黒ずくめが俺の親友の日比谷怜司だ。」
「ちっこい言うな。犬。」
「狼でーすー!」
犬飼君と卯佐美さんはわちゃわちゃと言い合いをしているが、日比谷君は二人のやり取りを真顔で、ん?目じりが少し下がってるかな?とにかく二人を見守ってるようだ。
「……緋璃、“神代”緋璃です。」
二人がまだ言い合いをしていたが、長くなりそうなので敢えて名乗った。
神代は旧姓だけど、他の苗字は取り上げられてしまったから、もう名乗れないもの。
「んじゃあまー、とりえず緋璃さ、飯食行かねー?」
「なに唐突にナンパしてんのよ。」
卯佐美さんが冷たい目で犬飼君を見て、日比谷君は無表情、というよりこの子はあまり表情が動かないのか。どことなくきょとんしてる感じだ。
と言うか、私も何故?このタイミングでと思ってる。
「翔君、神代さんって、何か事件に巻き込まれたからうちに連れてきたんじゃないの?」
「ん?わかんね。けど、もう昼過ぎてっから、お昼どうかなって思っただかだぜ。」
あら、七尾さんまで呆れ顔になってしまったわ。
犬飼君はされでも気にせずに。
「おやじには俺がわかってるとこまで話したし、交番で出前だと限られてっから、外の方がいいだろうなって。」
だから、行こうぜ。なんて言って私の返事も聞かず、部屋の外へと手を引っ張るものだから、慌ててサンダルを履く。
なんて、強引な……、と呆れつつ、抵抗する気も湧かないので、されるがままにされる。