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知らない東京

場面が戻ってPrologue2からの続きになります

「げほっ、がっ、う゛、ごほっごほっ!」


 急に息ができるようになった。

 座り込んだ状態で、地面に向かって咳き込む。


 誰かに浴槽から引き揚げられたんだろうか?それとアドレナリンのおかげか痛みがない。

 ……助かった?できれば助かりたくなかったのに。

 

 咳が落ち着いてきて、息を整え一体誰がと考えていると、ふと、変だと思った。

 顔に張り付いてて鬱陶しい前髪を払ったが、その髪の毛の色が可笑しい。

 青、いや、水色?空色?って言えばいいのかな?そんな奇抜な色になってる。


 なんだこれ?髪なんて染めた覚えなんてないのだけど?


「あの、おまぁ……ン゛ン゛ッ。君、大丈夫か?」


 髪の毛に気をとられていて、目の前に人がいるのに今気が付いた。

 声の主が助けてくれたの?誰?と思いながら顔を上げて、自分の髪の色以上に驚いた。


 そこには、見知らぬ青年がいた。

 彼の髪の色もオレンジという奇抜な色だが、まるで生まれた時からその色だったかのような、自然な印象を持つような奇麗な色合いだ。

 そんな彼の頭には耳が生えていた。それも人間の耳じゃない、犬や猫の様な三角の耳が。

 一瞬カチューシャか何かかと思ったけど、どうみても自然に生えてるようにしか見えない。


 慌てて周りを見渡せば、此処が風呂場ではなく、街中であることがわかった。が、遠目にこちらを見てる町の住人もおかしい。

 髪の色がやたらカラフルで、まるでアニメや漫画、ゲームの世界の様なカラーバリエーションだ。

 それと服装も、半数は普通の服装だが、残りがコスプレ衣装の様な妙な洋服を着ている。

 近くから、ツインテールのロリータ、フード付きの黒いローブを着こんだ魔法使い、忍者、東南アジアに居そうな露出の多い踊り子、魔女、特撮ヒーロー、リアルな熊の着ぐるみ、メイド、猟師、緑の肌の宇宙人ぽい何か……etc.

 目立つ格好はそんなものだが、後残りの妙な格好の人物は、一狩り行こうぜ!とか言いだしそうな、異世界ファンタジーの冒険者みたいな格好だ。


「なん……だ、此処。」


 街自体もよく見れば、日本の都会の街並みなのに、歩道や道路をぶち破り、見たこともない木がちらほらと生えてる。

 ずらりと並ぶ店の中には、数件だけ不自然に蔦が生い茂っていて、しかも明らかに照明ではない発光する花付き。

 ギリギリ変わった街並みと言えるし、観光地として売りに出されそうだが、こんな景色テレビで見たこともない。


「ん?此処?此処は渋谷だけど。」

「東京の?」


 オレンジの犬耳青年の言葉に、間髪入れずに聞き返した。

 渋谷なんて、東京を観光した時に行った事があったし、テレビでも映る時もある。が、決してこんな景色なんてなかったはず。


「おう、東京の渋谷、ダンジョン入口近くだ。」

「ダンジョン。」


 オウム返ししたが、正直言って受け入れきれてない。

 ダンジョンって、あのダンジョン?RPGゲームや、ファンタジー小説で出てくる。あの?

 つまりは、本当に一狩り行こうぜな状態なの?


 ……もう何が何だかわからない。

 自分は浴槽の中で自殺を試みたはずで、成功しているなら、此処は死後の世界と言うわけだけど、こんなのがあの世だとは思えない。と言うよりは思いたくない。

 もしくは、今わの際に見た幻覚か何か?

 いや、普通見るのは走馬灯だろうし、仮に別の記憶が混じってこんなものを見てるとしても、目の前の彼や、周りの人の統一感のないコスプレ衣装なんて、全く見覚えがない、矛盾する。


 カラン


 手から握っていたものが落ちた。

 落としてから、自分は何か持っていたのかと思いつつ、落ちたそれを拾い、見た。


 ……包丁の柄だ。貰い物で切れ味がいいから重宝していて、自殺の時にも使った包丁の。

 何故か根元からぽっきり折れ、柄だけになっているけど、切った時にはねたのだろう血飛沫の様な血痕も付いている。


 そして今更手首と首を確認すれば、傷や血痕、傷跡も何もないどころか、手なんて、皺の溝が少し深くなって乾燥してる見慣れた手ではなく、奇麗で色白の若い女の子の様な、別人のような手になっていた。

 髪といい、手といい、まるで別人に成り代わってしまったかのようで、現状が理解できない。


 私はキャパオーバーになってしまったのだろう。泣き出してしまった。


 ああ、何がどうなってるんだろう。私はただ、何も考えず、何も感じ、消えてしまいたかっただけなのに。


 声を出す気力はなく、目からぽろぽろと雫か勝手に落ちていく。

 すると目の前の犬耳青年が、慌てたような声を上げた。


「な!ちょ!どっか(いて)ぇのか!?それとも俺が柄悪くて怖かったんか?……あ゛あ゛あ゛!?ロリ先輩見てないで助けてくれよ!」

「だからロリ言うな!この駄犬!」

「俺は犬じゃね。狼だ!」

「だいたい、自分の手に余るくらいなら、最初から話しかけてんじゃないわよ!!」


 だって……。だってもへったくれもないわよ!!などと、なにやら頭上で何やらコントが繰り広げられてる気がする。

 そんな事よりこれからどうしよう。どうしたらいい?……ずぶ濡れなせいか寒い、何もしたくない。

 ああそもそも、ここはどこ?私の知ってる東京じゃない。どうなってるの?



「……なぁ、とりあえずこれ羽織んなよ。」


少しして、やりとり(コント)が済んだのか犬耳青年がそう声を掛け、私の頭ごと体に何か布を掛けた。

 その布、どうやら薄手のコートのようだ。その端を掴んで、空いてる方の腕で目を拭うと、気まずそうな顔をしながら、彼はしゃがんで私に話しかけ続けた。


「その、事情は分かんねーけど、なんか困ってんだろ?俺らで良ければ手ぇ貸すぜ?」


 言葉遣いは少し荒いものの、声色は優しく、こんな若い子に気を遣わせてしまうなんて、恥ずかしく思う。

 そもそも、こんな人が行き来する街中で、いい年して泣き出すなんて……。


「ごめんなさい。」

「謝んなよ。いや、じゃなくて、謝んなくていいんだ。とにかく場所変えような。」


 彼が立ち上がってそっと手を差し伸べてくれた。一瞬ためらったが、手を取り立ち上がる。

 彼が貸してくれたコートを改めて着ると、少し大きかった。

 彼のコートなのだろう。ああ、濡らしてしまって申し訳なく思う。


 なにからなにまで情けないなぁ。

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