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ちょこれーとりりぃ  作者: くろゆりなお
5/7

それが夢であったなら

第2話です。

 あの日から僕の近くには自分にしか分からない、自分でも分からない何かは、ずっと僕の近くに居続けている。朝起きた時も、実紅との登下校中も、ご飯を食べる時も、お風呂をに入る時も、僕が誰と何をしていようが四六時中僕のそばに居続けている。

 しかし、何かをするわけでもない。話しかけてくるわけでもない。ただそこに存在し続けて僕のことを見守っているようだ。いや、監視しているのかもしれない。1週間前、同級生を罵倒し殴りつけた僕への罰なのだ。

ただ、分からないなりにも少しだけ理解できることがあった。これを自覚した時は暗い影がうごめいているような形の曖昧なものだったが、今は人型で僕と同じくらいの身長の男の子であること。声は発さず、表情も読み取れないこと。そしてこれは現実世界にいるものではなく頭の中に居続けていること。

 これは僕だけがおかしいのだ。きっと誰にも理解されないだろう。ひどい苦痛だった。四六時中見られ続ける感覚がするなんて泣き叫びたいほど不愉快だ。それでも誰かにそのことを相談したいとは思わない。思えないの方が正しいか。そもそも『みんなと違う』ということはなんだか頭がおかしいようで恥ずかしくて相談することもできないし、相談したことでまた変な目でみられるのはもっといやだと考えてしまった。

 暗い気持ちに押しつぶされ立ち上がれないでいる僕に陰気な空気を取り払うような明るい声で実紅が声をかけてきた。

「ナオ君!一緒に帰ろう!!!!」

 友達のいない僕に声をかけるなんて、今や実紅くらいしかいないのではなかろうか。あ、ちょっと心折れそう泣きたくなってきた。

「うん。一緒に帰ろう」

 惨めな気持ちを悟られぬように簡潔にそう答えると僕と実紅は教室を出た。

 実紅とは下校の時も一緒で、毎日家に着くまでの道のりでは授業であったこと、体育の時間珍しく活躍したことなど、他愛もない話を絶え間なく楽しそうに、時に笑い過ぎて会話困難になるほど楽しそうに話してくれる。僕もその話にノッたり、一緒に笑ったり愉快な時間を謳歌していた。この時間が当たり前だと思っていた。だから、実紅といる時間になんとも思ってなかった。でも今となっては大切な時間なんだと気づかされた。実紅と一緒にいる時だけはいじめられていることも、何かに監視されている気がすることも、つらいことは全部忘れて心から笑うことができたのだから。今日もその楽しい時間に誘ってもらえたと思うと心がドキドキして落ち付かなかない。


 教室を出ると小難しい表情の担任、小倉先生とすれ違う。形式的にもと「さようなら」と、挨拶の言葉を贈ると小倉先生は目だけをこちらに向けて無言。そのまま教室に入っていった。

「最近の小倉先生変な感じだね…」

 小倉先生が入っていった教室の扉を眺めつつ訝しんだ表情の実紅がそう呟いた。

 1週間前からずっとこのような感じで無視をされる。この対応をするのは僕にだけでほかの生徒には普段通り接している。それでも以前のような元気でユーモアのある先生という印象は薄れるほど元気がなく、授業にも集中していないことがしばしば見受けられた。保健の先生曰く「私に叱られて悔しくて八つ当たりしているから気にしなくていいわ。反面教師…ああいう大人にならないように目に焼き付けときなさい」とのことだった。大人はもっと大人っぽいものかと思っていたけれど、なんだか子供みたいな人もいるんだな。ほんとに免許持ってるのこの人?


 小倉先生の行動に幻滅しながらも、3階から2階へと降り、2階から1階に下りる階段の途中、急に膝の感覚がなくなり、気が付いた時には階段から足を踏みはずしていて踊り場から1階まで転がるように落ちていった。全身が痛い。重い荷物を持っているのかと錯覚するくらい体が重い。指一本動かすことができない。かすかに聞こえる笑い声。実紅?違う。ただ女子と男子のあざけるような笑い声と、心配そうに駆け寄る実紅の声がする。


 どうしてこんなことになったのだろう。

 僕は今まで何も悪いことなんてしてなかったのに

 どうしてこんないじめられなくちゃいけないの。

 死ぬのかな。

 あぁ…つらい。ここで死ねたら最高に気持ちがいいな…


 薄れる意識の中で僕はそんなことを考えていた。

 --------------------------------------------


「そんなことないナオ君にもいいとこあるよ!朝パンくれるし手つないでくれるし優しいもん!」

 女子が言い争っている声がする。責められているのは実紅のようで、今にも泣きそうな声をしている。らしくないなんて思っていた

「優しいなら隼君もだよ!それに足も速くてかっこいいもん!!だから隼君じゃない男子の事好きなんておかしいよ!」

「それにナオタカなんてただの人間じゃん!」

「あ、うぅ…」

 みんなただの人間じゃね?とか思いつつ、見るに見かねて僕は実紅のいる教室に入っていった。

「友達として人を大事に思う気持ちに何が違うの?ミクちゃんも君もそこに何の違いもないと思う!」

 テレビドラマの受け売りだけどそれっぽいことを言って心の中で決め顔をしている。え、ちょっとかっこいいんじゃないですか僕。

「隼君はかっこいいけどナオタカはかっこよくないから趣味が悪いって話なの!関係ないんだから出ていきなさいよ」

「そーよ!出てけよブサイク」

 酷過ぎませんかねぇ…正直な話、自分がイケメンかブサイクかなんて考えたこともなかったけれど馬鹿にされるのは納得いかない。それに僕の悪口目の前で言いつつ関係ないとは何事よ。頭おかしいのではないか。女子こっわ。

「そんなにブサイクが嫌なら僕に直接言えばよかっただろ!男子に悪口言えないからってミクちゃんを馬鹿にするお前は性格も悪いんだよ!」

「はぁ??」

「他人と自分の考えている事が一緒じゃないって分からない君が偉そうに人の悪口言うんじゃないよ!!」

 怒りが収まらなくて続けて僕はそう言い放つと実紅の手を取り教室を出た。背後からは大きな鳴き声と「先生に言いつけてやる」というよくある宣言と可愛い子ぶった可愛い鳴き声それに同情する複数の男女の声。

 そうか。思えばこの時からちょっかいかけられることが増えたんだっけ…


「…ナオ君…ナオ君!」


 どこか遠くから実紅の声が聞こえてきた。その声を聴いた途端に意識が朦朧としてきた。ふっと床に倒れこみ視界が暗転する。



 ---------------------------------------------


 目を覚ますとそこは見慣れない天井に蛍光灯、周りを見渡すと薄ピンクのカーテンで仕切られていた。

 ここは保健室か。どうして僕はこんなところで寝てるんだ?全身痛いし何も思い出せない…

 妙に硬いベッドから起き上がると自分のものとは別に衣擦れする音がして、カーテンの奥からコツコツと靴の音が近づいてきた。カーテンに手がかけられ開けられるとそこには保健の先生が立っていた。

「やぁおはよう直孝君。頭の調子はどうかしら??」

 頭?なんのことだ?馬鹿だって言いたいのか?

「階段から落ちて頭を強く打っちゃったみたいなの。その場で気絶してたところを実紅ちゃんが私を呼んできてくれたのよ」

 理解していないことをくみ取ったのか保健の先生は話を続けてくれた。

「あぁ…」

 上手く言葉が出せず吐息を漏らすことしかできなかった

「一応頭のことだし心配だからお母さんに連絡して迎えに来てもらうことになったからね。もうすぐ来るわよ~」

 ママが来てくれる。そう思うだけで少しほっとしたような気がした。

「ミクちゃんは?」

 気持ちが落ち着いてくると同時に回っていなかった呂律も回ってくるようになってきて、聞きたかったことを言葉に出せるようになってきた。

「実紅ちゃんは先に帰ってもらったの!お母さんが来るからって言ってね。その代わりに体調悪くて寝込んでたお友達の侑里ちゃんの送迎を任せちゃった~」

 あぁユリちゃん…方向音痴のミクちゃんをどうか家に連れてってくれ…体調不良なのにごめん…ホントにごめん

「それと詳しい話は実紅ちゃんから聞いたわ~!誰かに突き落とされたんですって?」

「そうみたい…急に膝の力が抜けて…」

 そこで一つ疑問に思い問いかける

「ねぇ。ミクちゃんは落とされてないんでしょ?誰がやったか見てたんじゃないの?」

「実紅ちゃんも誰がやったかちゃんと見る前にあなたに駆け付けたみたい可愛いところあるじゃな~い最高ね!!」

 どこか嬉しそうに話す保健の先生の目は輝いていた。頭打ってんのこの人じゃね?

「でもあの時間残ってた生徒も多くないし私の方で誰が残ってたのかいろんな先生に聞いてみるわ~」

「うん。ありがとございまぁ」

 急に真剣な表情で話を続ける先生にお礼を告げた。


 ピンポンパンポーン

『3年3組堀江直孝君。職員玄関まで来てください』


「さ、お母さんが来たみたい。一緒に行きましょうか」

 そのまま僕たちは荷物をまとめてからママの待っている職員玄関へ向かった。


 ---------------------------------------------


 車の中では僕の知らないアイドルグループの曲が流れている。目的地は近所の大型の病院だ。保健の先生から、足元がおぼつかないことや、直近で頭へのけがが多かったことから念の為に行くようにと言い渡されたのだ。

 運転席に座るママの表情は暗く、事情を説明できる雰囲気ではなかった。機嫌が悪そうなときに話しかけると怒鳴られるのは経験済みだから同じ過ちは繰り返さないでおこう。

 もうすぐ病院に着くというところで運転席にいるママから助手席に座る僕へ声をかけられた。

「今日はどうしたの?階段から落ちるなんて。この前も頭をけがして帰ってきたし」

 唐突なことに驚きを隠せない。ありのまま答えてよいのだろうか。僕のことを心配しているのだろうか

「誰かに突き落とされたの。この前のけがは康太と隼に石を投げられた」

 少しの間を開けて簡潔に答える。長いと怒られるから

「あぁあのクソガキどもか…あんまお金ないんだからケガしないように上手くやんなさい」

「うん」

 そうか。この人が心配してるのは僕じゃなくてお金か…でも…ねぇ…もう少し僕の心配をしてくれても良いんじゃないかな…


そう思っても口には出さない。表情にも出さない。言ったら嫌な顔をするから。言ったら怒られるから。だから僕は気持ちを隠して良い子を演じなければ。都合の良い子を。

誤字脱字報告、感想、ブクマよろしくお願いします。

活動記録も併せて読んでいただけると嬉しいです!!

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