それはまるで悪夢のような2/3
前回の続きになります!
6月のじめじめした空気が肌をべたつかせ、不快感を与え続けている。気温が高いわけではなのに歩くたびに汗が額ににじむ。
「帽子暑いね…」
「黄色い帽子かぶってても車に轢かれちゃいそうだよねぇ…」
かみ合ってそうでかみ合ってない他愛もない言葉を交わしながら学校までの道を進んでいく。
吹く風は生ぬるく、汗ばんだ全身を舐めるように僕を包んでいく。車を眺めながら歩いている実紅も風が吹くたび不愉快そうな顔を浮かべている。持ち歩ける扇風機発明したら売れそうだな…
僕や実紅の通う学校は家との間に大きな線路が通っていて、通学路には駅を抜けるルートが設定されている。そのためどの時間になっても通学路から人がいなくなることは滅多にない。ただ、通勤ラッシュや登校ラッシュを過ぎた今は、周りには学校の生徒の姿はなく、ラッシュを避けたのか下を向きながらせかせか歩くサラリーマンや、散歩をしているお年寄りががチラホラといるだけだった。
「もしかしたら僕とミクちゃんが1番後ろなのかな」
「遅刻するわけじゃないし学校につけば問題ないよ」
たくましいセリフを吐きつつ車を眺めすぎて道路の方に吸い寄せられている実紅の手を引っ張り続けながらも学校に向けて歩を進めていた。
駅を出るとすぐにマルエ〇というスーパーがあり開店準備をしていた。難しい漢字は読めなかったがなにやらセールが始まるらしい。母もよくここでパンをまとめ買いをしてる。
「今お店が開けば朝ご飯買えるのに…」
手を握る実紅の握力がどんどん強くなるのを感じる。そんなに朝ごはん食べたっかたのね…早起きしなさいよ…冗談でも「今お金持ってないから買えないじゃん」「早起きすればよいじゃん」と言おうものならタコ殴りにされるだろう。黙っていよう。
「いま早起きすれば良いのにとか思った?」
え、そっちからこの話題引っ張るの?ていうかなんでわかったの?エスパーなの??
「い、いや僕もパン1つじゃ足りないから買いたいなって思ってたの」
完璧だ。図星だったのを悟られないように真顔で切り返せた。
「わたしは食べてないけどね」
もう許して神様。
駅前のお店が立ち並ぶ区画から直線の遊歩道も奥まで進むと景色は住宅街に代わっていく。さらに奥まで進めば近所公園という大きな公園がある。その直前の道を左に曲がれば学校に着く。学校と道路を挟んだ隣に公園があることから放課後は小学生で大賑わいの公園だ。
「今日の放課後ここで遊ばない?」
「遊ぶなら家の近くの公園にしようよ。誰もいないし」
実紅からの提案に僕は半分賛成した。
「みんなと遊ぶのも楽しいよ!だってまだ」
「ミクちゃんと遊べればそれでいいよ僕は…」
ぼくは実紅の言葉をさえぎるようにそう答える。すると、不意に後方から子どものこぶしくらいの大きさの石が転がってきた。僕たちのように班に置いて行かれた誰かが石を蹴って遊んでいるのかと思い気に留めることはなかったが、その直後、後頭部に激しい痛みを覚えた。あまりの痛さに僕は倒れこんでしまう。
「やったぜ!!大当たり!!!」
「頭だから500億万点だ!!」
「やーい雑魚!帰れ!学校に来るな!!」
「待ち伏せしてまで待った甲斐あったな」
激しい痛みに耐えているときに聞こえてきたその声は同学年で同じクラスの男子の佐々木康太と中田隼の2人組のものだった。
痛がっている僕の姿を見て満足したのか2人は口々に覚えたての言葉で「死ね」「カス」「弱虫」「デブ」と僕の悪口を言いながら遠ざかっていく。デブはてめぇだ佐々木康太…
「だ、大丈夫?」
あまりの出来事に驚いていた実紅が心配そうに声をかけてきた。
「うん…何とか…でもこういうことがあるからやっぱり遊ぶなら家の近くがいいかな…」
「うん…ごめん…」
違う。謝ってほしいんじゃない。謝るのは実紅じゃなくてあいつら2人だ…
すると汗とは違う何かの感触が耳とうなじ、額の3方向に分かれて滴ってきていた。石が当たったところを恐る恐る触ってみると確かに液体の感触がそこにはあった。
「ふぇっ!?!?血ぃぃぃ!?!?」
僕が手に着いた液体の正体を確認するよりも前に実紅の間抜けな声が住宅街にこだまする。
「早く学校行こう!そんで保健室に!!!ぐすっ」
慌てふためく実紅の目には涙がたまっていた。泣くのもホントは僕の反応のはずなんだけどなぁ。そんなことを思いつつ「うん」とだけ答えて学校に向かった。
それから学校に着くまでのわずかの間、どのように仕返ししてやろうかということで僕の頭の中はいっぱいになっていた。実紅が気を紛らわそうとたくさん何かを話してくれていたがなにを話していたのか気にすることもできなかった。それはきっと頭から血が出てるせいだ。仕方ない。
学校に着くと朝の会5分前の予鈴が鳴った。そこで僕は一つとっておきの晒上げる方法を思いついた
保健室に行かずに朝の会で僕が誰に何をされたのか説明して佐々木康太と中田隼の2人を晒しものにしてやろう!実紅とも幸い同じクラスだし2人で説明すれば信じてくれるだろう。
「ミクちゃん。耳貸して!!」
実紅にもこの方法を説明すると少し驚いていたが少しの間をおいて了承してくれた。
教室の前まで行くとすでに担任の小倉先生がいて、女子と何かを楽しげに話している。小倉先生は別の学校から来た先生でこの学校では今年が1年目になる。ほかの先生に比べると若くて面白く、運動も得意ということから男子女子ともに人気がある人物だ。ただ熱血に振り切れる時があり話が通じないことがあることが難点だが、男子からはそれも面白いと、女子からはかっこいいと言われている。馬鹿じゃねぇの?と僕は思っているけれど。
ドアを開けると真っ先に先生がおはようと挨拶をくれる。すると僕の様子に気づいてすぐに駆け寄ってきてくれた。その表情は心配そうなだけどどこか怒りを帯びているように感じた。
きっと僕の今を心配していて、これをやった誰かに怒ってくれてるんだ。これで僕が本当のことを伝えればあの2人を叱ってくれる…
しかし、安心したのも束の間、僕の左頬に痛みが生じた。気づくと僕は地面に倒れていて、実紅がそばに駆け寄ってきてくれていた。
「何事だ!!それじゃ廊下も教室も血まみれになるだろ!!さっさと保健室に行ってこい!何を考えてるんだ馬鹿者!!」
「これは登校ちゅ」
「言い訳は聞かん!!さっさと行け!!」
僕の言葉をさえぎって大声で怒鳴られ僕は悲しみと悔しさの涙をぐっとこらえ立ち上がる。心配してたのは学校が汚れていること、怒っていたのは僕にだったのか…
くすくすと陰で笑っている声が聞こえる教室を後にする。実紅もついてこようとしたが「実紅ちゃんは教室にいて大丈夫だよ」と先生に取り押さえられていた。それから僕に聞こえるような大きな声で「あんなバカみたいなことを皆さんはしないように気をつけましょうね!!」それに対してクラスのみんなが大笑いをしていた。その笑い声は教室に、廊下に、そして僕の心に重く強く響き渡っていた。
悔しい。被害者の僕が何でこんなに惨めな思いをしなくてはならない。なんで悪者のような扱いを受けなくてはならない…ふざけるな…
1階にある保健室に向けて、3階の教室から階段を使って降りていると後ろから小倉先生の声がきこえてきた。
「おい!堀江!!てめぇがまき散らしたこの血!!拭き取っとけよ!!それとお前が授業に遅れる分だけ宿題増やすからな!!!」
ふざけんなよロリコン教師。
その言葉に返事をすることなく、心の内で悪態を吐きつつ悲しみの涙を流しながら僕は保健室に入っていった。
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